スポーツカーの基準
さて、この新型ロードスター。本当に絶賛できるかどうかは乗ってみないと何とも言えないが、先日試乗したデミオの出来から言って、走りの方も相当期待できる。なぜ別のクルマに乗ってそんなことが言えるかと言えば、最近のマツダが基準とする「いい走り」に納得できたからだ。要するにリファレンス(基準・目標)が正しく設定されてるならクルマが違ってもそう間違った仕上げにはならない。順当に考えればそういうことなのだ。
結局スポーツカーにとって最も大事なのは、そのリファレンスに何を選ぶかと、リファレンスに対してどういう対処をするかに尽きる。メーカーによっては「いい走り」とアピールしつつ、そもそもそのリファレンスがサーキットでのラップタイム短縮のように明後日な方向に向かっている場合や、リファレンスと勝負を避ける言い訳がましいケースも散見される。
初代ロードスターにとってリファレンスになったのはロータス・エランだと言われている。しかしそのエランもオリジナルというわけではなく、それは通称「カニ目」と言われるオースティン・ヒーリー・スプライトをリファレンスとして作られたクルマだ。カニ目の成功を見たコーリン・チャプマンから「ああいうのをウチでも作れ」と言われたと元ロータスのエンジニアが証言しているのだ。カニ目をリファレンスとして、パワーを充実させたところにエランがあり、そのエランをリファレンスとして1980年代後半の技術で再構築したロードスターがあるのだ。
「因縁の対決」再び
そして、成功作となった初代ロードスターは、巡る因縁のように多くのクルマのリファレンスにされたが、ロードスターに対して真っ向勝負を挑んだクルマは本家カニ目を産んだMGのMG-Fだけだった。BMW Z3、メルセデス・ベンツSLK、フィアット・バルケッタ、ロータス・エリーゼ、ポルシェ・ボクスター、トヨタMR-S。そしてだいぶ遅れてホンダS2000とアウディTTと言ったところが代表的な要撃モデルだが、それぞれ微妙にロードスターと立ち位置をズラして、ロードスターとまともに勝負しなかった結果、王道を行ったロードスターを捉えることはついにできなかった。
さて、現代の刺客はそこのところがどうなのか? トヨタのFRに関しては、どうやら4座もしくは5座で作ってくるらしい。出回っている予想イラストがどの程度の信憑性があるかはなんとも言えないが、2ボックス・ボディで描かれている。確かに2座でロードスターと真っ向戦うよりは、リアシート有りのアドバンテージで付加価値をつけたい戦術はよく解る。昨今の自動車メーカーが繰り返す「若者に乗って欲しい」という立場で見れば、大勢で乗れることの意味は大きい。価格面でも「86の下」と言う以上、200万円以下という制限が付くだろう。
しかし、4座2ボックスで1000キロの壁は絶対に切れない。そもそもシートはクルマの部品の中でもかなり重たい代物だ。価格から言ってもコストのかかる軽量化技術は使えないし、主要なコンポーネントは既存モデルの流用や加工レベルにならざるを得ない。とすれば普通に考えれば1200キロレベルに達するはずだ。
もちろん掟破りのカーボンボディでも使えば話は別だ。トヨタはカーボンについてのノウハウは十分に持っている。ただしそんなものを投入したら価格的に破綻する。BMW i3がカーボンボディを導入しつつ約500万円のプライスタグを下げているが、これはどう考えてもバーゲンプライス。その値段で作れるとは思えない。そして量産メーカーの小型FRが500万円では商品として成立しない。となればやはり現実的には重量に目をつぶっていくしかあるまい。
「FRスポーツが欲しいが、2座はちょっと」という層は確実に存在する。価格と性能いかんによってはそれなりにヒットするかも知れない。がそれがロードスター・キラーかと問われて肯定的に答えられる人は少ないだろう。