個人的に気にしていたキーワードで2014年を振り返る企画(一覧)。2014年はファンクの年だった。
first ya gotta Shake the Gate / Funkadelic
2014年をファンクの年たらしめたのは何といってもファンカデリックの新作だ。33年ぶりだから3枚組33曲という発想自体がファンクそのものなのだが、そのヴォリュームに比例するように、内容も実に幅のあるアルバムになっている。
もっとも、純粋な"新曲"ばかりではない。例えばB10「As In」は"George Clinton And His Gangsters Of Love"収録の同名曲にMichael "Kidd Funkadelic" Hamptonのギターなどを加えたもののようだし、A9「Mathematics of Love」もまた"His Gangsters of Love"に収録されていたKim Burrellとのデュエットに、Sly Stone「Salute」を"マッシュアップ"したもののよう。となると、Four Topsのカヴァー、B11「Bernadette」もカヴァー・アルバムだった同作のセッション音源がベースになっているということもあるかもしれないし、クリントンがDazz Bandとコラボした「Ain't Nothin but a Jam Y'all」がサンプリングされているA8「Radio Friendly」も、"His Gangsters of Love"に参加していたEl DeBargeがクレジットされていることを考えると、同様の可能性があるだろう。
おそらくここに挙げたもの以外にもGeorge Clinton/P-Funk All StarsやFunakdelic/Parliamentの音源を使用したものがいくつもあるはずだが、それゆえにこのアルバムを懐古的な作品だとするのは大きな間違いである。過去の素材を用いても新しい曲を作ることはできる。それは、B3「Jolene」のScarfaceやA10「Creases」のDel Tha Funkee Homosapienといったラッパーたちが既に十分示してきたことだ。今回クリントンは彼らによるPファンクをサンプリングした"トラック"をファンカデリックの新曲として提示している。
むしろ、未来に向けた、ファンク財産相続のためのアルバムというべきだろう。財産相続というのは、比喩ではなく文字通りの意味だ。C4「Where Would I Go?」はマイケル・ハンプトンやDewayne "Blackbyrd" McKnightといったレジェンドたちの泣きのギターが聴きどころの曲だが、作曲を担当したのはGarrett Shider。2010年に亡くなったGarry "Starchild" Shiderの息子である。「お前なしで俺はどうすればいいんだ?」という嘆きを向ける相手はともにファンクの歴史を担ってきたシャイダーにほかならない。C10「Dipety Dipety Doo Stop the Violence」ではクリントンの孫である Tracy "Tra'Zae" Lewis ClintonやTonysha Nelsonがラップやコーラスで参加しているが、曲の最後を締めるのはやはり今は亡きEddie Hazel。逆回転で再生されるオリジナル・ファンカデリックのギターはまるで時を遡っているかのようだ。
Garry ShiderにEddie Hazel。あるいは、2010年のCatfish Collins、2012年のBelita Woods、2013年のCordell "Boogie" Mosson、2014年のJessica Cleaves。かつて自らのクローンで世界をファンク化しようとしたDr.Funkensteinも、毎年のようにファミリーを失い、自身もずいぶん前に70歳を超えてしまった。アルバムと同じタイミングで自叙伝"Brothas Be, Yo Like George, Ain't That Funkin' Kinda Hard on You?"を刊行して人生を振り返ったクリントンは、いま、ファンクのDNAを次の世代に受け継がせようとしたのではないか。自分が生きているうちに、自身の手で新旧ファンカーたちを結びつけようとしたのではないか。Rob "G Koop" Mandellや13teenといった若手のプロデューサーたちに三分の一ほどの曲を任せていることや、息子のTracey "Treylewd" Lewis以下、孫の代までクリントン家の面々が勢揃いしていることを考えると、クリントンがこのアルバムでしたかったことがわかるような気がする。Soul Clapがプログラミングを担当したタイトル曲B1「first ya gotta Shake the Gate」でアボリジニ古来の楽器ディジリドゥが使われていることも示唆的なことではないか。Pファンク・チルドレンのひとりでもあるJanelle Monaeの活動をみてもわかることだが、アフロフューチャリストたちは過去を通して未来を描く。
