上空約500メートル。ヘリコプターから眼下を見下ろすと、ビルが立ち並び、まるでジオラマのように東京の街が広がる。しかし注意深く見てみると、室外機や給水タンクを備えた無機質なコンクリートの建物の屋上に、鮮やかな黄色い巨大な文字が点在していることに気が付いた。誰かへのメッセージなのだろうか。空へ向けた巨大文字の謎を追ってみた。
■学校に巨大文字のなぜ
取材のため羽田空港からヘリで飛び立つと、建物の屋上に描かれた変わった模様と巨大な文字が視界を横切った。うずまきや黄色い蛍光色で「羽田小」。地上からは全く見ることができない。何のための“メッセージ”なのか小学校に聞いてみると、「うずまき模様は体育の授業などで使われていたが、文字の意味はちょっと」と首をかしげる。そこで大田区役所に問い合わせてみた。すると文字は「ヘリサイン」という飛行中のヘリパイロットに向けた目印だということが判明した。
ヘリサインとは大規模災害時に救援ヘリが救助や物資の輸送の目印となる建物を識別できるよう東京都が設置を進めている。公共性が高く防災拠点となりうる学校、病院、消防署など、すでに都内の1135の建物屋上に描かれている。2015年度末までに1600施設に増やす方針だ。都の施設だけでなく各区市町村にも要請しているという。「2001年ごろに都営住宅へ設置したことが始まり」と東京都防災管理課の青柳稔さん。「幸いにもまだヘリサインが活躍したことはなく、いざという時に備えることが大事」と気を引き締める。
■「なかなか気付いてもらえません」
東京の新しいランドマーク「スカイツリー」。夏の隅田川花火大会や日食などの天体ショーでは、共演するシルエットがしばしば新聞に掲載される。地上から見ても存在感があるが、空から眺めると高さが一段と際立つ。ふと地上にカメラを向けると大きな文字がファインダーに飛び込んできた。「イチジク製薬」。他にも「税理士会」や「e-Tax」と住宅などが密集した下町に一風変わった文字を見つけた。これらも大規模災害時のヘリの標識だろうか。しかし多くの文字があるひとつの方向を向いている。なるほど、合点がいった。これらはスカイツリーの展望台から眺める観光客への広告だったのだ。
創業から墨田区に本社を構えるイチジク製薬。スカイツリー開業時に社内でアイデアを募集、屋上広告に主力商品のパッケージデザインを採用した。「残念ながら医薬品なので商品の売り上げが伸びたという話はありません」と営業部企画課の三宅貴子さんは笑う。展望台と同じ高度から見ると文字は豆粒ほどの大きさになってしまうが、設置の際は社員が屋上に立ち展望台から実際に見えるか確認したそうだ。2013年3月に広告を描いた東京税理士会本所支部は「展望台から見ると小さ過ぎてなかなか気付いてもらえません。今回が初めての問い合わせです」とうれしそうに教えてくれた。
■宇宙人へ向けて無料広告?
再開発が進む都心部の大手町や丸の内、沿岸部の太陽光発電所などニュース向けの撮影を一通り終えた。そろそろ羽田空港へ戻ろうと品川あたりを飛行していると、ある建物の屋上にさらに目を疑うものが見えてきた。巨大なQRコードだ。その横にはトランプのダイヤのエース。宇宙人へ向けたメッセージなのか、これらの記号は何を意味するのだろう。会社に戻り撮影した写真にスマホをかざし、半信半疑でQRコードを読み込んでみると、ある企業のホームページへジャンプした。業務用の電気設備などを手掛ける「電巧社」。ユーモアたっぷりのQRコード広告は社長の発案で2010年に設置。どうやらグーグルマップの衛星写真に向けた“無料広告”だそうだ。しかしトランプの意味は?「実は手品が趣味の社長の意向で」と広報担当者。「当社ホームページの手品コーナーに答えがあります。ぜひQRコードから訪れてみて下さい」と種明かしをしてくれた。しかし広告のおかげでアクセス数が伸びた、業績が良くなったという話はなく「たまに取引先との話題に上がる程度です。実際に屋上にも案内します」と評判は上々だが広告効果はまだないようだ。
大規模災害に備える行政、新名所にあやかる地域の人たち、ネットを駆使してあの手この手で情報発信する企業。大都市東京に隠された“メッセージ”を読み解いていくと、時代に合わせて変化する東京の側面が見えてきた。
(写真部 沢井慎也)
スカイツリー、PHOTO、メッセージ、イチジク製薬、ヘリコプター
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