2015年1月7日水曜日

橋下徹市長「大阪市消防隊員は命を落とせ」妄言に反対する

 橋下徹・大阪市長が6日に行われた大阪市消防出初式に観閲者の立場で出席した。橋下氏は居並ぶ1300名の部隊を前に式辞を述べたが、この内容を巡ってネットを中心に激しい反発が起きている。

 まずは、大阪都構想の宣伝。彼は観閲者、つまり参加部隊の日頃の錬成の成果を査閲(実際に自分の目で確認)する、そのような立場である事などすっかり忘れ去っているかに見える。大阪都構想によって、大阪市消防局は大阪消防庁に組織変更される。消防吏員にとっても、大阪都構想は他人事ではないことまで否定はしないが、そんなことは幹部級の会合で話せばいいことだ。1分1秒を争う過酷な火災現場に臨む隊員たちに対する式辞として極めて不適切、場違いな内容であると言わざるを得ない。

 しかし、それ以上に橋下市長はとんでもない妄言を吐いた。「馬鹿な政治家のために命を落とす必要はありませんが、市民のためには、最後、命を落としてください」と述べたのだ。なぜ、これが許されないか。理由は4つある。

 まず、警防活動(火災等を警戒、鎮圧し、防除するために行う活動のことで、住民の生命、身体、財産を火災等から保護し、その被害を軽減することを目的とした活動全般)に対する「無知」である。橋下氏は、気軽に消防隊員に「死ね」と言うが、本当に彼らが死んだら、命の危機に瀕している市民を誰が守るのか。傷を負っている市民を背負って搬送している隊員が力尽きて倒れてしまえば、市民も助からない。隊員が死ねば、市民も死ぬのだ。死なないまでも隊員がダウンすれば、当該隊員も要救助者になってしまう。救助者は1名減り、要救助者は1名増える。1分1秒を争う過酷な火災現場では、得てしてこのようなことが起きる。だから隊員は死んではならないし、怪我などでダウンしてもいけないのだ。隊員1人のダウンが部隊全滅、要救助者全滅に直結する。それが火災現場。まさに戦場と変わらぬ過酷な場所。橋下市長は警防活動に対する理解がお粗末すぎる。

 次に、「思想や職業差別の肯定」。消防隊員は火災現場においては、誰であろうが助ける。たとえ親の仇であってもだ。自衛官はいざとなれば、憲法9条護憲論者、自衛隊違憲論者、無防備都市宣言派ら、自衛隊の活動を全否定する者であっても、己の命を捨ててでも守る。それと同じだ。「馬鹿な政治家」だろうが「橋下徹」だろうが、消防隊員は助ける。命を惜しまない。要救助者を職業や思想で扱いに差などつけない。むろん、重病人、幼児、妊婦、高齢者、女性らを優先して救助することはあるが、別にこれは理不尽な差別でもなんでもない。体力が弱い者、衰弱している者から先に救うのは当たり前の話。そのあたりの峻別が橋下市長はできていない。

 次に、消防隊員の覚悟に対する「愚弄」。過酷な火災現場は常に命の危険と隣り合わせであり、橋下市長に言われるまでもなく、隊員たちは覚悟を決めているのだ。覚悟を決めている人に、「覚悟が足らない。死ぬ覚悟を決めろ」と言い放つ。これがどれだけ残酷なことか。消防学校や警察学校では新隊員に対し、いかに殉職や受傷事故が本人だけではなく、組織、ひいては住民の利益を損なうかを懇々と説く。特に警察では、「殉職は警察官にとっての最大の不祥事」と叩き込むという。橋下市長はこんなことなど知りもしないのだろう。人の心を土足で踏みつけにできる者に、大衆を正しく導ける能力などない。

 最後に、橋下市長は「組織崩壊型リーダー」である点。組織構成員に「死」を命じる組織は、早晩、崩壊する。なぜなら、組織に忠実な構成員ほど本当に死んでしまい組織からいなくなってしまい、残りは組織に反感を持つ構成員ばかりになってしまうからだ。

 福島第1原発事故で、当時の海江田万里経済産業相が東京消防庁ハイパーレスキュー隊幹部に対し、「隊員は福島第1原発に長時間連続の放水をしろ。やらなければ処分する」と「命令」した件が猪瀬直樹・東京都副知事(当時)の暴露によって明らかにされた。多くの国民は海江田氏の非道な態度を非難した。これも上述の「無知」と「愚弄」
のなせる業だろう。

 余談だが、橋下市長の言葉を真に受けた隊員が、無謀な警防活動によって殉職したり重傷を負ったりしたケースを考えよう。いないとは思うが、机上の空論的に考察したい。当該隊員または遺族は大阪市に刑事・民事両面で責任を追及できる可能性がある。刑事は、業務上過失致死傷罪(刑法第211条第1項)。民事は、債務不履行に基づく損害賠償義務(安全配慮義務違反)(民法第415条)、および、公権力の行使に伴う地方公共団体の不法行為責任(国家賠償法第1条)。つまり、橋下氏の妄言は、単に無能、不遜、無知なだけでなく、最悪の場合、刑事や民事の責任を追及されかねないとんでもないものなのである。

 例によってマスコミはこれを問題視しない。産経など「独特の言い回しで激励」と表現した。産経の記者は橋下氏から「死ね」と言われて、これを激励と感じるそうだ。変わった感性の持ち主である。実社会でこのような手合いとは絶対に関わりたくない。

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