(cache) 「彗星」艦上爆撃機

二式艦上偵察機(D4Y1-C) 艦上爆撃機「彗星」(D4Y1～3) 　艦上爆撃機として製作されながら、実用試験段階では艦上偵察機に改装、ミッドウェー海戦に参加。その後、二式艦上偵察機(D4Y1-C)として正式採用、マリアナ海戦の頃より本来の艦爆として、敵の戦闘機に匹敵する高速性能の艦爆として出動した。その活躍が期待されたが、構造の複雑さと、不慣れな空冷発動機”アツタ”の不調から実動率が低かった。　後に発動機を空冷”金星”に改装した、所謂「空冷彗星」彗星33型が作られ、終戦まで比島及び本土を基地として敵機動部隊の反撃に使われた。また台湾、沖縄作戦には、特攻機としても出撃、海軍が設計した数少ない傑作機の一つで、その高性能から斜銃を装備して夜間戦闘機に改造され本土防空に使用された機体もある。 ◎　製作所　愛知、広工廠　　　　製作機数　2,027機　艦上爆撃機「彗星」各型（D4Y1～5） 11型　(D4Y1)　　21型(D4Y1－改)　　12型　(D4Y2)　　12型甲(D4Y2a) 12型戊(D4Y2-S)　22型(D4Y2－改)　　22甲型(D4Y2a)　 33型　(D4Y3) 33甲型(D4Y3a)　 43型(D4Y4)　　　 54型　(D4Y5) 二式艦偵11型　(D4Y1-C)　　　二式艦偵12型(D4Y2-C) 二式艦偵12甲型(D4Y2-Ca) 艦上爆撃機（D4Y1～4）　要目表艦上爆撃機12型（D4Y2）艦上爆撃機「彗星11型」(D4Y1) 製作記号　D4Y1　　試作名　13試艦上爆撃機　コードネーム　judy 寸　度　　全幅　11.493ｍ全長　10.220ｍ(水平)全高　3.295ｍ(3点) 　　　主翼弦長　 2.790ｍ(中央)～1.395ｍ(翼端) 　　　補助翼幅　　　　ｍ×２　　　フラッフ幅　　　ｍ×２　　翼折時全幅　 7.300ｍ　　　　　翼折時全高　4.800ｍ　　水平尾翼幅　 5.000ｍ　　　　　垂直尾翼高　　　ｍ　　　主輪間隔　 4.630ｍ　　　　　主翼上半角　3.5° 　　　　後退角　　 32％　翼弦で０° 面　積　　主　翼　23.600㎡(補助翼を含む)　　水平尾翼　3.550㎡　　　　垂直尾翼　 1.006㎡　　　　　　　　　　補助翼　0.750㎡×２　　　　　昇降舵　 1.388㎡抵抗板 0.575㎡×２　方向舵　0.882㎡重　量　　自重 2,440㎏　総重量 3,650㎏(正規)　3,960kg(爆撃過荷) 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　4,250kg(偵察過荷) 発動機　　愛知「熱田」 12型　　水冷倒立Ｖ形 12気筒×１　　　　　離昇馬力　1,200hp/2,500rpm/ｍ　　　　　公称馬力　1,010hp/2,400rpm/1,500　　　　　　　　　　　　965hp/2,400rpm/4,450ｍプロペラ　住友ハミルトン油圧式　定速３枚羽根　直径　3.200ｍ　　　　　　　　　　　　　　　　ピッチ　23.5°～31° 燃　料　　　翼　内　 1,070㍑　　落下増槽 330㍑×2　　　　　　実搭載量　　650㍑(爆撃正規) 1,070㍑ (爆撃過荷) 　　　　　　　　　　2,100㍑(偵察過荷) 　　　　　　滑　油　　　73㍑性　能　　最大速度　298.0kt<552km/h>/4,750ｍ　　　　　巡航速度　230.0kt<426km/h>/3,000ｍ　　　　　着陸速度　 75.5kt<140km/h> 　　　　　上昇時間　3,000ｍ～5分14秒　　5,000m～ 8分57秒　　　実用上昇限度　9,900ｍ　　　　　航続距離　　850nm<1,574km>(爆撃正規）　　　　　　　　　　1,400nm<2,590km>(爆撃過荷) 　　　　　　　　　　2,100nm<3,890km>(偵察過荷) 　　　　　離陸距離　(無風) 199ｍ　 (風速 12m/s) 85ｍ武　装　　胴体後上　　　　　7.7mm旋回機関銃　１門　　　　　機首　　　　　　　7.7mm固定機関銃　２門　　　　　爆弾　500kg×１又　250kg×１又は30kg×２乗　員　　２　　　　　　初号完成　昭和１５年１１月　　日　　　　　　　　　　11型正式採用　昭和１８年１２月　　日　　　　　　　　　　21型正式採用　昭和１９年　３月　　日　　　　　　　　　　　量産１号機　昭和１７年末　月　　日設　計　　空技廠製作会社　愛知　生産機数11型までの計　　　６６０機　　　　　愛知　工廠全型生産機合わせて２，１６０機備　考　試作１号機はDB600G発動機搭載、試作２号機以降、「熱田」12型　　　　搭載、試作機５機製作。