西川善司の大画面☆マニア
第198回
CESで話題の量子ドット技術とは何か。日本メーカーは卒業?
テレビ広色域化への異なるアプローチ
(2015/1/9 12:30)
量子ドット技術とは?
液晶テレビの広色域技術として、今年のCES 2015では「量子ドット」(Quantum Dots)技術の採用が目立つ。
LG、サムスンといった韓国勢はもとより、TCL、HISENSE、CHANGHONGなどの中国勢にも採用が進み、日本勢もシャープなどはこの技術の研究に取り組んでいる。ソニーは、2013年に再ブランディングを開始した「TRILUMINOUS Display」技術にこの量子ドット技術を組み込んでいた。
この量子ドット技術とは一体何なのだろうか。
ディスプレイ技術における量子ドット技術は、ナノサイズの半導体結晶物質を用いて、入射してきた光を別の波長(色)の光に変換することをいう。なぜ量子(Quantum)というキーワードが出てくるかというと、光の波長変換を量子力学レベルで行なわれるからだ。
具体的には、光は波と粒子(光子=量子)の両性質を持つが、量子ドット素材に光を入射させると、その光は光子として振る舞い、量子ドット素材内の電子(=量子)がこのエネルギーを吸収したり、別のエネルギー量の光子に変換されたりする。光子エネルギーは波としての光の波長によって異なるのでエネルギー量が変わると光の波長も変わる。
量子ドット素材内で起きている現象に着目せず、結果としての光学特性だけに着目すると、量子ドット素材は光の波長変換をとても高効率に(エネルギー損失を少なく)行なえる材質として振る舞うのである。
なお、量子ドットは、このような光学素材としての活用だけでなく、太陽電池のような光を電気エネルギーに変換する「光電素子」としての活用事例もあり、様々な分野への応用研究が進められていたりする。量子ドット素材の性質は、その半導体化合物結晶の種類(レシピ)、分子構造や粒径に依存するのだ。量子ドット技術開発を手がけるQD Vision社、NANOCO社のような物性化学メーカーは日々、新しい特性を生み出す量子ドット素材を創出するために、レシピを研究しているのである。
では、液晶テレビメーカーが採用している量子ドット光学素材はどのようなものなのか。
現状主流なのは、光学フィルムシート的な素材で、バックライトとなる白色LEDモジュールに張り合わせる方式や、液晶パネル全体に貼り合わせるような形で適用する方式だ。
液晶パネル全体に量子ドット光学シートを貼り合わせているような模式図を多く見かけるが、これは直下型バックライトを採用したハイエンド製品に限られる。
ミドルクラスの液晶テレビ製品ではエッジ型バックライトシステムのエッジの線上に並んだ白色LEDバックライトモジュールに量子ドット光学シートを貼り合わせ、色域拡大した白色光を普通の拡散板や導光板で液晶パネル全体に導くような実装形式が主流となる。
この量子ドット光学シートは、かなり高額な部材なので、液晶パネル全体に貼り合わせる手法ばかりではないのだ。
ちなみに、最先端の研究ではこの量子ドット技術を白色LEDの蛍光体部分に適用しようとする開発アプローチも存在する。この方式ならば、その量子ドット白色LEDの量産効果が上がればコスト的な問題も収束できるかもしれない。また、別の先端研究には、有機ELに量子ドット技術を組み合わせるアプローチも存在する。
ただ、こうした発光素子に直接、量子ドット技術を組み合わせるアプローチは、現状では熱、湿度といった解決すべき問題があるらしく、実用化にはまだ少し時間が掛かるといわれている。
日本メーカーは量子ドット技術を卒業済み?
ところで、ソニー、パナソニック、シャープなどの日本のメーカーは、他のアジア系メーカーが熱を上げる量子ドット技術に対して、実はやや冷ややかな目線を送っている。
もともとTRILUMINOUS Display技術でQD Visionの量子ドット技術を採用していたソニーは、現在はこの技術から卒業して新素材白色LEDの採用に踏み切った。ソニー関係者に話を伺ったところでは、「コスト的に高く付く量子ドット光学シートをあえて使わなくても、同等の広色域は新世代のLEDバックライトシステムで実現出来る」とのことであった。
シャープも同様で、CESのブースでは量子ドット技術の展示も行なっていたが、関係者によれば「実際にはそれほど本命視はしていない」とのことであった。
シャープはLEDメーカーでもあるので、青色LEDに組み合わせる新素材蛍光体の開発に力を入れているのだ。
従来の白色LEDの主流構造であった「青色LED+黄色蛍光体」に代わり、シャープは「青色LED+新赤蛍光体素材+新緑蛍光体素材」による新型白色LEDの実用化を発表したばかりだが、これ以外に「青色LED+マゼンタ蛍光体素材+緑蛍光体素材」による新型白色LEDを試作機に実験運用している。
その試作機とは、今回のCESでも展示されていた85インチの8Kテレビ試作機だ。
この「青色LED+マゼンタ蛍光体素材+緑蛍光体素材」による新型白色LEDバックライトシステムにより、先行実用化させた「青色LED+新赤蛍光体素材+新緑蛍光体素材」の白色LEDバックライトよりもさらに広色域表現を達成している。
具体的には「青色LED+新赤蛍光体素材+新緑蛍光体素材」の白色LEDバックライトがBT.2020色空間カバー率80%なのに対し、「青色LED+マゼンタ蛍光体素材+緑蛍光体素材」の新型白色LEDバックライトでは同85%を達成しているという。
マゼンタは「赤+青」なので、青色LEDが自発光で発する青色光と被るのだが、これは組み合わせるカラーフィルターとの複合効果で広色域が実現されるとのことである。
REGZAを有する東芝も、新世代LED技術採用のほうに主眼を置いているとのことで、量子ドット技術を焦って採用しようとする動きはないようだ。
パナソニックも同様で、2015年春に登場するハイダイナミックレンジ対応・広色域対応の液晶VIERAは、広色域蛍光体を組み合わせた新世代LEDと新開発のカラーフィルターでDCI-P3色空間カバー率98%を実現させるとのこと。
というわけで、今回のCESの取材では、日本勢と韓国・中華勢とで、量子ドット技術に対する姿勢が明確に分かれたのが興味深かった。
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