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 フランスのカリカチュール(風刺)は、17世紀の喜劇作家モリエール以来の伝統といえる。19世紀以降は活字メディアを中心に、常に文化の一角を占めてきた。

 新聞では1915年創刊のカナール・アンシェネ(週刊)が知られる。政財界のスキャンダルを再々報じて有力者に恐れられ、多数のモノクロ風刺画も名物だ。襲われたシャルリー・エブドは、よりどぎついカラー漫画が売り物で、文字では説明しにくい性的表現も多い。

 その矛先は、一般紙が敬遠しがちな宗教にも向けられる。2006年、デンマーク紙で物議を醸した預言者ムハンマドの風刺画を転載した件が有名だ。独自に描き下ろした漫画も多く載せた特集号は増刷を重ね、空前の40万部を売った。

 むろん内外のイスラム界を敵に回したが、表現の自由を盾にタブーなしの編集方針をその後も貫く。極右政党やカトリック、大統領も風刺の的だ。

 7日に出た最新号には、「フランスではテロが起きていない」との表題に、過激派らしき男が「1月末までまだ時間がある」とうそぶく絵を載せた。前週には、きわどいイラスト満載で「あなたの息子も聖戦士に?」の見開き企画。「巨大なナイフを使い、この不信心者が!と叫びながらコーラの栓を抜き始めたら要注意」などとある。

 一般受けするメディアではないが、奔放な姿勢はフランス社会でおおむね支持されてきた。7日夜、仏全土で計10万人が「私はシャルリー」の紙を掲げたのは一つの証左だろう。8日付各紙は追悼と怒りであふれた。犯行の背景や容疑者の素性はさておき、仏社会は表現の自由を譲らない一点で結束している。

 パリ第1大学のパトリック・エブノ教授(メディア史)は「風刺はフランス大衆に受け入れられてきた。風刺紙はどれも少部数ながら200年の歴史がある重要なメディア。あらゆる権力や不寛容と闘い、表現の自由の限界に挑み続けてきたジャーナリズムなのだ」と語る。

 襲撃事件による損失は大きいが、表現の自由を守ろうという機運が改めて高まることは間違いない。他方、同性愛者やマイノリティーへの差別や憎悪をあおる表現は法律が禁じている。一般的な宗教批判と、信者への侮辱を分ける考えが定着しつつある。シャルリー・エブドは休刊せず、来週は前例のない100万部を発行する予定だ。(パリ=特別編集委員・冨永格)

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