社会

圧勝の陰で〈中〉原発 国側の威圧露骨に

 独裁、裏切り者、圧力、恐怖-。穏やかななまり口調からどぎつい言葉が次々と飛び出す。「政府の言うことは絶対で、国民は従うしかない。そんな独裁政治が続くような気がしてならない」。自民党圧勝の結果に小畑まゆみさん(55)はこぼした。

 仮住まいの葉山町から車で約4時間。福島県富岡町の自宅は東京電力福島第1原発から8キロの居住制限区域にある。立ち入る際は町役場で線量計測器を借り、防護服に身を包む。

 11月に帰郷し、驚いた。区域のそばを通る国道6号で警察官が防護服を着ないで道路警戒に当たっていた。「バイクで通るのも車の窓を開けるのも許されない道なのに」。自宅近くの富岡町総合運動場の放射線量は毎時3~4マイクロシーベルト。神奈川の約100倍の数値だ。「あの警察官の姿を県外の人がテレビで見たら『もう福島は安全だ』と思う。『原発事故は収束した』とアピールしたい国側の思惑が透けてみえる」

 「圧力」はここ神奈川でも感じる。この春、いわき市から2人の子どもと小田原市に自主避難してきた母親と知り合った。学校給食に福島市産の米を使うことに不安を感じ、反対する活動を続けていた。「でも、理解を得られず孤立してしまったと聞く。国や自治体の決定に異を唱えただけで『裏切り者』とみなす風潮があるのでは」

 福島を離れて神奈川で避難生活を送っているのは約1900人。地域住民と交流し、励まし合う場をつくりたいとイベントを企画する。

 その会合で、アベノミクスの成果を強調する安倍晋三首相のことが話題に上った。「いわき市では除染作業のために労働者が集まり、バブルのようなにぎわいと聞く。原発事故で雇用を生み出すという皮肉な話だ」

 避難者の一人が「現実を見ろ」と声を荒らげた。

 「事故処理とどう向き合うか議論もせず、事故がなかったかのように再稼働を進める。臭いものにふたをするように都合の悪い話はせず、自らに都合のいい情報だけを流す。強引で卑劣なやり方だ。俺らはだまされねぇ」

 自民圧勝となった投開票から一夜明けた15日、会見した安倍首相は「安全性が確認された原発は地元の理解を得つつ、再稼働を進めていく」と明言した。

 戦後最低、52・66%(小選挙区)の投票率で再び得た、自公合わせて3分の2超の議席。小畑さんがかぶりを振る。「福島では選挙は全く盛り上がっていなかった。『何を言っても変わらない』といった諦めの雰囲気が漂っていた」

 虚無感が胸を襲う。それ以上に恐怖感があるという。

 「圧勝したことで安倍政権はより思うままに振る舞うだろう。声を上げ、意思を示していかなければ、自分たち避難者の存在さえも消し去られ、ないものとして扱われていくかもしれない」

 原発事故被害者として背負わされたそれが宿命などとは思いたくないが、あらがい続ける覚悟を小畑さんは新たにする。

【神奈川新聞】