まとめサイトの法的な位置づけ
弁護士ドットコムが、まとめサイトの法的な位置づけと、引用に関する裁判例の新しい動きについての記事を書いていました。興味深い記事だったのでピックアップ。
これまでに何度か紹介してきましたが、「無断転載が法的にOKとなるかどうか」は「引用」と認められるかどうかで決まります。引用とは、合法的な無断転載のこと。「引用」の条件を満たしていれば、著作者の許諾がなくても、禁止だと言われていたとしても、コピペできてしまうってことです。
美術鑑定書事件判決
引用の成立条件については、過去の裁判例や文化庁の指針などが参考となります。弁護士ドットコムは、裁判例の新しい傾向について紹介をしています。
2010年10月13日、知的財産高等裁判所が出した「美術鑑定書事件」判決は、細かい条件を満たすかどうかという杓子定規的な判断基準ではなく、具体的・個別的に柔軟に総合衡量していくという基準を打ち出しているそうです。
著作物かどうかを問題にしていない
特に注目したいのが、「利用者の作品が著作物といえるかどうか」を問題としていないという点。
NAVERまとめをイメージすると分かりやすかもしれません。引用部分抜きでは「著作物」(作品)として認められないような記事であっても、引用が成立しうるってこと。2010年というと「キュレーション」サイトがまだあまりなかった時代でしょうけど…「単なるまとめ」であっても法的にセーフとなる可能性があるとなると、ネット社会に及ぼす影響は相当大きいように思えます。
2010年判決は、著作権者に及ぼす影響の有無・程度についても言及しています。無断転載されてもそんなに影響がないって場合には、引用として認められる可能性があるってことでしょうか。この解釈でただしいとするのであれば、「引用」が認められる範囲は飛躍的に拡大しそうな気もします。
先日、クソバイラルメディアによる無断転載が問題となりましたが、やり方によってはグレーゾーンに持ち込むことも可能…?(先日のケースは、明らかに著作権者に及ぼす影響が大きかったのでアレですが…)
ネットの在り方が変わって、新しいスタイルのサイトが増えてきています。判例の集積を待つしかないのが現状ですが、個人的には著作権法について一度議論・検討をして、改正を目指していくべきではないかと考えています。著作権者も文句を言っていいのか分からないし、利用者側もセーフなのかアウトなのか分からない。こういう状態は好ましくないはず。
記事引用
――他人の画像や文章を使って「まとめ記事」を作り、それを公開することに、問題はないのでしょうか?
「ネット上に存在する、他人が作った文章や画像は、ほぼすべて『著作物』に該当します。
著作物は、著作権法で保護されています。自分のサイトに使う場合は、著作権者の許可が必要です。許可がないのに『まとめ』に使えば、違法となる可能性があります。
ただし、中には『まとめ』に自分の作ったものが使われて『拡散』することを喜ぶ人もいると思います。ケースバイケースですが、そのような場合は、明確に許可を取らなくても、黙示の許諾があったと評価できる場合はありますね」
――「まとめ記事」のすべてが、そうした許可をもらっているとは思えないのですが・・・。
「許諾以外の法律構成を考えてみましょう。著作権法32条1項には『公表された著作物は、引用して利用することができる』と書いてあります。
自由な言論や批判・批評を行うことができるようにするために、『引用』に当たる場合は『許可が不要』とされているのです。
したがって、もし、文章や画像の利用が、著作権法上の『引用』として行われたのであれば、著作権者の許可がなくても、利用は可能です」
●「引用」が認められる条件とは?
――まとめ記事の記述が「引用」かどうかは、どのように判断されるのですか?
「著作権法32条1項は、『公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない』と規定しています。
これをクリアするための条件、つまり正当な『引用』と言えるかどうかの条件は、伝統的には次の5つだと言われてきました。
(1)引用する対象が『公表された著作物』であること
(2)利用者の作品も『著作物』であること
(3)利用者の作品と、引用される著作物が明瞭に区別されていること(明瞭な区別)
(4)利用者の作品が「主」、引用される著作物が「従」となっていること(主従関係)
(5)どこから引用されたのかを明確にすること(出所の明示)」
――まとめ記事に当てはめて考えると、どうなりますか?
「『まとめ記事』は、そのほとんどが他人が作った著作物で構成されていることが多いですから、(2)の点、つまり利用者の作品自体が『著作物』といえるかが、争点となりそうです。
また、(4)の『主従関係』の条件を満たすのかという点も問題になりそうです」
●著作物の「引用」をめぐる新しい判例
――この基準だと、多くの「まとめ」は「引用」と認められないのでは?
「伝統的な基準によると、『引用』と認められるかどうかは難しい点がありますね。しかし、最近では判例に新たな動きが出てきています。
代表的なのは、2010年10月13日に、知的財産高等裁判所が出した判決です。専門家の間では、『美術鑑定書事件』として知られています」
――その判決で示された基準とはどういうものですか?
「簡単にいうと、引用がきちんと成立しているかどうかは、次の4つの要素によって決めるという判断です。
(1)利用の目的
(2)利用の方法・態様
(3)利用される著作物の種類や性質
(4)著作権者に及ぼす影響の有無・程度」
――伝統的な基準と何が違うのですか?
「伝統的な基準と異なり、利用者の作品が『著作物』といえるかは問題としていません。また、細かく条件を定めるのではなく、総合的に事情を考慮して判断する形になっていますね。
この判決からは、『引用』を認める範囲について、個別具体的に、柔軟に対応するのだという、裁判所の方針を読み取ることができます」
――新しい基準によれば、まとめ記事が「引用」と認められる範囲も広くなるのでしょうか?
「そうですね。ただ、この基準が示されてから、まだそれほどの時間が経過していないため、各要素を具体的に判断している判例が十分に積み重なっていないのが現状です。
『引用』が認められるかは、すべて個別具体的な判断ですから、実際に裁判で争われて結論が出るまでは、違法かどうか厳密には決まりません。常にグレーゾーンです。
また、著作権侵害事件の問題として、『損害』の認定額が低額に留まることが多く、費用をかけて裁判まで行うことがあまりないため、裁判所による判断がされるところまでなかなか行き着かないという現実があります」
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