変化が起きる唯一の原因

1985年の秋、私はカバン一つで日本に来ました。あの秋の北京の青空と自転車の大群、そして北海道の紅葉と日本人の優しさは一生忘れません。しかし、何よりも忘れられないのは日本の景気の良さでした。

21歳の私はただ素直に目の前にあるものをそのまま呑み込めば良かったです。異なる体制と異なる発展段階の国に来てすべてが新鮮でした。当時の自分は30年後に日本、中国、そして世界がどう変わるかにまったく興味がありませんでした。

昨年末、尊敬している70代の経営者と会ってたまたまビジネスのグローバル展開の話をしました。著名な経営者の彼は「中国の現体制はいずれ崩壊するので中国への投資ボリュームを抑える」との方針を教えて下さいました。しかし、その直後、彼は「中国はどうなるかを宋さんに聞きたい」と聞いてきました。

「大丈夫だよ、30年前も同じ心配していたでしょう」と言えば「やっぱり中国人は自国を悪く言わないな」と思われるし、「はい、必ず崩壊します」というと「じゃいつ頃だと思うか」と聞かれてしまいそうです。だから私はいつも「分かりません」と答えるのです。

実際に本当にわかりません。経営の醍醐味は表層現象に翻弄されず社会の底流を読むことです。自信を持たなくても覚悟を決めて「やるかやらないか」を選ぶのです。どちらを選んでも、その選択肢に必ずリスクがあります。それを直視してこそ経営です。

人生においても同じです。21歳の私は将来への予想はなくても良かったのですが、会社を経営していた30代の私は10年後のトレンドをみて経営内容と本社の場所を決めました。40代の私は20年後のトレンドをみて経営をやめて北京に戻る決心をしました。

やはり先述の先輩経営者には、当時「宋さんはなぜ北京に生活の拠点を移したか」と聞かれました。私は「子供に中国語を覚えさせるためでした」と答えました。しかし、それはごく小さな部分でした。私は未来の30年のトレンドを、久しく離れた中国の内部から、そして中国民衆の視線から見てみたかったのです。

たぶん、一部の読者は既に気付いていると思いますが、この5年間で私のコメントはかなり変わりました。「反日」と感じるかもしれませんし、「中国寄り」と映るかもしれません。「中国に洗脳された」と思われるかもしれません。

しかし、私はあくまでも私自身、私の家族、そして私の友人、私が好きな人々のために生きています。こうしてメルマガを書いているのも、誰かに影響を与えたいからではなく、私の私見を参考にしたいと真剣に考える読者がいるからです。私と同様、社会の底流を読もうとしている読者の皆様がいるからです。

「人は同じ川に二度と入れない」。これはあるギリシャ哲学者の言葉ですが、川は流れて中身が常に変わるという意味です。同じ体制にみえても30年前の中国と今の中国はまるで別物です。体制が崩壊したのではなく、変化したのです。この意味でいうならば、確かに中国は毎日崩壊し続けています。そして静かに毎日再建し続けているのです。

「三十年河東、三十年河西」という諺があります。国家は30年も経てば別物に変わるという意味です。社会変化の唯一の要因は時間であり、崩壊、戦争、革命などはあくまでも変化の形式の一部に過ぎないのです。

いつ起きるか分からない相場や体制の崩壊を待つよりも、今日も確実に進む変化の流れを読むのは企業と個人の生存にとって最も重要なのです。相場が崩壊しても次の相場がまたやって来ます。流れを読めない人はチャンスを掴めず、また次の相場崩壊を期待するのです。
この記事へのコメント
「中国は毎日崩壊し続けています。
そして静かに毎日再建し続けているのです。」は名言だと思います。中国の現状をこれほど的確に表現した言葉を私は知りません。このメルマガを読んでいて良かったと思いました。
「よいしょ」じゃなくて「本気」で。
Posted by たか at 2015年01月09日 08:17
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