写真家インタビュー&大会のベストショット

写真家インタビュー&大会のベストショット 田中 宣明氏

学生時代に競走馬の撮影に没頭し、スポーツフォトグラファーの道を志した田中宣明氏。国内のフィギュアスケート大会ではオフィシャルカメラマンも務め、誰よりも選手の心に近づき、心の表情を映し出す1枚を切り取っている。
菅原氏からの指導は2つ
「とにかくキヤノン」「とにかく400㎜」

――菅原氏の指導で思い出深いことは?

出会った2000年4月に「あらゆるスポーツを撮影するならまずキヤノンのカメラで」「とにかく400㎜の画角に慣れろ」と言われたことです。キヤノンのオートフォーカスが世界最先端で、プロは皆「EOS-1V」を使っていましたが、僕は1つ安い「EOS-3」を購入しました。そして400㎜のレンズは高価なので、70-200㎜のレンズを200㎜に固定してから2倍のエクステンダーを付けるんです。そうなるとエクステンダーの分、暗くはなりますが、400㎜の単焦点として使え、プロが常用している400㎜の画角やフレーミングになれることができますから。

――まずは良い作品を撮ることよりも、暗くてもいいから400㎜で慣れろ、と?

エクステンダーを付けることでF値が暗くなりますが、サッカーやラグビーなど屋外の競技はそれでも十分撮れますので、最初のうちは大学サッカーから始めました。スポーツ写真は、やはり毎回何があるか分からないドキドキ感があり、飽きませんし、いつも楽しみがあります。

――そのあとフィギュアスケートの撮影が増えたのですか?

スポーツは何でも撮りました。1月は天皇杯や大学ラグビー、卓球の全日本選手権、4月には水泳の日本選手権、柔道の全日本選手権・・・・・・といったように全てです。中でも、音楽がある競技が好きです。新体操とか、シンクロナイズドスイミングとか、馬場馬術の自由演技など。撮影していて、自分も気持ちが乗っていくんです。だからフィギュアスケートは本当に撮影するのが楽しいですね。好きな映画音楽を使っている選手だったりすると、どんどんシャッターを押してしまいます(笑)。

――菅原氏から薦められる以前からキヤノンでしたが、スポーツ写真を撮るようになってから現在まで、ずっとキヤノンを使い続けていますか?

はい、ずっとキヤノンですね。バンクーバー五輪は「EOS-1D Mark IV」で、2012年から現在は「EOS-1D X」で撮影しています。実は、僕にとってのキヤノンの一番の魅力は、デザインなんです。カメラのフォルムが美しいし、白いレンズはとにかく格好いい。子どもの時から憧れた「プロカメラマン」の象徴が「白レンズ」ですから。もちろん性能としてはオートフォーカスが良いということに尽きるでしょうね。

フリーだけで700枚超を撮影
髙橋大輔の表情変化に魅せられる

――これまでの撮影で、1試合の演技で「シャッターを押した!」というのはどの選手でしょう?

2012年12月の全日本選手権、髙橋大輔選手です。この時は、フリーだけで700枚以上撮ってしまいました。彼がとても調子の上がってきているシーズンで、良い表情をしていたんです。そのあと13年3月の世界選手権で銀メダルを取る直前の試合でしたが、この時の髙橋選手の表情は「こちらが撮ろうとしていなくても自然と撮れてしまう」というものでした。

――バンクーバー五輪でも髙橋選手を撮影されましたよね。

バンクーバー五輪もいい表情でしたね。特にフリーは、夢中で撮りました。彼がとても良い表情で滑っていたのを今でも思い出します。

――髙橋選手の魅力は何でしょう?

とにかく髙橋選手は、撮影したい瞬間が多すぎて気が抜けません。トランジションも格好いいので全部使えますし、あと表情がやっぱり良いですね。目線とか顔だけ残して動いていったりするので、背中側からでも使える写真が撮れる。彼だけは特別な選手でしたので、引退してしまいカメラマンとしては寂しいですね。自然とシャッターを押してしまう選手でした。

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――現役の選手で「つい押してしまう」という選手はいますか?

ハビエル・フェルナンデス選手は表情があって良いですね。競技もエキシビションも表情が豊かで、変化があります。目線を残しながら振り返ったりして、人を惹き付ける天性の力がありますし。女子でも持っていない色気があって、うっかり魅せられちゃう感じです。エレーナ・ラジオノワなども可愛い表情をしますが、そういう可愛さとは違う、愛嬌のある可愛らしさが魅力です。

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