2015-01-09
京都アニメーションはなぜ回すのか? 「さすがの猿飛」をみよ!
最初に断っておくと、これはトンデモ理論の類かもしれない。資料も少なく、証言も取れていない。「もし、そうだったら面白いな」というレベルの小話だ。
さて、つきましては京都アニメーション。よく回す。どうしてだか回転大好き。『けいおん!!』『日常』『中二病でも恋がしたい!戀』それぞれのオープニングで回しているし、『エンドレスエイト』でも回転のモチーフが取り入れられていた。主犯は取締役・石原立也。そこで下記の記事を参照して欲しい。
「だって昔のアニメとかって背景とかも、引いたりぐるぐる回したりとかしながらキャラクターがぐるぐる回り込みで走ったりしてましたよ」と石原さんは話されているが、これはいわゆる「作画回り込み」を指しているのだろう(単に回り込みでも通じる)。「作画回り込み」とは、カメラワークに合わせて背景まですべて作画で描く高カロリーのアニメート。デジタル化して以降、CGで行えることもあって作画で回り込みをさせる作品は少なくなったが、画面に出れば一目で凄いことやっていると解る技法に変わりはない。回り込みが頻繁に使われ華だった時代、それが石原さんがアニメの世界に飛び込んだ80年代なのだ。
そして80年代、おそらくテレビアニメ史上有数の回り込みを行ったタイトルがあった――『さすがの猿飛』(1982-1984)。いかに無茶苦茶なアニメだったかは、WEBアニメスタイルのコラム「シナリオえーだば創作術」に詳しい。そこからひとつ引用しよう。
まるで、各話、各話が、消費した枚数を誇示するように、猿飛肉丸という主人公が得意技の神風の術を使う時には、必ずといっていいほど、回り込みという表現方法で、画像が動いていた。
それに準じて、他の画面も動き回っていたから、作画関係の執念のようなものを感じて、放映時の絵がそろった完成品を見る時は、なんとなく、怖い感じにさせられた事も確かだ。
いくら、佐々木皓一氏が、アニメの基本は動きであるから動きにこだわりたいという演出方針だといっても、演出方針だけで、これほどは動かないだろう。
制作スタッフが、画面を動かす事の競い合いに取り憑かれていたと言ってもいいと思う。
『さすがの猿飛』は当時若手で腕の立つアニメーターがたくさん参加していた。スタジオジャイアンツの摩砂雪、カナメプロダクションのいのまたむつみ、アニメアールの毛利和昭……名前を挙げるとキリがないが、そこにクレジットもされず(スタジオ名義だった)、参加していたのが木上益治である。『さすがの猿飛』の木上益治といったら、ちょっとした伝説かもしれない。第15話「ネグラ忍法帖!?」の担当パートは小黒祐一郎さんも絶賛しているし、『AKIRA』で仕事を間近にみた井上俊之さんは、『ハルヒ』の頃まで京都アニメーションを「木上さんの仕事としてしか観ていなかった」と語っているほど。その木上さんが当時在籍していたスタジオが肉体派(?)として知られるあにまる屋だった。
あにまる屋には回り込みの名手がいた。仙人のような風貌でキレキレの演出を連発していた福富博。『さすがの猿飛』の福富コンテ回は、いつにも増して回り方が派手だった。
GIF画像左:第15話「ネグラ忍法帖!?」 右:第41話「ゆれてぬれて海辺の決斗!」より
また、ちょうどこの頃、シンエイ動画からあにまる屋に移籍されたスタッフの中に森脇真琴さん(直近の監督作は『プリパラ』)がいる。『猿飛』の森脇回り込みもとんでもないシロモノ。アニメーターの力も重要とは言え、奔ったカット割りや構図にこだわりがみられる。作品の熱が乗り移ったかのように、はっちゃけたコンテを描かれていた時代だ。
画像は共に第39話「山は呼んでる! 肉丸VS八宝斉」より
福富さんの話を続けよう。回り込みを好む理由が語られた貴重なインタビューがある。
NU 回り込みをよく多様されますが、誰かの影響を受けられてるのですか?
福富 私は映画が好きなのですが、伊藤大輔という移動が大好きな「移動大好き」というあだ名の映画監督の方の影響かもしれません。
往年の名監督・伊藤大輔が影響を与えている、なんて聞くと日本の映画史的に回り込みは正統だったのだなあ……と感慨深い気持ちになるが、これで今の京都アニメーションに繋がる流れがざっくりとわかったはず。つまり(何もつまりじゃないが)、「京都の回り込みは伊藤大輔にあり!」ということだ。おお〜。
ただ実際は、「80年代の回り込みが好きな石原さん」で済むだろうし、木上さんも確かに絡んでいるが、どうだか。怪しい。この話は怪しいぞ! という記事なのであった。時に木上さんは活躍のわりに露出が少なく、森脇真琴さんらとあにまる屋対談が実現しないかなあと常々。それにはきっと『さすがの猿飛』の話題も飛び出すだろうし、ぜひとも。スキトキメキトキス!
さすがの猿飛 1 (小学館文庫 ほB 56) 細野 不二彦 メディアファクトリー 小学館 2013-05-15 by G-Tools |