大阪市を5特別区に分け、広域行政は大阪府に一本化する大阪都構想が息を吹き返した。

 府・市議会は昨秋否決したが、大阪維新の会代表の橋下徹大阪市長と公明党府本部幹部の協議で、5月17日に住民投票を実施する方針が固まった。両党が組めば両議会の半数を超す。

 都構想は、日本の大都市制度を根底から変える。直接影響を受ける住民自身が、よく考えて選択すべきだ。その意思を直接問いたいという橋下氏の思いは理解できる。

 だが、今の都構想案(協定書)は、住民投票にかけるに値する中身といえるだろうか。

 協定書は昨年、維新議員だけの協議会で完成した。複雑で幅広い内容だけに、議会の精査は不可欠だ。否決時の議会審議では、野党側から多くの課題を指摘された。だが橋下氏は大幅な修正はしない意向だ。

 区割り一つとっても、これでいいのか、との疑問が浮かぶ。

 大阪市域は企業が都心部に集中する一方、周辺住宅地の多くで急速な少子高齢化が進む。今の区割りでは、5区中2区が、必要な行政経費を税収だけではまかなえない見通しだ。

 協定書では、豊かな区の税収を回してバランスをとるとしているが、将来、区同士の深刻な対立を招く恐れはないか。

 わかりにくいのは公明党の対応だ。住民投票は認めても協定書には引き続き反対するという。4月の統一地方選を前に、維新との関係修復を考えたようだが、住民に判断を丸投げするのは、無責任というほかない。

 橋下氏は、12月までの任期中に住民投票をするのが使命だと繰り返す。協定書への批判には「100%完璧な案はありえない。今の府・市の制度よりはるかにましだ」と反論する。

 だが、大阪が直面している最大の課題は経済の低迷と貧困層の増加だ。少なからぬコストを投じて大阪市を解体するのが最良の薬なのかは、冷静に検証する必要があろう。詰めを怠った末に失敗すれば、大阪がこうむる副作用ははかりしれない。

 住民投票の前に、協定書の問題点をできる限り是正するのが、提案者である橋下氏の責務だ。いま一度、反対派の意見に耳を傾け、正すべき点は正していくべきだ。

 統一選で府・市議会は改選される。都構想への有権者の賛否はさらにはっきりするだろう。住民投票にかけるか否かは、新議会でじっくり議論してからにしてはどうか。

 それで住民の関心が高まるなら、遠回りではないはずだ。