部活動の負担感が大きいワケ――土日の部活動は日額3000円 未経験でも顧問

内田良 | 名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授

日本体育協会「学校運動部活動指導者の実態に関する調査報告書」(2014)より引用

■もし、あなたの身に「部活動顧問」の仕事が降りかかってきたなら・・・

もしあなたが、上司から突然に「今日から、中学校のバレー部を指導してください」と言われたらどうだろう?

「私には、そんな余裕ありません」と答えれば、「いや、みんなやるもんだから」と返される。

「バレーなんて、ボールをさわったことくらいしかないです」と答えようものなら、「それで十分だから」と返される。

しかも、土日の場合、4時間以上の勤務で日額は3,000円という条件だ【注1】。最低賃金を大幅に下回りかねない手当で、週末が(しばしば朝から晩まで)つぶれる。お正月休みやお盆休みだって、返上せざるをえないこともある。あなたの本務であるべき仕事は何も進まない。

これがいま、学校の先生たちが置かれている状況である。

■ドシロウトが連日の指導(土日含む)を低賃金で強要される

当の競技種目(あるいは芸術活動)が大好きで、後世の指導にやりがいを感じるなら、それでよいかもしれない。

しかし、下のグラフ【注2】にあるとおり、教員の半数近くが、「担当教科が保健体育でない」かつ「現在担当している部活動の競技経験なし」である。その競技にまったく縁のない、いわばドシロウトなのである。ドシロウトが、微々たる手当のみで、土日であろうとプライベートを放棄して、本職(授業)ではない活動に強制的に従事させられているのである。負担感や疲労感が大きくなるのも当然である。

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なお、土日の手当は、いまでこそ日額3000円だが、昨年9月までは、日額2400円であった。いずれにせよ、時間給を計算するのもばかばかしくなる。

ある教員は、異動した学校で言い渡されたのは、新体操部の顧問(主顧問)だったという。もちろん、本人はまったくの未経験だ。それでいて、すでに経験のある生徒たちを、連日にわたって低賃金で「指導」することの心的・身体的な負担は大きいものがある。

また、別の教員は、体育以外では経験がないバスケットボール部を担当することになったため、数万円かけてDVDや本を自費で購入し、さらには他校の教員のもとに出向いて、指導方法を教えてもらったという。それでなんとか、子どもたちは前向きに部活動に取り組むようになった。だが彼は、「同じだけの労力を、教員として最優先でやるべき教材研究にまわすことができれば、どれだけ子どもも自分も幸せなことか」と述べる。まったく縁もなく、納得できる理由もない部活動に時間を割かれるのは、教職という立場において大きな負担感をもたらしている。

■「同じ気持ちの輪が広がっている」

部活動顧問の負担感を訴えた元日の記事「お正月休みも部活動? 教員の負担感 保護者には伝わっていない」は、大きな反響を呼んだ。

記事には、たくさんのコメントを頂戴した。感謝申し上げたい。ただそれ以上に、記事で紹介した現役教師によるブログ「公立中学校 部活動の顧問制度は絶対に違法だ!!」は、コメントで溢れかえっている(「ヤフーの記事からやってきました」というコメントも多数ある)。

何よりも強調しなければならないのは、そのコメントの多くが現役教員によるものだという点だ。これほどまでに多くの教員が、部活動に対する自分の苦悩を書き綴った事態を、私は知らない。

同ブログの影響を受けて、昨年8月に立ち上げられたブログ「部活動のあり方はおかしい!!と真剣に訴えるためのブログ」は、この数日の動きを、「確実な前進がある」「同じ気持ちの輪が広がっているなと感じています」と表現している。ブログ主によると、今回の盛り上がりを契機にして、さらに新たなブログが立ち上がっているという(「部活について考える」)。

部活動改革の気運が、ネットの世界を起点にして、いま急速に高まっている。この流れを一過性のものにしてはならない。

注1:2014年10月より。詳細はこちら。手当の額は自治体によって多少の相異がある。

注2:日本体育協会「学校運動部活動指導者の実態に関する調査報告書」(2014)より引用。

内田良

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授

学校での各種事故(スポーツ事故,組体操事故,転落事故,交通事故,自殺など)の事例を収集し,隠れた実態を明らかにすべく,研究をおこなっています。柔道事故の問題では,30年間で約120名の死亡があることを明らかにし,事故防止の必要性を訴えました。事故調査委員会の委員就任をはじめ個別事案との接点も多く,また啓発活動として教員研修等の場で各種事故の実態と防止策に関する情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。著書に『柔道事故』(河出書房新社),『「児童虐待」へのまなざし』(世界思想社,日本教育社会学会奨励賞受賞)。お問い合わせはこちら:dada(at)dadala.net

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