２式艦偵11型（D4Y1-C）－最初偵察機と　　　　して正式採用された、発動機「熱田」21型搭載。　　　　「彗星」21型（D4Y1改）カタパルト射出用に改造「伊勢」に搭載　　　　予定。　　　　艦偵11型と等しい。艦上爆撃機「彗星12型」(D4Y2) 　製作記号　D4Y2 　　試作名　13試艦上爆撃機コードネーム　Judy 　寸　度・面積・プロペラ・燃料・滑油・武装・乗員、D4Y1に同じ。重　量　　自重 2,550㎏総重量 3,750㎏(正規)　4,115kg(爆撃過荷) 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 4,623kg(偵察過荷) 発動機　　愛知「熱田」 32型　　水冷倒立Ｖ形 12気筒×１　　　　　離昇馬力　1,400hp/2,500rpm/ｍ　　　　　公称馬力　1,340hp/1,700ｍ　 1,280hp/ rpm/5,000ｍ性　能　　最大速度　313.0kt<580km/h>/5,250ｍ　　　　　巡航速度　230.0kt<426km/h>/3,000ｍ　　　　　着陸速度　 78.0kt<145km/h> 　　　　　上昇時間　3,000ｍ～4分36秒　　5,000m～ 7分40秒　　　実用上昇限度 10,700ｍ　　　　　航続距離　　790nm<1,463km>(爆撃正規) 　　　　　　　　　　1,291nm<2,389km>(爆撃過荷) 　　　　　　　　　　1,945nm<3,604km>(偵察過荷) 　　　　　離陸距離　(無風) ｍ　 (風速 m/s) ｍ乗　員　　２名　　　　初号完成昭和１５年１１月　日　　　　　　　　　12型正式採用昭和１９年１０月　日設　計　　空廠製作会社　愛知　生産機数12.22各型計　　　　３２０機　　　　　愛知　工廠　全型生産機合わせて２，１６０機備　考　　「彗星」11型（D4Y1）をハ゜ワーアッフ゜した性能向上型。　　　　　「熱田」32型（AE1P）発動機を搭載。風防前面形状改修　　　　　防弾強化、しかし発動機の不調により稼働は率低下した。　　　　　12型甲(D4Y2a)　－後上方旋回銃7.7mmを２式13mm機銃に　　　　　　　　　　　　　換装した武装強化型。　　　　　12型戊(D4Y2-S) －後席後方に99式２号20mm固定斜銃を　　　　　　　　　　　　　４門装備、本土防空用夜間戦闘機。　　　　　22型(D4Y2改)　－12型を射出機より発射可能にした改造型。　　　　　　　　　　　　　 19年10月採用。　　　　　22型甲(D4Y2a改)－22型の武装強化型。19年11月採用。　　　艦上爆撃機「彗星」33型（D4Y3）艦上爆撃機「彗星」33型（D4Y3）製作記号　D4Y3 　　試作名　13試艦上爆撃機コードネーム　Judy 寸　度・面積・燃料・滑油・乗員、D4Y2に同じ。重　量　　自重 2,500㎏総重量 3,750㎏(正規) 4,120kg(爆撃過荷) 発動機　　三菱「金星」 61～62型　　空冷星形複列 14気筒×１　　　　　離昇馬力　1,560hp/ rpm/ｍ　　　　　公称馬力　1,350hp/ rpm/2,100　 1,190hp/ rpm/5,800ｍプロペラ　住友ハミルトン油圧式　定速３枚羽根　直径　3.000ｍ性　能　　最大速度　304.0kt<561km/h>/5,900ｍ　　　　　巡航速度　200.0kt<370km/h>/3,000ｍ　　　　　着陸速度　　　 kt< km/h> 　　　　　上昇時間　3,000ｍ～4分35秒　　6,000m～ 9分18秒　　　実用上昇限度 10,500ｍ　　　　　航続距離　　820nm<1,520km>(爆撃正規) 　　　　　　　　　　1,560nm<2,890km>(爆撃過荷) 　　　　　離陸距離　(無風) 240ｍ　　(風速 m/s)ｍ武　装　　胴体後上　　　　　7.9mm旋回機関銃　１門　　　　　機首　　　　　　　7.7mm固定機関銃　２門　　　　　爆弾　500kg×１又　250kg×１又は30kg×２　　　　　主翼下面に250㎏左右各１発ずつ　　　乗　員　　２　　　　　　初号完成　昭和１５年１１月　　日設　計　　空廠製作会社　愛知　生産機数33.33甲各　　　型計　　５３６機　　　　　愛知　空廠　全型生産機合わせて　　２，１６０機備　考　「熱田」32型(AE1P)発動機の不調により稼働率低下のため、　　　　　三菱「金星」62型に換装、装備改修簡素化、当初は試製　　　　　彗星改と呼ばれた。　　　　　