正社員はなくした方がいいと思うけど、やるなら貧困対策(特に住宅政策)は必須です
イケダハヤト | プロブロガー/編集者
正社員制度の是非という論点があります。この話は面白いので書いておきます。
正社員制度はなくなった方がいいと思う派です
ぼくの考えを述べますと、正社員・非正規社員という区分けはなくして、「同一労働・同一賃金」にすべきだと考えています。極論、同一労働・同一賃金であれば、会社は「オール非正規社員」でもいいと思います。
この考えの根底にあるのは悲観論です。もう、日本社会(企業)には余裕がありません。そりゃあ、「望むならば誰でも正社員になれる」社会はすばらしいとは思いますが、無理難題ですよ。ぼくも自営業やってますが、到底、誰かを正社員で雇うなんてできませんし、今の社会においてそれが望ましいとも思いません。
「オール非正規社員化」という方向には、「使えないと判断された人材が解雇されやすくなる」という懸念があります。一方で、それは言い換えると「人材の流動性が高まる」ということでもあり、それ自体は「絶対悪」ではないと考えています。
ひとつの場所、ひとつの働き方を諦めることができないがゆえに、搾取が発生するという実態もあるわけです。ぼくは転職・独立して幸せになった人間なので、心情としては、「ダメならさっさと移動すればいい」と考える傾向が強いです。命を削ってまで、正社員という資格にしがみつく必要などありませんから。
「空いた席にいつまで経っても座ることができない人」が増加する
もう少し。「解雇されやすくなる」ということは、それだけ「席が空きやすくなる」ということでもあります。使えない人は席から排除され、使える人が次々に補充されていきます。
非正規雇用が社会の前提となれば、即戦力として活躍できる人材はますます需要が高まっていき、それに応じて報酬も高まっていくでしょう。ぼくがいるフリーランスの世界はすでにそうなっているような気もします。使えない人に仕事が回らないのは、フリーの世界では当然です。
ただ、「空いた席にいつまで経っても座ることができない人」が現れてしまうことも忘れてはいけません。
具体的にいえば、十分な職業訓練を受けていない若者、ブラック企業に勤めて転職活動ができない人、精神的・体力的に企業が求める水準の仕事をできない傷病者・障害者といった方々は、「空いた席」に座ることが難しくなるでしょう。働きたくても働けない人たちが、今よりもずっと増えていく懸念があるんです。
前置きが長くなりましたが、正社員制度をなくしていくのなら、同時に貧困対策をする必要があるということです。ぼくら市民としては「解雇規制の緩和を唱えつつ、貧困対策の必要性について言及しない論者・政治家」については強く警戒すべきです。
雇用がなくても、住まいを確保できる社会を
貧困対策については様々な側面で語れますが、もっとも根幹になるのは「住宅政策」だと考えています。
今の日本は明らかにおかしくて、住宅の確保って完全に自己責任になってるんですよ。脱法ハウス、漫画喫茶など、人間として無茶な暮らしをしている人は、ぼくの身近にけっこういます。なぜここまでひどい状況なのに、住宅政策が政治の争点にならないかが不思議でなりません。
雇用が不安定・低所得だったりする場合、親と同居でもしないかぎり、もはやまともな住宅に住むのは困難です。ビッグイシュー基金が行った調査によれば、「年収200万円以下で、未婚の若者」の8割近くは親と同居しているそうな。
なお、「都営住宅のような公営住宅があるじゃないか」という声も聞こえてきそうですが、あれは倍率が異様に厳しく、生活に困窮していたとしても入居できるとはかぎりません。
家賃負担に苦しむ方々が次々と相談に訪れる。できるかぎり支援を行っているが、公営住宅も減っています。ホームレス状態の人に公営住宅の申込みをするが、当たらない。400~800倍となっている地区もあります。
公営住宅は、4回5回申請しても通らないという人たちばかり。住宅政策を変えていかないとどうしようもない。保証人が立てられないがために物件を借りられない、というケースも多い。
住まうことをサポートする公的なセーフティネットはまだまだ薄く、現存するものは制度としても使いにくくなっています。再びビッグイシュー基金の「若者の住宅問題」調査より。
欧州のいくつかの国では、低家賃の社会住宅の供給や、低所得者向けの住宅手当、公的家賃保証などにより住宅保障を充実させ、若者の貧困や自立・世帯形成の困難に対応している(川田 2009)。
しかしわが国では、公営住宅の多くが若年者の単身入居を制限しており、低所得の若年世帯の住宅確保を可能にする公的住宅手当も普及していない。2009年には離職者向けの住宅手当が誕生し、短期間ではあるが家賃補助を提供することが可能になった。
しかし、ワーキング・プア、就労経験のない無業者、長期の離職者を対象とする住宅支援はいまだ皆無に等しい。
特に若い世代です。ぼくらはもっと住宅問題について声を挙げていかないとだめなんですよ。政府がいくら住宅ローン減税なんかしたところで、家なんて買えるわけないし、買う必要だってないじゃないですか。
ホームレス支援の文脈において「ハウジングファースト」という考え方があります。要するに、自立した生活をする上では、「まず住宅を確保する必要がある」という考え方です。当たり前といえば当たり前ですよね。まともな家に住めない状態で、まともな求職活動なんてできませんよ。
従来の自立支援センターを中心とする日本の「ホームレス自立支援事業」が「いったん施設に入り、そこで一般就労を確保できた者のみがアパートに移行できる」ことを前提としていたのに対して、「ハウジングファースト・アプローチ」では「まず安定した住まいを確保した上で支援をおこなう」という特徴を持っている。
さて、話を「正社員廃止」に戻すと、こうした方向性で社会を進めるのなら、せめて「雇用がなくても住まいがある」という社会を事前に作っておく必要があると考えます。今は「雇用がなければ住まいもない」という状態ですから。無論、貧困対策はこれだけでは十分ではありませんが、まずは根本的に重要な住宅から、ということです。
あなたも「席に座れなくなる側」かもしれない
正社員がなくなる社会。それは、人材の流動性が高まり、「席が空きやすくなる」社会であり、「いつまでたっても席に座れない人」を増やす未来です。
これ、恐ろしいのは、こういう文章を書いているぼく自身も、事故や病気などをきっかけに「席に座れない側」に回る可能性があるということなんですよね。
別に脅したいわけじゃないですが、無論、それはこの記事を読んでいるあなたも同じです。あなたが正社員として勤めていて、とても優秀で同業他社から引く手数多だとしても、何かのきっかけで「席に座れない側」に回るかもしれないんです。
そして、席に座れなくなったとたんに、住まいに困窮してしまうのが今の日本社会です。失職、家賃滞納、追い出し、脱法ハウス、ホームレス。バッシングや「水際作戦」の報道を見るに、本来頼れるべき「生活保護」ですら完全に頼りになるとはいえません。生活に困窮している当事者の間でさえ、「生活保護は恥」という偏見も根強いです。
すでに非正規雇用は当たり前となりつつあるわけで、「住まいの確保」を自己責任から解放してあげる時代には、とうの昔に突入しています。意識高くして社会を変えていきましょう。