20万部を超えるベストセラーとなっている『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書)の著者でエコノミストの水野和夫氏と、2013年9月の刊行以来売れ続けるロングセラーとなる『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(講談社)の著者・パン屋タルマーリー店主の渡邉格氏。お二人に、今という時代を読み解き、これからの時代を生きるヒントを聞いた。エコノミストが研究を重ねて辿り着いた結論と、パン屋が試行錯誤して編み出した「田舎での仕事と生活のありかた」が、不思議なまでに重なり合う---。
※この記事は、2014年12月2日に三省堂書店神保町店で行なわれた対談を再構成したものです。
対談の動画はこちらで閲覧が可能です。https://www.youtube.com/watch?
利潤率が下がるのにはワケがある
――利潤の話が出たところで水野先生に伺いたいのですが、利潤というのはそもそもどういうもので、今、利潤率がゼロに近づいているのはどういう背景があるのでしょうか?
水野 利潤というのは、事業を通じて生まれた付加価値の分配先のひとつです。付加価値というのは、売値から仕入れ値を引いた、要するに粗利のことです。付加価値の分配先は、マクロ経済では(1)「固定資本減耗」、(2)「雇用者報酬」、(3)「営業余剰・混合所得」の3つがあり、企業会計では、(1)は「減価償却費」、(3)が「企業利潤」に相当します。
利潤率というのは、資本を元手にどれほどの利潤をあげられたか、つまり、「利潤額÷資本総額」の計算で求められます。この式の分母が大きくなるか、分子が小さくなれば利潤率は下がります。
今、なぜ利潤率が下がっているかというと、分母の資本総額が増えているのがひとつの大きな理由です。日本の民間資本総額は1200兆円超、GDPが500兆円程度、GDPの2倍以上の資本ストックがあるわけです。これは世界で飛び抜けて高い数字で、2位のドイツがだいたい1.8倍、アメリカやイギリスは1.1倍、1.4倍ですから、日本は他の先進国と比べて過剰な資本を持っているということです。
資本総額が増えると、資本を維持するための「固定資本減耗(減価償却)」も増えて、付加価値から利潤に分配される金額が減少します。分母である資本総額が大きくなって、分子である利潤額については収益逓減の法則が働いて減るわけですから、利潤率は当然低下します。
――なるほど、そういう関係になっているのですね。
『資本主義の終焉と歴史の危機 』水野和夫著
(集英社新書,799円)
資本主義の最終局面にいち早く立つ日本。世界史上、極めて稀な長期にわたるゼロ金利が示すものは、資本を投資しても利潤の出ない資本主義の「死」だ。他の先進国でも日本化は進み、近代を支えてきた資本主義というシステムが音を立てて崩れようとしている。一六世紀以来、世界を規定してきた資本主義というシステムがついに終焉に向かい、混沌をきわめていく「歴史の危機」。世界経済だけでなく、国民国家をも解体させる大転換期に我々は立っている。五〇〇年ぶりのこの大転換期に日本がなすべきことは?異常な利子率の低下という「負の条件」をプラスに転換し、新たなシステムを構築するための画期的な書!
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『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」 』渡邉格著
(講談社,1,729円)
どうしてこんなに働かされ続けるのか? なぜ給料が上がらないのか? 自分は何になりたいのか?――人生どん底の著者を田舎に導いたのは、天然菌とマルクスだった。「この世に存在するものはすべて腐り土に帰る。なのにお金だけは腐らないのはなぜ?」--150年前、カール・マルクスが「資本論」であきらかにした資本主義の病理は、その後なんら改善されないどころかいまや終わりの始まりが。リーマン・ショック以降、世界経済の不全は、ヨーロッパや日本ほか新興国など地球上を覆い尽くした。「この世界のあらたな仕組み」を、岡山駅から2時間以上、蒜山高原の麓で、築百年超の古民家に棲む天然菌でパンを作るパン職人・渡邉格が実践。パンを武器に日本の辺境から静かな革命「腐る経済」が始まっている。
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