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連載 第10回 原発と避けられない三つの問題

執筆者

植原 正行 Uehara Masayuki 経歴/京都大学理学部物理学科卒、同博士課程... ≫詳細

原発を動かす上で避けて通れない三つの問題

 私は、本シリーズ「原子力 あなたはどう向き合きあいますか?」の最初の号(昨年五月号)に、原発を動かす上で避けて通れない3つの問題があると書きました。それは、原子炉から出る高レベルの放射能を持つ使用済み核燃料の処理問題、原発立地自治体と原発作業員の問題、原発と核抑止力の問題でした。
 将来にわたって原発を続けるかどうかを判断するには、安全性についての科学・技術だけはでなく、社会的、倫理的側面も考える必要があります。事故と賠償、核燃料処分、廃炉の費用を考えれば、「原発の電気は安い」という神話は成り立ちません。ドイツでは、福島の事故の直後、政府の下に「安全なエネルギー供給のための倫理委員会」を設置し、ドイツのエネルギー転換を議論しました。倫理委員会は、原発に代わる将来にわたってリスクの低い十分なエネルギー源がある以上、原発からの撤退が倫理に適ったものであると答申し、政府はすべての原発からの撤退を決断しました。事故の当事国でもないドイツが撤退を決定したのに、総選挙後の日本は原発継続に逆戻りしかねません。皆さんはどう思われますか?


高放射能を持つ使用済み核燃料をどうするのかー未来への責任ー

 原発から取り出された使用済みの核燃料は、その原発敷地内に中間貯蔵ということで保管されることになっています。全国で、どのくらい使用済み核燃料が出ているでしょうか?事故前のデータ(10年9月末経産省)ですが、全国の原発が排出する使用済み核燃料は、1年平均にすると、約1千トン、これまで貯まった総量は1万3千トン余り。全原発の貯蔵可能な最大量が2万トン余りなので、あと7年位で敷地内の貯蔵所は満杯になってしまいます。玄海原発では、1年に平均70トン、累積で760トン、最大容量が1千トン強なので、あと4年半も持ちません。満杯になれば、それ以上原発を動かすことができなくなります。

図1



 大事なことは、使用済み核燃料は、正常に運転されている原発から必ず排出されるということです。健康な人々が定期的にトイレに行くのと同じです。原子炉は核分裂によって電気をつくる代わりに強烈な放射能を持つ燃料ゴミを生み出します。燃え残りのウランやプルトニウムのような寿命の長い放射性物質も含んでいます。現在の科学技術は、崩壊し尽くのを待つ以外に、放射能を有効に減らす方法を持ちません。だから、高レベル放射性廃棄物の管理には万年を単位とする時間を考慮しなければなりません。
 今の人類となるホモサピエンスが十数万年前アフリカを出て全世界に移住しました。凡そ四万〜数千年前の間、彼らは断続的に日本にやってきました。一万年前には教科書で習う文明も国家もありませんでした。これから先の一万年、十万年という時間の長さを想像して見て下さい。四つのプレートがひしめき合う地震地帯の上にある日本では、大規模な地殻変動がどこで発生するか、地下水脈がどう変化するか、核燃料保管容器がどうなか、現在の科学では正確な予言はできません。
「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」では、日本のどこかの地下三百メートル以上の地層に貯蔵施設をつくって高レベル放射性廃棄物を最終処分するということになっています。それを受け入れてくれる自治体を待っていましたが、どこからも手が上がりませんでした。そこで、原子力委員会は、10年9月に、「高レベル放射性廃棄物の処分について」と題する審議を日本学術会議に依頼しました。学術会議は、福島原発事故を経た去年9月に回答を原子力委員会に送りました。
 学術会議は、「使用済み核燃料のリサイクル路線も含め、従来の政策枠組みを一旦白紙に戻す位の覚悟を持って、見直しをすることが必要である。現在の科学・技術の限界を十分認識して、廃棄物の総量を厳格に管理し、いきなり永久保管ではなく、将来の科学技術の進展も踏まえて、暫定保管の考え方で進めるべきだ。」という回答を出しました。 先のドイツの委員会も、将来の科学技術向上を期して、回収可能な形で保管すべきであると答申しています。 廃棄物の総量を管理するなら無制限に原発を動かし続けることはできません。私たちが原発を利用すれば、長きにわたって私たちの子孫に過酷な負の遺産を残すことになります。皆さんはどう思われますか?


原発と立地自治体・原発作業員ー犠牲(差別)の構造ー

 学術会議は、上の回答の中で、原発の発電による利益を享受する地域を受益圏、廃棄物の埋め立てを引き受ける地域を受苦圏と呼びました。この区分けは、原発がつくる電気を利用する都市圏と原発立地自治体との関係でもあります。この言葉は、米軍基地のまばらな本土と米軍基地に悩む沖縄との関係にも当てはまるでしょう。
 高度成長期、地方は農林漁業だけで若者を引き留めることはできず、過疎化しました。こうした過疎地のうち、取水に便利で、地盤の安定した平坦で広大な土地を持つ自治体が原発の立地場所として選ばれ、土地の買収が行われ、誘致に賛成する人と反対する人との対立を経て、50基を超える原発が、海岸に沿って、狭い日本に建設されました。原発建設をスムーズにするために「安全神話」が振りまかれ、不利益をカバーするために、種々の交付金が立地自治体に支払われます。電力会社は、交付金の原資になる電源開発促進税という税を発電量に応じて国に納めますが、この税金は電気料金に含まれるので、交付金の一部は私たち電気の利用者が払っていることになります。立地自治体では、町の地場産業が衰退し、原発関連の企業やサービス業が増え、労働現場も原発関連くらいになります。固定資産税は年数に応じて軽減され、交付金でつくった施設の維持費がかさみ、交付金も原発が停止すれば減ります。そのため原発の新建設や再稼働を望んだり、原発から抜け出せないようになり、事故が起これば真っ先に犠牲となります。

