南西防衛:基地の経済波及効果か戦争の影か…割れる意見
毎日新聞 2015年01月04日 08時30分(最終更新 01月04日 12時16分)
政府が計画する南西地域の防衛力強化(南西シフト)に伴い、九州・沖縄は自衛隊の部隊が次々と新設・拡充されていく。対象となる地域は地理的に不便な離島が多く、経済の衰退に悩まされ、基地誘致をきっかけとした活性化に期待を寄せる。半面、中国などとの緊張の高まりを招くことへの不安もあり、「国防の最前線」に置かれる住民の思いは揺れている。
沖縄本島の南西約500キロに浮かぶ与那国島(沖縄県与那国町)。政府は2015年度に陸上自衛隊の沿岸監視部隊を新設する計画だ。しかし、反対派住民でつくる「イソバの会」の共同代表、山口京子さん(57)は「軍事施設があれば中国などを刺激し、攻撃目標にされかねない。観光にも影響が出る」と語る。島は日本最西端にあり、中国に最も近く、日中が対立する尖閣諸島も約150キロしか離れていない。
部隊配備を巡り、島民は揺れ続けてきた。糸数健一・町議会議長は「安全保障の観点から基地は必要。中国の脅威が増す中、日本全体のために与那国に部隊は置くべきだ」と主張する。だが、島の基幹産業である農漁業は衰退の一途をたどり、1940年代に1万2000人だったとされる人口は約1500人まで減り、流出に歯止めがかからない。部隊誘致派には、配備に伴う町税増収、消費拡大、インフラ整備などの経済効果への期待が強い。
町長選もこれまで誘致派と反対派が激しく激突してきた。2013年、誘致派の町長が3選を果たすと「過疎化に歯止めをかける」と語り、これを受けて政府は計画を進める。だが、反対派は14年11月の町議会で配備の是非を問う住民投票条例を可決させるなど、島は今も真っ二つだ。
一方、350人規模の陸自警備部隊を置くことが計画されている鹿児島・奄美大島。14年5月には、陸自の新たな先鋭部隊となる水陸機動団の母体「西部方面普通科連隊」(長崎県佐世保市)などによる離島奪還訓練も実施された。
「自民党は憲法改正で『国防軍』の創設を目指している。将来的に自衛隊でなく、他国並みの軍が置かれることにつながりかねない」。奄美市の市民団体「戦争のための自衛隊誘致に反対する奄美郡民会議」の高(たか)幸広代表は憂う。戦禍を被った歴史があり、島民に陸自配備への反対は根強い。