曲調に幅があるのも、そういう性格のアルバムだからだろう。A10「Creases」はデル・ザ・ファンキー・ホモサピエンひとりにすべてを任せたものだし、完全にメタルなB5「Dirty Queen」は実質的に孫のひとりであるTrafael Lewisのバンド、God's Weaponの曲だ。あるいは、13teenがヒップホップ調に仕立てたA2「Get Low」、クリントンが現在住んでいるタラハシーの地元ミュージシャンによるジャズ/フュージョン風のA4「Fucked Up」、エレクトロニックなトラックでTra'ZaeとともにクリントンもラップするC7「The Wall」といったヴァラエティ豊かなラインナップは、若手のファンク候補生たちを信頼して自由にやらせた結果ではないか。
ただ、そんななかでも一際異彩を放つのが大ベテランのスライだ。スライは作曲者としてクレジットされている娘のNovena Carmelとともに6曲に参加。Pファンクとスライとプリンスの接点を炙り出したかのようなA1「Baby Like Fonkin' it Up」やPファンクらしいA6「In Da Kar」といった曲もあるが、Lord Buckley「The Nazz」を朗読する先行シングルC2「The Naz」やスクリュー・ヴォイスを意識したかのような低音エフェクト・ヴォイスが強烈なB9「Yellow Light」など、従来のスライのイメージに縛られないキレっぷりが素晴らしい。JBのファンクは反復が肝だったが、ジョージ・クリントンやスライ・ストーンにとっては変化していくことこそがファンクなんだと示しているかのよう。もちろん両者はコインの裏表なのだけれど。
なお、スライは前述の"George Clinton And His Gangsters Of Love"で最高なトークボックス・ヴォーカルを披露しているほか、Pファンク・オールスターズ作品にはたびたび参加している。しかし、ことファンカデリック作品に限れば、1981年の"The Electric Spanking Of War Babies"のみ。そう、33年前のファンカデリックの“前作”である。当時ドラッグの問題に陥っていたスライはPファンク・ツアーと同作への参加をもちかけられてクリントンに救われたわけだが、今回のアルバムもホームレス報道まで出た現在のスライにクリントンが再び手を貸した33年前の再現という見方もできるかもしれない。ところでスライによる "アルビノ・バンド"の話はどうなったんだろう?
それにしてもこのアルバムを、近年の作品で用いているクリントンのソロ名義やPファンク・オールスターズではなく、ファンカデリック名義でリリースしたのはなぜだろう。パーラメント的なヴォーカル・ワークが楽しいA5「Ain't That Funkin' Kinda Hard on You?」、William "Bootsy" Collinsと Bernie Worrellが揃い踏みしたB9「Boom There We go Again」、Maceo Parker&Fred WesleyによるP印なホーンズがクールなC1「Catchin' Boogie Fever」といったPファンクらしい曲もあるが、どれもファンカデリック名義でないといけないものではない。理由はわからないが、本作がファンクを若い世代に受け継ぐためのアルバムであるとすれば、ごくごく自然なことのようにも思えてくる。クリントンのソロ名義はありえないし、Pファンク・オールスターズでも物足りない。クリントンは彼ら流のファンクを生み出し、一時代を築いたファンカデリックの名前を使うことで、ファンク候補生たちの門出を祝い、発破をかけたのではないか。first ya gotta Shake the Gate。揺さぶって抜け出したゲイトの向こうには、新しいファンクの時代が待っているのだと。
ちなみに、B12"Meow Meow"ほか33曲中5曲には Taken from the original motion picture "Dope Dogs the Movie" というクレジットがある。"Dope Dogs"はクリントンの1995年作だが、映画は公開されていない。しかし、2012年のインタヴューで「"Dopr Dogs"というカートゥーンを作ってる」という発言をしており、おそらくそのことを指すのではないかと思われる。カートゥーンは「Adult Swim的なものになる」とのことで、 Flying Lotus/Captain Murphyのこれに近いものになるのだろう。Pedro Bellの絵柄とはずいぶん差があるが、ファンクはこうしてあらゆる方法を用いて伝授されていくのである。
Moodymann / Moodymann
Black Messiah / D'Angelo & The Vanguard *関連記事
...And Then You Shoot Your Cousin / The Roots
Under The Influence 2 / Domo Genesis *FREE DL
