年明けから暴れていた東京市場が今日は落ち着いていたので、ちょっと息抜きな記事です。
最近は他人に本を薦めるのも命がけのような時期ですが、せっかくですので世界史を題材にしたコミックから、おすすめの作品をあげてみます。
そこまでマイナーではないけれど、かといってメジャーでもない、作品です。
現在連載中であることと、Kindleでも読めることを条件に並べています。
というわけで、最初に伊藤悠の『シュトヘル』から。
皇国の守護者のコミカライズが好評だった作者による作品です。
舞台は13世紀初頭の東アジア。西夏文字を憎みこの地上から抹殺させるべく動くモンゴルの大ハンから、西夏文字を護るべく逃避行を続ける、大ハンの血を引く少年ユルールとその仲間たちの物語を中心に、様々な人物の思惑が交錯する群像劇です。
もっとも純粋な歴史物とは違いかなりファンタジーの要素も含まれています。
主人公は現代日本に生きる男子高校生須藤くんなのですが、彼がタイムトリップし、シュトヘル(悪霊)と呼ばれる女戦士に乗り移るという、トランスセクシャルな恋愛なんだか友情なんだかわからない要素もあり。
この作品の特徴として、大ハンとか宋の皇帝とか、読んでいくとすぐにあの人だとわかるのですが、歴史上の著名な人名を直接出すことを、基本的に避けています。
ただひとり、メインの著名な登場人物の中でチンギス・ハンの末子のトルイだけが実名で登場しており、なにか意味があるのかもしれません。
西夏文字といえば井上靖の『敦煌』を思い出すのですが、タイプは違うとはいえシュトヘルもまた文字への強い憧憬と西域浪漫を呼び起こさせる要素を持っています。
続いては大西巷一『乙女戦争(ディーヴチー・ヴァールカ)』を。
乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ : 1 (アクションコミックス)
- 作者: 大西巷一
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2014/04/30
- メディア: Kindle版
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16世紀の中央ヨーロッパで起こったフス戦争を舞台にした作品です。
アフタヌーンでデビューした頃から結構コア(?)な作風なのですが、作者の作品の中ではかなり一般向けな内容となっています。
最初に火器が表舞台に出たといわれるフス戦争ですが、日本ではマイナーな題材です。
ですが、大半が主役の一般人の少女シャールカ視点であり、彼女と周りの会話でそこはうまく説明されているので、あまり西洋史に詳しくない人でもそれほど抵抗はない....はずです。
また、名将ヤン・ジェシカをはじめ、神聖ローマ皇帝ジギスムンドやその妻バルバラなど、歴史上の登場人物たちがキャッチーなキャラクターで描かれています。
とはいえ登場人物は容赦なく死亡しますし、なによりエログロ系が得意(???)ともあって、○○が××されるのは当たり前、□□□□や△△シーンなどもあり、絵柄は昔と比べてかわいらしくなっていっても大西さんは大西さんなので、ちょっと人を選ぶ作品ではあります。
ただ単なる趣向というわけではなく、むしろ宗教がらみの戦争を扱う題材としては甘くなくリアリティを持たせている要素となっています。
個人的に『純潔のマリア』や『D’arc~ジャンヌ・ダルク伝』(未完どころではないですが)と並べて読みたい作品です。
最後は夏達『長歌行』です。
美麗な絵を描く中国の漫画家の作品で、玄武門の変で父李建成を叔父である唐の太宗李世民に殺された永寧姫こと、李長歌の流浪と復讐を描いた貴種流離譚です。
タイトルからも武侠的な雰囲気が強く、主人公たる李長歌も腕が立つ上に謀略の才もある美少女剣士です。
二転三転するストーリーに、長安から朔州、塞外、 そしてまた....という先の読めない展開。
そして唐を代表する李世民の家臣たち、魏徴や尉遅敬徳、房玄齢から、果ては予言で有名な李淳風までが脇役で登場しています。
武侠的と書きましたが、日本で翻訳の進んでいる金庸よりも梁羽生のような感じでしょうか。それにアジア的なアクションの派手さがあるわけではなく、前作の『子不語』にもあったような、情景を描きながらもどこか突き放した感じは日本の時代小説に近いかもしれません。
日本と中国とで連載されていて、日本ではウルトラジャンプでの掲載。ただ日本では単行本の刊行が遅れていましたものの、今月の一度に5,6巻が同時発売される予定。
世界史マンガといえば、
本筋とは関係ないあの一コマが有名になってしまった『ヒストリエ』
ヤングジャンプの看板としてNHKでアニメ化もされている『キングダム』
長い長い序章を終えてようやく本編が始まる『ヴィンランド・サガ』
こういった作品の方が、ずっと人に薦めやすいですし、私も愛読しているのですが、 もし機会があれば上で紹介した作品も読んでみてください。
電子書籍なら本棚を圧迫しないですからね。