2015-01-09
■2014年ベスト30位くらいの映画をうらなう

雑誌や個人のブログなどで年末年始恒例となった「ベスト10」企画。ボクも楽しく見るのだが「ベスト10」くらいだと、ラインアップはだいたい同じではないだろうか?
今年だと『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『グランド・ブタペスト・ホテル』『ゴーン・ガール』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』あたりが上位をウロついていて、『6才のボクが大人になるまで』『ジャージーボーイズ』『ダラス・バイヤーズ クラブ』あたりが次に目について『ラッシュ/プライドと友情』『ネブラスカ』『GF*BF』『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』あたりが残りを埋める。人によっては『アナと雪の女王』や『新しき世界』『アデル、ブルーは熱い色』『テレクラキャノンボール2013』あたりが入ってくる。ランクインするのは誰が見てもだいたい「まぁ、順当だね。」と思える、完成度の高い作品だ。
それら優れた作品はもちろん素晴らしいのだが、「トップ10」から洩れた作品が劣っているかというと、別にそうでは無い。公開規模が小さかったり、宣伝が行き届いてなかったり。多くの人の目を逃れて公開されてしまった優れた作品は多い。そんな「ベスト30位くらいにいそうな映画」を選んでみた。
『アイム・ソー・エキサイテッド』
「性」や「愛」「母」など、セックスを含んだテーマを超重量級に描いてきたペドロ・アルモドバルの最新作は、うっかり脳みそを家に置き忘れたまま演出したような狂躁的コメディ。特に「セックスに奔放なスチュワード3人組」は、キャビン・アテンダントなどと呼ぶポリティカル・コレクトネスを無視したオールドスクールな「スチュワーデス幻想」そのものだろう。3人が踊り唄う、ポインター・シスターズのディスコチューン「アイム・ソー・エキサイテッド」の素晴らしくバカバカしいことよ。
『オオカミは嘘をつく』
イスラエル映画。娘を犯され頭を切り落として捨てられた父親が、警察が犯人と目星をつけた学校教師と、彼を張り込んでいた刑事ともども誘拐し、否認する教師を拷問にかけて娘の頭を探そうとする。
映画だけで判断すればそれなりに優れた心理ホラーというダケなのだが、本作が「イスラエル製」だとふまえると、イスラエル:パレスチナ問題が象徴的に描かれているようにも見える。するととたんに考慮すべき哲学的命題を孕んでいるようにも思えるので不思議。
『マザー』
梅図かずお先生自身による監督・脚本作。梅図かずお(演じるのは片岡愛之助!)の創作の源泉をたどる本を作ろうという大ファンの若手編集者が出身地をめぐっていく中で怪異に出会う。その現象と梅図の母(真行寺君江)生前の言動に奇妙な一致があることに気付く。
先生自身が自身の母親を恐怖の対象にするという、本人がやっちゃってるんだから文句の言い様も無い展開。ただ、愛の対象が恐怖の対象でもあるという展開は梅図恐怖まんがには度々登場するモチーフでもある。
長編映画の監督は初めてだという梅図先生だが、見事に「梅図恐怖まんが」した絵作りと演出はファンなら必見。アルジェントやフルチなどの愛とエロスの交じったイタリアン・ホラー風の情念と日本の古い景色が融合したタッチも素晴らしい。
『放送禁止劇場版 洗脳 邪悪なる鉄のイメージ』
カリスマ主婦による洗脳で家庭を崩壊させてしまった母親の脱洗脳を試みる心理セラピスト。その工程が進むにつれ事態は二転三転していく……
遠くの窓に映る人影、子供のらくがき、読んでいる本のタイトル、壁にかかった絵などなど。普通の映画では意味の無い背景が、こと「放送禁止」シリーズでは俄然意味を持ち、雄弁に真実を語り出す。劇場版3作目はテレビシリーズから完全に独立したオリジナル・ストーリー。しかも、シリーズを通して初めてと思われる境地に辿りついている。「放送禁止」シリーズを見てこんな気持ちになろうとは思いもしなかったよ。
『超・暴力人間デラックス』
営利目的で殺人を繰り返しながら警察の手を逃れ続け、「暴力人間」を自称する男。彼の取材中にインタビュアーは狂気に囚われて行方知れずとなってしまっていた。その一部始終をカメラに収めたカメラマンの白石は保身の為に「田代」と名前を変え、今では心霊ビデオ制作に携わっていた。そんな彼と心霊ビデオのディレクター工藤の元に、あの「暴力人間」が、超デラックスになって現れた!
白石晃士監督が過去に撮った自主短編に追加撮影した映像を付けくわえたイベント用の作品。「コワすぎ!」カメラマン田代が過去の白石監督作の「カメラマン白石」と重なり、『コワすぎ!』シリーズと「霊体みみず」サーガ、さらに「暴力人間:超・悪人」が同じ地面に立っていたことが証明される本作は『アベンジャーズ』予告のような興奮必須作だ。
2014年は『コワすぎ!』サーガも驚天動地の大展開をし、カメラマン田代の韓国での活躍を収めた『ある優しき殺人者の記録』があり、「白石イヤー」と言っても過言では無い。今、日本で一番面白い映画を作っている監督。
『ファイ 悪魔に育てられた少年』
狙撃の名手、天才ドライバー、老獪な策士など一流の悪党にかこまれ、それぞれの特技を叩き込まれて育った少年ファイが、惚れた彼女のために足抜けを決意し、育ての親たちと対決していく。
『ベイマックス』がヒーロー物の第1話だとすれば、こちらは「デビルマン」的なダーク・ヒーロー物第1話と言えるだろう。悪党たちの技を身につけ、さらに凌駕していきながら悪事に背を向ける少年の前途多難さが実に痺れる。『悪いやつら』で見事な「ぴんからトリオ」ヘアーを見せつけたキム・ソンギュンの狂気も素晴らしい。
『ラスト・デイズ・オン・マーズ』
火星探査もあとわずかで終わり、地球へ戻ろうという探査チーム。そんな土壇場に古い地層の中から微生物が発見されチームメンバーたちは色めき立つ。しかし、その微生物は他の生物を乗っ取り増殖を計る寄生生物だった。
登場する人物は互いにいがみあい、寄生生物の特性が明らかになった後では、全員が全員を疑いあう。そんなザラついた人間関係を描く背景には人の気配の無い、赤茶色に乾いた火星の風景がある。うるおいの欠片も無い侘しさ。人間なんて行きつくところは孤独だと思い知らされる超現実的SF。
新宿ミラノ閉館の最終上映作の1本。ゲーセン上のミラノ3での上映だったのだが、空調が壊れて館内の温度は14〜5°という凄まじく侘しい中での観賞だったのも思い出深い。
私の2014年ベスト10はボツになっていなければ、次の映画秘宝のベスト&トホホ号に掲載される予定です。みんな映画秘宝を買おう!
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