自殺しない日本人にするため、アベノミクスや区にできること
(ブルームバーグ):日本の経済成長率が2四半期連続のマイナスとなったことでダメージを受けるのは、アベノミクスだけではない。景気の悪化に脅かされる命もある。
安倍晋三首相が経済再生への取り組みを打ち出す中、自殺者数は1年2カ月連続で減少していたが、昨年9月にその流れは止まった。日本経済は2008年以来で4度目となる2四半期連続のマイナス成長に陥った。
日本では伝統的に自殺に対する抵抗感が弱く、問題是正に消極的だが、こうした状況に対する福祉関係者の取り組みは景気不安が再燃したことでますます難しくなっている。日本では1日当たり70人以上が自ら命を絶っており、他国よりも景気動向と自殺率の関係が深い。米国では景気拡大が5年続いているにもかかわらず、自殺率が25年ぶりの水準に上昇している。
新潟青陵大学大学院の碓井真史教授(臨床心理学研究科)は自殺の要因として「景気は大きい」と指摘する。会社、家のためという発想はだいぶ薄れてきているものの、「潔く死ぬことは良いという発想は残っている」ため、問題を複雑にしているという。
政府のデータからは、日本人の自殺が経済と強く関連していることが分かる。景気が活況を呈していた1981年の自殺者数は2万434人と、78年に統計が取られ始めてから最少だったが、銀行危機で金融機関が政府に救済された98年には年間で35%急増し3万2863人に達している。
2012年12月に安倍政権が誕生し、景気再生への楽観が一助となって、自殺者数は減少傾向に転じ、17年ぶりの低水準に向かった。失業率 も5月に17年ぶりの低水準となる3.5%に下げた。
経済的理由、「ハラキリ」最近まで見られた自殺者数減少は、経済的理由による自殺が減ったことが最大の理由だと当局者らは指摘。この傾向が続くかどうかは、政府の景気対策の成果次第とも言える。
それ以上に、自ら命を絶つことへの抵抗感を弱めている昔ながらの日本の文化と社会に切り込む必要があると碓井氏は指摘する。
碓井氏は海外では「ハラキリ」として知られる武士の切腹や、日本の映画や文学で心中がロマンチックな題材となるケースが少なくないこと、会社のために死ぬという責任の取り方などを挙げて説明した。
世界保健機関(WHO)のデータでは、世界での自殺者数は年間で80万人を超えており、40秒に1人が命を絶っている計算になる。心の病が自殺の最大の原因と指摘される米国では、2012年に10万人中12.6人が自殺しており、1987年以来の最悪となった(米疾病対策センター調べ)。一方、主要7カ国で自殺率の最も高い日本では、2012年に年間自殺者数が1997年以降で初めて3万人を割り込んだ。
予算100億円、県別データ開示内閣府の自殺対策推進室主査付、高倉優介氏は「経済生活問題を理由とした自殺者の減少が大きく寄与している」と述べた。自殺者数は最近になって再び増加傾向を示したものの、昨年年初から11月までの自殺者数は2009年比で28%少なかった。
日本では07年に自殺総合対策大綱が閣議決定され、09年から期間3年、予算100億円からなる地域自殺対策緊急強化基金を通じ、都道府県で相談体制整備や人材養成などを実施することになった。
また警察は県別の自殺者数の開示に踏み切り、自治体は自殺対策に重点的に人的資源や予算を振り向けることができるようになった。
特定非営利活動法人「自殺対策支援センター ライフリンク」の清水康之代表によれば、景気が上向く前の段階ですでに、こうした改革が自殺減少に寄与した。「これまで死ぬしかない状況に追い込まれていた人が生きる道を選べるようになった」と評価した。
「新たな人生を送るチャンス」東京都足立区は都内で初めて、09年12月に継続的な総合的相談サービスに乗り出した。足立区足立保健所、こころとからだの健康づくり課長、馬場優子氏によると、区の刊行物に自殺という言葉が使われたのも同月が最初だという。
2011年2月の刊行物には、足立区の相談サービスに命を助けられたと語る男性の話が紹介されている。馬場氏によると、この男性は借金を背負い自殺を考えていたが、区が主催したセミナーで弁護士に相談し、自己破産を申請することができ、新たな人生を送るチャンスを得た。
06年のデータでは、足立区は東京都23区の中で最も自殺者の多い区だった。自殺者数は相談プログラム発足後に減少し、10年に179人だったのが13年には148人に減った。
ライフリンクの清水氏は「とはいえ、1日70人から80人が自殺しており、非常事態は続いている」と語った。
原題:Japan’s Fight to Change Suicide Culture Hurt by Latest Recession(抜粋)
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更新日時: 2015/01/09 07:01 JST