新年度予算案編成で、社会保障や福祉への切り込みが続いている。社会保障関係予算は今年度30・5兆円。毎年約1兆円ずつ増えており、巨額の赤字を抱える財政状況への目配りは欠かせない。だが、目先の抑制に走れば、しわ寄せは弱者に及び、自立を妨げることになりかねない。予算全体を見渡した節減を考えるべきではないか。

 論議が進むのが生活保護費のうち家賃に当たる「住宅扶助」の引き下げと、障害者に福祉サービスを提供する事業者に支払う報酬の引き下げだ。

 住宅扶助のうち、国の負担分は約5千億円。個々の世帯への支給上限額は地域ごとに決まっており、例えば東京23区の単身世帯なら月5万3700円だ。

 引き下げを主張する財務省は、低所得層(世帯収入300万円未満)の平均家賃より、住宅扶助の上限が2割高いことを引き下げの理由にしている。

 しかし、家賃も住宅事情も地域によって大きく異なる。平均の数値では実情はつかめない。実際、生活保護受給者や支援団体からは「今の金額でも家を探すのが大変」「家賃の一部を『共益費』などの名目にして、生活扶助からあてている」といった声があがる。

 生活保護の不正受給などに目を光らせるのは当然である。しかし、家賃が払えずに転居を迫られるような事態は防がなければならない。高齢者や子どもがいる世帯では人間関係が切れたり健康が悪化したりする恐れがある、との指摘もある。

 一方、障害福祉サービスの国の負担分は約9千億円。1%程度の引き下げが論議されてきた。こちらは、障害福祉サービスを担う事業者の平均収支差率(企業で言えば利益率)が高いことが理由になっている。

 しかし、これも、小規模で財政基盤が弱い事業者は経営に行き詰まる恐れがある。もし事業者がなくなれば、障害者の日常生活に支障をきたす。

 障害福祉サービスは3年に1度の報酬見直し(今年4月実施予定)に合わせての引き下げだ。介護保険の報酬引き下げと同様の発想であり、予算全体を見渡しての判断とは到底、言えまい。

 生活保護も、障害福祉も、「声」が大きくないから切りやすいということではないのか。

 雇用の非正規化や失業による貧困、突然の事故による障害は、人を選ばない。そのために、国は生活保護や障害福祉サービスを構えている。こうした「公助」の安定や充実は、国民の安心につながるはずだ。