社説:波乱の年初市場 ゆがみの蓄積が心配だ
毎日新聞 2015年01月08日 02時30分
2015年の世界の市場は、波乱の幕開けとなった。原油価格の急落をきっかけに各国の市場で株価が大幅に下落し、国債市場では長期金利が一段と低下した。
ほぼ全面的に輸入エネルギーに依存する日本にとって、原油価格の低下そのものは朗報だ。円安や原材料価格の高騰を受けてさまざまな物の値段が引き上げられる中、ガソリンなど石油製品から輸送費まで、幅広く影響する原油価格の値下がりは減税のような恩恵をもたらす。
しかし、下落の背景にある欧州や中国などの景気減速懸念に目を向けると手放しで喜ぶわけにはいかないようだ。ギリシャの政治情勢も、今月下旬に予定される議会選挙の結果次第では、再びユーロ危機の緊迫化につながる恐れがある。
市場に不安心理が広がった分、国債が買われた。米欧市場にも共通する動きではあるが、中でも日本国債の高値(=長期金利の低さ)が目立つ。指標となっている10年物国債の市場利回り(長期金利)は過去最低の更新を重ね、7日は一時、0.265%まで低下した。
償還までの期間が短い2年物国債や4年物国債は、すでにマイナス金利となっている。満期まで保有すれば必ず損をする高値だ。異常な状態なのだが、さほど驚かなくなったことが異常かもしれない。
原油や株式の市場で先行きが不透明になった分、とりあえず安心感のある国債市場に資金が流入した面がある。ただ日本の場合、日銀が異次元緩和により大量の国債を買い占めているため、市場が極端な品薄状態に陥っているという、継続的、構造的な背景があることを忘れてはならない。
もともと金利の低下を促す金融緩和だ。当然の結果ではあるし、金利の低下自体、住宅ローンや企業の借り入れを刺激する効果が理論上はある。とはいえ、すでに歴史的水準にまで低下している金利が一段下がったところで、実際には追加的効果はあまり期待できそうにない。
反対に国債市場のゆがみが進行することが心配だ。国債価格が将来的に反落し、長期金利が上昇を始めた時の反動のエネルギーが蓄積されているからである。民間金融機関から日銀が国債を吸収し続け、保有のシェアを高めれば高めるほど、日銀は国債購入の減額という量的緩和政策の転換が困難となろう。
今後、原油価格がさらに低下し、物価上昇率が一段と縮小する可能性がある。株式市場の動揺も不安材料だ。とはいえ、再度の追加緩和で対応することは、将来の混乱のリスクをより一層高めるばかりで、選択すべき道ではない。