33型甲(D4Y3a)－後上方旋回銃 7.7mmを２式13mm機銃に　　　　　　　　　　　　　換装した武装強化型。艦上爆撃機「彗星」43型」(D4Y4) 製作記号　D4Y4　　試作名　13試艦上爆撃機コードネーム　Judy 寸　度・面積・発動機・プロペラ、D4Y3に同じ。重　量　　自重 2,635㎏総重量 4,540㎏(正規) 4,750kg(爆撃過荷) 燃　料　　実搭載量 690㍑(正規) 1,320㍑ (過荷)　滑油　　㍑性　能　　最大速度　298.0kt<552km/h>/2,600ｍ　　　　　巡航速度　180.0kt<333km/h>/3,000ｍ　　　　　着陸速度　 kt< km/h> 　　　　　上昇時間　5,000ｍ～9分22秒　　m～分秒　　　実用上昇限度　8,450ｍ　　　　　航続距離　　893nm<1,654km>(正規）1,400nm<2,590km>(過荷) 武　装　　機首　7.7mm固定機関銃　２門　　20年4月以降廃止　　　　　爆弾　800kg×１又は500kg×１乗　員　　１～２　　　　　　　　初号完成　昭和１５年１１月設　計　　空技廠製作会社　　愛知　　　　生産機数　　34型計　　　２９６機　　　　　　愛知　工廠　全型生産機合わせて　２，１６０機備　考　「彗星」最後の量産型、特攻機型。　　　　　防弾強化、装備改修簡素化、武装変更、噴射器装備、　　　　　単座に改修されたのも有り。

艦上爆撃機「彗星」12型（D4Y2）三面図

艦上爆撃機「彗星」(D4Y1～4)の解説　海軍は昭和11年にドイツから購入したハインケル He118急降下爆撃機を艦上爆撃機としての国産化を計画したが寸法、重量が大きいわりには性能が良くなく、結局計画をとりやめ、新しく次期艦上爆撃機を試作することになった。　昭和13年に「13試艦上爆撃機」として、研究的に海軍航空技術廠で試作を行うこととして、山名正男技師を主務者として設計に着手した。本機要求の根本を成していたものは、敵艦載機の行動半径外から発進、最短時間で目標に到達して、先制攻撃を加える事が出来る長航続力を持ち、且つ、敵戦闘機と同等以上の速力を有する艦爆である。　此の理想に近い要求を満たすため山名技師ら設計陣は、航空技術廠での開発ゆえ、量産性より研究機的要素を多分にもつ方針で設計が進められた。まず、機体は極力小型にして軽量化をねらい、全幅は空母のエレベーターの寸法に合わせ翼の折りたたみ機構を廃止した。また抵抗の減少に努力がはらわれ、同体内爆弾倉や層流翼に近い特徴ある主翼断面を採用、発動機も艦爆としては重要な、急降下時と着艦時の前方視界向上を兼ねて輸入した液冷式のダイムラー・ベンツ(DB601A) 液冷倒立Ｖ形12気筒を選出したほか、セミ・インテグラル・タンク、操作系統の全電動式など種々の新機構がとり入れられた。また艦爆が急降下時の抵抗板も新方式のものが考案され、これは以後、海軍の急降下爆撃機、銀河、流星、晴嵐など全面的に採用された。　昭和15年11月、試作第１号機が空技廠で完成、画期的な性能を発揮したが、DB601A発動機の調整にてまどり、続く試験飛行に遅延を期するなどの障害が生じたた。昭和15年から16年にかけて空技廠で試作機５機が製作されたが、これにはDB601Aを愛知で国産化した「熱田12型」発動機を装備して空技廠の試験飛行の結果、当時海軍機で最高の時速 552kmを記録し、航続距離も3,890km におよんだ。　その高速と長航続力がかわれ、試作３～４号機は艦上偵察機に改装されミッドウェー作戦で実用試験の結果、高性能が認められ、強度上に多少の問題があったが、昭和17年７月から、とりあえず愛知飛行機で量産を開始、昭和17年10月、発動機を「熱田12型」(AE1A)に換装し「２式艦上偵察機」(D4Y1-C）として正式採用された。　