東日本大震災と福島第一原発の事故からまもなく4年。2015年は、原発が再び動き始めた年として記憶されることになるのだろうか。

 原子力規制委員会の新基準に合格した九州電力川内原発が、今春以降に運転を始める見通しだ。関西電力高浜原発にもゴーサインが出た。適性審査を申請している原発は、ほかに12原発17基。予備軍が控える。

■対立し併存する民意

 実際に原発の運転を再開するためには、原発が立地する県と市町村の同意が必要だ。

 川内原発の場合、昨秋、鹿児島県と薩摩川内市の議会が再稼働を賛成多数で決め、知事と市長も再稼働を認める判断をした。手続きに従って地元の意思が示された。

 一方、国民全体の意思は異なる。朝日新聞が昨年11月におこなった世論調査では、再稼働に「賛成」が28%、「反対」が56%。13年6月以降の調査から同様の質問を続けているが、過半が慎重である点は変わらない。

 地元自治体が示すものも民意なら、調査に表れる世論もまた民意だろう。

 今後も川内にならって民意がくみとられていくと、各原発の審査が本格化するなかで「原発をなくしたい」という民意は打ち消されてしまうことになりかねない。それでよいのか。

 避難、放射線被害、電気料金値上げ――。事故後、原発を巡って民意は様々に対立し、併存してきている。何かを決めようとするなら、決め方についても再考するべきだ。分裂する民意を統合し、政策に反映させる仕組みがほしい。

 欧米には、市民が議論に参加し、民意を練り上げて「見える化」する取り組みがある。

■市民の参加がカギ

 先駆けとなったデンマークの試みは「コンセンサス会議」と呼ばれ、80年代後半から遺伝子工学の応用など科学技術政策をめぐって活発に実施された。

 公募に応じた一般の人たち十数人が、数日かけて専門家との質疑やグループでの学習・議論を重ね、自分たちだけで意見書をまとめ公表する。発表の場には議員やメディアが呼ばれる。

 国や地域によってやり方はさまざまだが、共通するのは「対話の重視」と「異なる意見を認め合うなかでの合意形成」だ。

 2012年の夏、民主党政権が原発政策を決める際に取り組んだ「国民的議論」も、こうした流れに沿ったものだった。

 パブリックコメントの募集や各地での意見聴取会の開催に加え、政府として初めて「討論型世論調査」を実施した。

 世論調査に答えた全国7千人弱の中から300人ほどに1泊2日の討論会へ参加してもらい、前後のアンケートを合わせた計3回の調査で回答の変化を見る。年齢や職業に偏りがないよう回答者を無作為に選ぶことを基本にしながら、議論を通じてじっくり考え抜いた末の民意がどのようなものになるかをつかもうとする試みだった。

 その結果、「多くの国民が原発のない社会を望んでいる」という総括を導き出した。調査法やその後の政権としての意思決定に課題は残ったが、国民の意思を正確に把握しようとした姿勢は評価できるし、こうした手法は、原発政策を巡る論議にもっと生かされていい。

■合意迫る課題は山積

 原発をめぐる民意の分裂は、「国民総体と立地自治体」の構図にとどまらない。事故後、原発の建設や再稼働に関与する「地元」の範囲についても、自治体の間に食い違いが出た。

 北海道函館市は昨年4月、対岸の青森県に建設中の大間原発について国と事業者のJパワー(電源開発)を相手取り、差し止めを求める訴訟を起こした。

 原発から30キロ圏内にあり、大事故が起きれば住民が危険にさらされる。であれば自分たちも建設の賛否に関与できるようにすべきだ、との思いからだ。

 今後をにらめば、補助金制度や使用済み核燃料の保管、放射性廃棄物の処理と、本来、広く合意や同意が必要となる課題が山積みだ。そこでも民意はさまざまに対立するだろう。それを束ねられなければ、無理強いか先送りかという不毛な選択を繰り返すことになる。

 原発回帰を進める安倍政権だが、昨年4月に閣議決定した「エネルギー基本計画」には次のような文言が盛り込まれた。

 「多様な主体がエネルギーに関わる様々な課題を議論し、学び合い、理解を深めて政策を前進させていくような取り組みについて、今後、検討を行う」

 政府は、電源に占める原発の比率を将来どの程度にするのかを議論して、夏までにまとめる。従来方式では乗り切れないと考えるなら、決め方を早速、変えてはどうか。

 人々の思いや考えをどう測り、どのように統合して意思決定につなぐのか。原発は「決め方」について根本的な問いを突きつけている。