2015.01.08
世界のカリスマ書店員さんに聞きました!

編集部Kです。年末年始に海外に行かれた方も多いかと思いますが、初めて訪れる外国の都市で必ずチェックするお店ってありますか? 私の場合は、スーパーマーケットと書店です。昔はCDショップを覗くのも楽しみでしたが、いまや音楽はダウンロードが主流。それに最近は、世界のどこへ行っても耳にする音楽が同じだったりします。もちろんスーパーや書店にしたって、ネットの影響や画一化の流れを感じないわけではありません。それでも、その土地ならではの品揃えや陳列の仕方があって、店内をぷらぷらしているだけでそこに住む人たちの生活や価値観を窺い知ることができ、なかなか楽しいものです。

現在発売中のクーリエ・ジャポンの特集「世界の人はこんな本を読んでいる。」では、そんな旅人気分で、世界各地の書店を覗くことができます。「書店員さんに聞いた『いま、話題の本は?』」と題したページでは、世界7都市のカリスマ書店員さんに直撃取材しています。ご登場いただくのは米国、英国、ロシア、アルゼンチン、韓国などの書店員さん。いずれも地元で愛される「名物書店」に勤める方たちなので、おすすめ本1冊を紹介するコメントにも自信とプライドを感じます。

Books-Inc---02シリコンバレーのパロアルトにある「BOOKS. INC」は、全米有数の高級住宅街にあります。いかにも“上流”な住民が「食事のあとに一家揃って立ち寄る」場所なんだそうで、店員のアレックスさんは「そういう家族連れが興味を持ちそうな本を意識して揃えている」といいます。IT系のトップ企業のエンジニアや投資家のファミリーが何を読んでいるのか、気になりませんか?

ベスト3は誌面でご紹介しておりますので、ここでは4位と5位を。

シェリル・ストレイド著 『Wild 』(未邦訳)
米国の作家でフェミニスト活動家でもある著者が、1700㎞以上を単独踏破。その回想録で、リース・ウィザースプーン主演で映画化されました。

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ダニエル・ジェイムズ・ブラウン著 『ヒトラーのオリンピックに挑んだ若者たち: ボートに託した夢
大恐慌時代の米国で、ナチス政権下のベルリンオリンピックに出場した9人のクルーが米国中を熱狂させた感動のノンフィクション物語。

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お次はロンドンへ行きましょう。シティにある「ドーント・ブックス」チープサイド店の客筋は、銀行員や証券マンなど金融街で働くビジネスマン。彼らのニーズに応えられるだけの知識を持ったスタッフが、この店を支えているのだと店長のマットさんが語っていたのが印象的です。マットさんは、ピケティの『21世紀の資本』がヒットする兆しを、早くから感じ取っていたようです。

「グローバル経済は2008年以降、ずっと減速しています。ところが、当時の金融危機を引き起こした張本人たちが罰せられることもなく、それどころか相変わらず羽振りよくやっているじゃないか……そんな思いが社会にくすぶっている。収入格差は拡大し、社会的な流動性も失われつつある。こうした不公平感が英国の人々の心を覆っているから、この本がベストセラーになったのだと思います」

同店では、今なお、この本がビジネス書で最も売れているとのことです。

LH intérieurパリでは、映画にもたびたび登場する有名な本屋さん「ラ・ユンヌ」を訪ねました。サンジェルマン=デ=プレにあり、顧客には有名作家やアーティストもいて、女性客はとりわけおしゃれな人が多いとか。まさに“パリジェンヌ御用達”書店。勤続17年の店長カトリーヌさんはこう語ってくれました。

「うちには、親子4代で常連というお客さんもいるんですよ。ノーベル賞作家のパトリック・モディアノさんもよくお店にいらっしゃるので、本の配置にはすごく気を遣いますね。ただ最近は、近所の小さなショップが高級ブランドのブティックに次々代わってしまって、客層も変わりつつあります。モード関係の本に力を入れなきゃいけないものだから、王道の文学の本をあまり売れなくって」

ちなみにモディアノ氏は同店の近所にお住まいで、こっそりお店を覗きに来るのだけど、2m近い長身なのでどうしても目立ってしまうのだとか。

北京萬聖書園_店内4もう一店、北京の「万聖書園」をご紹介しましょう。とても文化的な独自の品揃えで知られ、交流活動にも力を入れている、中国では数少ない個性派書店です。ただ、その「交流活動」が当局の目につくようになり、一度は強制閉鎖を余儀なくされたのだそうです。現在は学生街の五道口で営業を再開しており、併設する「醒客カフェ」とともに人気を集めているようです。

中国においてもネットで本を購入する人が増えていて、北京大学付近の老舗書店がどんどん潰れるという「まさか」の現象が起こっているそうです。そんななか、規模を縮小させつつも頑張っているのが、この万聖書店。店内には椅子もなく、地べたに座って本を読みふける中国人客の姿がしばしば見受けられますが、お咎めを受けることはまずないとか。店長の蒋さんのおすすめ本とは?

イアン・モリス著 『文明の測定-社会発展は国家の運命をどのように決定するか』(未邦訳)
歴史家モリスの『人類5万年 文明の興亡 なぜ西洋が世界を支配しているのか』の続編。歴史の角度から、なぜ西洋文明が繁栄してきたのか、その根源に迫る。「西洋文明と中国文明との比較文明論として読めるので、中国人にとっては非常に興味深い本になっています」

張新颖著 『沈从文の後半生(1948-1988)』(未邦訳)
1902年生まれの中国人作家、沈从文の後半生を描いた伝記。時代が大きく変化するなかでの沈从文の細密で複雑な精神活動の歩みを追っている。「沈从文は1988年に亡くなっていますが、もっと生きていれば確実にノーベル文学賞を受賞していたはずです。この本は、とても学術的価値の高い伝記になっていると思います」

ソウルやモスクワ、ブエノスアイレスの書店員さんのおすすめ本もご紹介したいのですが、それは誌面と、また機会があればこのブログで。

◆過去のエントリー◆

ピケティ『21世紀の資本』、要するにどういうことか?
クーリエ・ジャポン2月号、本日25日(木)発売です。
・年末年始、こんな本の読みかたはいかが?

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