社説:戦後70年 言論のゆくえ 勝ち負けの議論越えて
毎日新聞 2015年01月07日 02時30分
もちろん世代交代だけで説明はつかないし、教授は国際関係の変化や冷戦終結も理由に挙げている。それでも戦後世代が活躍を始めた80年代から約30年がたった今、影響は一層大きく複雑になったと考えられる。
これから戦後の点検を進めるにしても、国際社会では通用しない歴史の見直しや、平和国家の歩みを損なうような安保政策の転換をすべきではない。特定の人種への民族差別をあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)には断固たる反対を貫きたい。
◇求められる多様な言論
一方、幾つかの問題は見直しが避けられないこともまた事実である。福島第1原発事故によりエネルギー政策は抜本的転換を迫られている。日米安保体制を長年支えてきた沖縄の基地負担も限界にきつつある。
戦後の何を引き継ぎ、何を改めるべきか。ジャーナリズムにできるのは、多様な言論の場を提供し考えるきっかけにしてもらうことだ。
朝日新聞の慰安婦報道を検証した第三者委員会の報告におおむね次のような提言がある。「記事の企画の趣旨に反する事実があったとしても無視してはならない。複雑で多くの異論がある問題は一面的、個人的人間関係に基づく情報のみに依拠するような取材体制を再考すべきだ」
外部から言われなくても自ら正すべき指摘であろう。報道のあり方を考える先人の仕事を紹介したい。
毎日新聞が81年に特報した、日米核密約をめぐるライシャワー元駐日米大使の核持ち込み発言は、他社の記事に学び、7年がかりで粘り強く取材した成果だった。その後も多くの記者が問題意識を持ち続け、民主党政権成立を経て、ようやく半世紀に及ぶ壁が崩れたのである。
「私たちのライシャワー報道は、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、朝日新聞、共同通信など国をこえ社をこえて、これまでの先達たちの『核持ち込み』報道の蓄積の上に行われたものでした」(核持ち込み発言で81年度新聞協会賞を受賞した「灰色の領域」取材班)
ジャーナリズムの役割は権力監視にある。同時に異論に対する寛容さと責任を伴う。相手を論破し沈黙させるだけの言論は慎もう。勝ち負けにこだわる議論を乗り越えたい。