東京首都圏電車ネットワークモデルの開発

 東京首都圏の公共交通機関は,毎日1000万人に近い乗客が通勤通学をはじめとする移動に利用しています.朝夕のラッシュ時の混雑を緩和したり,各地域間のアクセスをさらに良くするために,郊外だけでなく都心部においても新しい路線が建設されています.供給側だけでなく,新しいオフィス地域の出現という短時間の需要の変化,人口減少と高齢化による長期間の需要の変化があります.それらの影響を予測すること,そして,乗客の流れや移動時間の変化の影響を調べることは非常に興味深いものです.そこで,時間変化する利用者の流れを詳細にとらえることが出来るように,時刻表通りの電車の運行をほぼそのまま表現するネットワークモデルを作成しました.それを用いて,上記の問題の他,時差通勤の効果,緩行電車と優等電車の組み合わせによる輸送量の増強といった応用問題を考えています.
 2005年に本モデルを用いて発表した論文「通勤電車の遅延計算モデル」が評価され,日本オペレーションズ・リサーチ学会より第26回事例研究賞を受賞しました.

首都直下地震による鉄道利用通勤・通学客の被害想定

 東京首都圏電車ネットワークモデルを用い,首都直下地震による鉄道利用者の被害を推計します.東京首都圏電車ネットワークモデルでは,各時刻における走行中の電車の位置,速度,乗車人数がわかります.ここに中央防災会議で予測された地震の震度分布を重ね合わせ,震度ごとの鉄道の被害想定を仮定することで,鉄道利用者の被害を推計します.このような推計を行うことで,帰宅困難者や負傷者の人数だけでなく,その地理的分布も把握することができます.
 本研究は,2009年に日本オペレーションズ・リサーチ学会より第29回事例研究賞を受賞しました.

コンテナ船の時空間航路ネットワークに関する研究

 本研究は,コンテナ船による物流に関して,時間の概念を取り入れた海上輸送と陸上輸送とを統合した輸送ネットワークによるシミュレーションを行い,統合ネットワークの数理的分析および,全体輸送効率から見た海上輸送システムの改善を行うことを目的としています.
 まず,海上輸送を表すために,Lloyd's社が提供しているコンテナ貨物船の船舶動静データ(2007年)の地点データおよび,書籍の航路図とデジタル世界地図をもとに,約1700の地点を結ぶデジタル航路ネットワークを作成します.
 そして,船舶動静データから得られたODデータを上述のデジタル航路ネットワーク上の最短航路に配分することで,コンテナ貨物船による現状の物流をデジタル地図上に表現します.このとき,出港日と着港日を考慮することで,任意の時点における船舶の位置と船速を推計し,船舶の時空間的解析を可能にしました.
 次に,各コンテナ船の地域別航海距離を算出し,コンテナ船をクラスターにまとめました.その結果,アジア内航路や欧州内航路では積載能力の小さいコンテナ船が短距離航海を高頻度に繰り返していること,太平洋航路や欧州-アジア航路ではその逆の傾向が見られることが定量的に明らかになりました.
 さらに,ネットワークの数理的分析として,船舶ごとに主要な寄港パターンを抽出し,寄港順序と航海距離との関係を分析しました.クラスターごとに見ると,アジア内航路や欧州内航路では短距離の寄港パターンを数多く周回しているのに対し,太平洋航路や欧州-アジア航路では長距離の寄港パターンとなっていることが明らかになりました.加えて,寄港地の巡回セールスマン問題を解くことで,寄港パターンが航海距離からみて効率的であるか分析したところ,アジア内航路や欧州内航路では,多くのコンテナ船の寄港パターンは最短寄港順であるものの,そうではないコンテナ船では,寄港パターンの迂回率は高く,航海距離からみると非効率的であるという知見が得られました.
 最後に,地球温暖化の影響により将来実用化が見込まれる北極海航路に関して,その影響を開発したシミュレータを用いて推計しました.その結果,現状の航海日数を維持した上で,航海距離が短縮された分だけ船速を落とすことができれば,燃料消費量を約40%〜50%削減できる可能性があることを示しました.
 開発したシミュレータは,航路ネットワークのリンクを削除・追加することで,社会情勢,地球環境等が変化した際のコンテナ船航路への影響を評価することができ,非常に有用であると考えています.
 本研究は,2011年に日本オペレーションズ・リサーチ学会より第31回事例研究賞を受賞しました.


図1.デジタル航路ネットワーク

※中高生向けのサイエンス冊子someoneにも取り上げて頂きました(記事はこちら).