図2



 原子炉は13ヶ月を超えない期間で定期検査に入り、核燃料の部分的な交換や配置換えをすることになっています。その数ヶ月の検査の間、沢山の仕事が集中するので、一時的に高レベルの放射線に満ちた原子炉建屋内で働く数千人という作業員を必要とします。このような作業員は、いくつかの原発を渡り歩いて仕事をすることになります。雇用形態も様々で、電力会社の社員や、原子炉メーカーの社員を別格として、元請け会社のその数次の下請けの作業員まであり、下になるほど大幅に賃金が下がり、原子炉内で最も過酷な仕事につくことになるそうです。その人達は、放射線についての教育もきちんとはなされていないようです。最近、暴露されたのは、放射線被ばく量を故意に低くして労働時間を稼ぐため、被ばく線量を測る放射線計測器を鉛で囲んで数値を低くしたり、計測器自体を携行しないことなどでした。しかも、過去の放射線量をきちんと記録していないから、かりに晩発性の放射線障害が発生しても、それを証明するデータがないことになります。「原発で一人も死んでいない。」とうそぶいた電力会社の正規職員がいましたが、死んでも証拠がないのです。一層過酷な労働が事故後の福島第一原発で今も続けられています。
 都市部という受益圏と原発立地地区という受苦圏の存在、不公平で危険な労働環境など犠牲と差別の構造の中で原発は動いているのです。皆さんはどう思われますか?(註1)


原子力の平和利用ー原発と抑止力の関係ー

 去年の6月20日、原子力規制委員会設置法改定案の審議に際して、原子力基本法を改訂するという出来事がありました。東京新聞WEB版6月21日や毎日新聞社説6月23日などによれば、原子力基本法第二条には「原子力の研究や利用の目的を平和の目的に限り、安全の確保を旨とし、民主的な運営の下に行う。」とありましたが、この第二条に第二項を加え、そこに、「原子力利用の安全の確保は国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として行う。」という項目を入れ、わずか4日間で衆参両院で可決しました。同じことが、宇宙基本法でも行われ、「平和目的に限る」との規定を削除し、安全保障目的で人工衛星(『事実上のミサイル」?)などを開発できるように改正しました。
 また、去年の10月22日、国連総会第一委員会で33 カ国が「核兵器を非合法化する努力の強化」を促す声明を発表しました。日本はこの声明に署名しませんでした。署名国は、ヒロシマ・ナガサキの経験があるのにと、残念がっていました。アメリカの核の傘から抜け出せない日本は核兵器の非合法化に踏み切れないのです。

図3


 青森県六カ所村に設置された核燃料再処理工場は、使用済み核燃料からプルトニウムを抽出して再利用しようという核燃料サイクルを目指してつくられた工場です。しかし、この計画は、失敗続きで、全く機能していません。それでも、英・仏に再処理を依頼していた日本は、現在、世界の五指に入るプルトニウムの保有大国になっています。プルトニウムは、長崎に落とされた原爆(ファットマンというあだ名)の主成分です。
 不幸にも原子力利用はヒロシマ・ナガサキの原爆から始まりました。日本では、核燃料再処理技術を核抑止力のために保持しようとする動きは、当初からあったようです。核抑止力がなくても信頼される日本になることが先だと思います。皆さんはどう思われますか?(註2)

 去年の夏、大飯原発2基を除いて、原発なしで過ごすことができました。この「大実験」で日本は原発なしでもやって行けることを示しました。脱原発は、原子炉を停止し、張り巡らされた送電網から原発を外すことから始まります。これはすぐにでもできます。その後に安全に廃炉を実現するという課題が続きます。立地自治体の将来を含め、使用済み核燃料処理や廃炉に至るまでの技術開発と資金と長い年月を覚悟しなければなりません。これが私たちの未来への責任です。リスクの少ない再生可能な電力資源の開発・導入と電力の「賢い使い方」によって原発なしの日本は十分可能だと思います。原発を続けるなら、上に述べた3つの問題は避けて通れません。皆さんはどう思われますか?

脚注
1. 例えば、「犠牲のシステム 福島・沖縄」高橋哲哉 集英社新書2012年、「この国はどこで間違えたのか 沖縄と福島から見えた日本(7人の識者へのインタビュー)」徳間書店出版局編 徳間書店2012年。
2. 「核大国化する日本」鈴木真奈美 平凡新書2006年、「脱原子力国家への道」吉岡 斉 岩波書店2012年。

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