艦爆として設計された「彗星」も18年６月に至ってようやく最初の爆撃隊が編成され、９月には南方に出撃、昭和18年12月に本来の艦上爆撃機「彗星」11型(D4Y1)として正式採用となり、19年３月には11型の小数機をカタパルト射出可能に改造し、航空戦艦「伊勢」に搭載する予定の「彗星」21型(D4Y1改)が正式採用になった。　計画、設計時の小数機生産の高性能機としての要素がつよく、激烈な消耗戦下での量産には機構が複雑な本機では無理が多く、燃料漏れ、冷却機の水漏れや故障、各部の整備、調整が困難で前線部隊での稼働率を下げる結果となった。　昭和19年10月には、性能向上型の彗星12型(D4Y2)が正式採用され、発動機は強化型、熱田32型(AE1P)を装備、最大速度の向上に成功したが、液冷発動機の故障続出生産低下で、機体だけの首無し機が並んでしまった。12型では風防の形状が変化し、防弾ガラスの使用のほかは機体は同じである。　しかし本機の性能の良さは、その後も種々の改装型が正式採用されたが、発動機の故障と生産低下は続き、遂に当局は水冷発動機に見切りをつけ、発動機を信頼性のある空冷式「金星62型」に換装した試製彗星改が19年５月に試作された。性能には若干の低下が見られたが、その実用性は大いに向上し、空冷型「彗星」33型（D4Y3）として採用されたが、本来の艦爆でなく陸上爆撃機として艤装され終戦まで活躍した。「彗星」最後の生産型は43型(D4Y4)で、端的にいえば特攻機型であり燃料槽、操縦席前方に防弾鋼板を装備、無線機など艤装品は簡易化され、搭載爆弾は 800kg一発が標準となった。　彗星は全部で15種の改装型が製作あるいは計画されたが、13試艦爆の５機を除いてほどんとは愛知飛行機で製作、一部が第11航空廠(広工廠)でも作られた。　11型(２式艦偵、21型を含む) 660機、12型(２式艦偵、12甲型、12 戊型、22型、22甲型を含む) 536機、33型(33型甲を含む) 536機、43 型 296機が愛知で製作、第11航空廠で33型以後の 340機が製作された。総生産量 2,160機で、これは零戦及び１式陸攻に次ぐ大量生産である。　実戦に投入されたのは、試作機型の13試艦爆の第３、４番機が空母「蒼龍」に艦偵として搭載され、南方作戦に従事中に１機喪失、後の１機はミッドウェー海戦に参加し、高速を活かして良く活躍したが、空母陣の全滅で、これと運命を共にした。その後、昭和18年の末には本来の艦爆とし部隊編成され、19年のトラック島空襲で米機動部隊に陸上基地から攻撃に発進、これが艦爆としての初陣とされている。　マリアナ海戦には敵の戦闘機に匹敵する高速性能の艦爆として主力の座にあり、その活躍が期待されたが、搭乗員の未熟と、問題の液冷発動機”熱田”の不調からさしたる戦果を見ることはできなかった。　19年後半からは、使用できる空母もなく、空冷”金星”に改装された所謂「空冷彗星33型」が、終戦まで比島及び本土を基地として敵機動部隊の反撃に使われた。また台湾、沖縄作戦には、特攻機としての活躍が知られる。　海軍が設計した数少ない傑作機の一つだが、実用化までに時間をかけ過ぎ、戦線に投入された時には、その高性能もさしたるものでなくなっていた。せめてミッドウェー海戦の頃、艦偵としてでなく艦爆として実用化に成功していればと惜しまれてならない。本機も完成時期を逸した「悲運の名機」と言えるのではなかろうか。　　　　艦上爆撃機「彗星」各型　　　１１型(D4Y1)　発動機「熱田12型」装備、量産最初の型。　　　２１型(D4Y1改)　１１型をカタパルト射出可能に改装。　　　１２型(D4Y2)　発動機「熱田32型」に換装の性能向上型、　　　　　　　　　　風防前面の形状を改良。　　　１２甲型(D4Y2a）１２型の武装強化型。　　　１２型戊(D4Y2-S)　１２型を夜間戦闘機に改装。　　　２２型(D4Y2改)　１２型をカタパルト射出可能に改装。　　　２２甲型(D4Y2a改)　２２型後席上方に機銃装備。　　　３３型(D4Y3)　発動機「金星62型」に換装、空冷型。　　　３３甲型(D4Y3a)　３３型後席上方に機銃装備。　　　４３型(D4Y4)　３３型の防弾強化、単座に改装、補助ロケット　　　　　　　　　　５本装備、特攻機型。　　　５４型(D4Y5)　４３型の発動機を「誉12型」に装備、計画のみ。　　　２式艦偵１１型(D4Y1-C)　１１型を艦偵に改装。　　　２式艦偵１２型(D4Y2-C)　１２型を艦偵に改装。　　　２式艦偵１２甲型(D4Y2-Ca)　１２甲型を艦偵に改装。