第145回
山田幸子(チアリーディング)
屈強な男たちが、体と体を激しくぶつけあうアメリカンフットボールのフィールドの脇には、セクシーなコスチュームを着た女性たちがいる。華麗なダンスパフォーマンスでゲームを盛り上げるチアリーダーは、頭脳明晰、容姿端麗、ユーモアのセンスも必須条件。アメリカ4大スポーツで最も人気のあるNFLのチアリーダーは、特別な存在だ。
「アメリカでは女性の象徴と言われるほどのものなんですね。頭はいいし、ダンスもうまいし、ナイスバディ。ただ、外見だけではダメ。ホームゲームは10数試合だけで、チアリーダーほとんどの時間をボランティア活動に費やす。チアには応援するだけじゃなく、元気づけるとか励ますという意味もある。選手やファンはもちろん、ゲーム以外でも様々な人の元気を引き出してパワーを与える、それが本来の姿なんです」
山田幸子がチアリーディングに出会ったのは大学に入学してから。それまで器械体操をやっていた彼女は、人を投げたり、飛ばしたりするアクロバットな動き『スタンツ』を主流とする競技としてのチアリーディングをしていた。しかし、卒業後、アメリカンフットボールのチームを応援するチアリーディングを始めると、ファンを盛り上げ、チームを勝利に導くチアリーダーに強く惹かれていった。
「日本ではアメフトの知名度も低いし、観客の方も全然盛り上がらない。そういう人たちにアメフトを知ってもらい、盛り上がってもらうようにするのが面白くて。四角いマットの上で競技をするより、大きなフィールドで踊ることが楽しくなりました」
チアの魅力を知った山田は、本場・NFLへの憧れが強くなる。勤めていた銀行をやめ、昨年と今年、サンフランシスコ・49ersのトライアウトを受験した。ファイナルまで進出したものの落選。しかし、夢を諦められず、5月にオークランド・レイダースのチアリーダーチーム、レイダレッツのトライアウトを受け、見事難関を突破した。
「なぜ、合格できたかですか? 今回は、素のままの自分を表現しようと。茶色だった髪を黒に戻して、日本人としての自分をそのままアピールしたのが良かったんですかね(笑)。合格した時は、うれしいと言うより、ホッとしました。両親には心配をかけましたから……」
しかし、ようやく手にした夢が突然こぼれ落ちた。ビザが取得できず、レイダレッツの活動を断念しなければならなくなったのだ。最近では、清水エスパルスの三都主アレサンドロが、ビザの発行ができず帰国している。「どうしようもできないこととはいえ、ショックでしたね」と言うが、合格したことは彼女に大きな自信と新たな目標を与えた。
「(レイダレッツの)メンバーに、『CHIKO(愛称)のダンスはすごく新鮮で、スピリットにはとても感動した』と言われたことはすごくうれしかった。本場のチアを体感して、アメフトがすごくポピュラーなものであることを感じました。お客さんはルールを知ってるし、どこで盛り上がるかもわかっている。でも日本では、私たちがイチから教えなければいけない。それって、アメリカでやるよりはるかに技術がいる。だから日本でも頑張ろうって」
現在は、アメリカンフットボールの普及を目的にXリーグの各チームのチアリーダーで結成された「VENUS」に所属している。厳しい審査の中から選ばれた「VENUS」はチアリーダーのオールスターチーム。その中でも、154cmと小柄な山田はひと際目立つ。ディレクターを務める末吉恭子氏も「すごくダイナミックですね。あの大きなスタジアムで踊っても、体の小ささを感じさせない」と、彼女の魅力を語る。11月23日(日)には、「第2回全日本チアダンスチャンピオンシップ」にゲストとして出演。アメフトのオフェンスやディフェンスの時の応援やハーフタイムショーなどを構成し、Xリーグの雰囲気を味わってもらうつもりだ。
「チアリーディングを競技としてしか知らない人にも、応援の面白さを伝えたい。今でも、NFLへの夢は諦めてません。でも、まずは日本でチアリーダーの地位を確立していきたいですね」
山田さん(CHIKO)が所属している日本社会人アメリカンフットボール協会「Xリーグ」のオールスターチアリーダーズのチーム「VENUS」のHPはこちら。
http://www.xleague.com/x_cheer/as/index.html
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