千葉雄高 清水大輔
2015年1月10日01時34分
慰安婦問題の記事を書いた元朝日新聞記者の植村隆氏(56)=北星学園大非常勤講師=が、「記事は捏造(ねつぞう)だ」との批判を繰り返され名誉を傷つけられたとして、西岡力・東京基督教大学教授と週刊文春を発行する文芸春秋に計1650万円の損害賠償などを求める訴訟を9日、東京地裁に起こした。
訴状によると、植村氏は1991年、韓国の元慰安婦の証言を記事化。8月に「元朝鮮人従軍慰安婦 戦後半世紀重い口開く」、12月に「かえらぬ青春 恨の半生」などの見出しで掲載された。
これらの記事について西岡氏は雑誌などで、①「女子挺身(ていしん)隊の名で連行された」と書いているが、その事実はなく、経歴を勝手に作った②元慰安婦がキーセン(妓生)の育成学校にいた経歴が書かれておらず、身売りされて慰安婦になった事実に触れずに、強制連行があったかのように書いた③植村氏の義母は、元慰安婦らが日本政府を訴えた裁判の韓国の支援団体幹部で、結果的に裁判が有利になる捏造記事を書いた、などと指摘した。
週刊文春は昨年、「“慰安婦捏造”朝日新聞記者がお嬢様女子大教授に」との見出しの記事などを掲載した。「捏造記事と言っても過言ではない」との西岡氏の発言も載せた。
訴状で植村氏側は、①当時の韓国では慰安婦を指す言葉として「女子挺身隊」が用いられていた②キーセン学校に触れなかったのは、慰安婦になったことと直接関係がなかったため③取材の端緒はソウル支局長からの情報であり、指摘された事実はない、などと主張。「捏造といういわれなき中傷を流布され、これに触発された人々から『言論テロ』とも言うべき激しいバッシングを受けた」とした。
植村氏の記事について、朝日新聞社の慰安婦報道を検証した第三者委員会は昨年12月、「縁戚関係者を利する目的で事実をねじ曲げた記事が作成されたとはいえない」とした。一方、「強制的に連行されたという印象を与え、安易かつ不用意な記載があった」などと指摘した。(千葉雄高)
■「家族への攻撃耐えられない」
「家族がまきこまれるのは耐えられない」。23年前に自分が書いた2本の記事が「捏造(ねつぞう)」と批判され続け、家族や周辺まで攻撃が及ぶ。9日、東京・霞が関で記者会見した植村隆氏は苦しい心中を明かした。「私の人権、家族の人権、勤務先の安全を守る」と訴えた。
植村氏は、西岡力氏と週刊文春が自身の記事を集中的に取り上げるのは「狙い撃ち」だと批判。17歳の長女の写真がネット上にさらされ、「売国奴の娘」「自殺に追い込む」などと中傷されている状況に触れて、「悔しくてならない」「まるで白いシーツに黒いしみが広がっていくような気持ちでつらい」と話した。
今回、代理人に170人近い弁護士が名を連ね、札幌地裁でも名誉毀損(きそん)訴訟を起こすという。植村氏は「私は捏造記者ではありません。不当なバッシングには屈しません」と語った。(清水大輔)
◇
〈週刊文春編集部の話〉 記事には十分な自信を持っている。
〈西岡力・東京基督教大学教授の話〉 訴状を見ないと詳しいことは分からないが、私が書いていることは、憲法が保障する「言論の自由」の中だと思っている。言論同士で論争すればよいと思うのに、裁判を起こされたのは残念だ。
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