D'Angeloの新作にもジョージ・クリントンのファンクは息づいている。"Voodoo"以来14年ぶりのリリースとなったこのアルバムは"Brown Sugar"や"Voodoo"のスウィートな密室ソウルとは異なったファンク寄りのサウンドと社会的なメッセージが特徴の、いわば『暴動』 的な一枚だが、このアルバムのキーパーソンのひとりがファンカデリック新作にも参加しているPファンク・ファミリーのKendra Fosterだ。彼女は12曲中8曲で歌詞をディアンジェロと共作。初期ファンカデリックのような生々しいバンド・サウンドに、ブラックパンサー党のカリスマで警察に暗殺されたFred Hamptonの演説を乗せた「1000 Deaths」を始め、アルバムの硬派なカラーに大きく寄与している。ディアンジェロ自身による荒々しいギターもエディ・ヘイゼルを彷彿させる。
このディアンジェロの新作をサポートしてるQuestloveのバンド、The Rootsの"...And Then You Shoot Your Cousin"も同じカラーの作品だ。冒頭でいきなりNina Simone「Theme From Middle Of The Night」をそのまま切り取って収録したり、アメリカ黒人の絵を描き続けた画家Romare Beardenによる作品をアルバム・カヴァーに使ったりと、メッセージ性の強い仕掛けが全編に散りばめられたアルバムだが、最も象徴的なのがニーナ・シモン同様に原曲が挿入されているMary Lou Williamsの「The Devil」だろう。この曲のオリジナルが収録されているのはワシントン大行進の1963年にリリースされた"Black Christ of the Andes" であり、この"アンデスの黒いキリスト"とは16世紀ペルーの聖人Martin de Porresのこと。黒人奴隷のために尽力した"Black Christ"とディアンジェロ"Black Messiah"の相似は偶然ではないだろう。
上の2枚とはテンションがだいぶ異なるが、オッド・フューチャーのDomo Genesisによるミックステープ"Under The Influence 2"にはディアンジェロの「Brown Sugar」をサンプリング/カヴァーした「The Most Subtle Flex Ever」が収録されており、併せて聴きたいところ。"Black Messiah"リリース直前の11月に公開された作品で、ドモの妙な予知能力に驚愕するが、この未来を捉える力こそファンクなのである(軽い冗談)。
I'm Just Like You: Sly's Stone Flower 1969-1970 /Sly Stone
Bishouné: Alma del Huila / Gabriel Garzón-Montano *関連記事
Electro Voice Sings Sly Stone / Syunsuke Ono
ファンカデリックの新作で大活躍し、ディアンジェロの新作に大きな影響を与えたスライは、1969年に設立し1970年に終わった自身のレーベル<Stone Flower>の編集盤をリリースした。その時期のスライと言えば、"Stand!"から『暴動』へと移るころ。ファンクの歴史を塗り替えようとする転換期だ。Little Sister名義の「You're the One, Pt. 1 & 2」から『暴動』に収録されることになる「Just Like a Baby」の初期テイクという冒頭の2曲からして過渡期ならではの試行錯誤の様子を聴きとることができるが、その後もテンションの高いバンド・サウンドとリズムボックスを用いた内省的なファンクとが対照的に提示されており、とても興味深い。さすがLewisを再発した<Light In The Attic>の仕事だ。
スライに影響を受けたミュージシャンはディアンジェロほか数知れないが、2014年の"スライ"と言えば、Gabriel Garzón-Montano"Bishouné: Alma del Huila"だろう。ガブリエル・ガルソン・モンターノはソウル・バンドのGillososiaやアフロビート系バンドの EMEFEなどの作品に客演、あるいは自身の大所帯バンド=Mokaadなどで活動してきたシンガー/マルチ奏者で、2013年にはニューヨークのMason Jar Musicによる企画盤 "Decoration Day, Volume 2"に参加してスライ「You Can Make It If You Try」のカヴァーも残しているような人だ。ソロ・デビュー作となった"Bishouné: Alma del Huila"は、リズムボックスのポコポコとしたビートに多重録音ヴォーカルによるメロウな歌唱が映える「Everything Is Everything」を筆頭に、ディアンジェロ、プリンス、スライ・ストーンといたクールなファンクの系譜を感じさせる一枚になっている。
2014年の作品ではないが、スライをカヴァーしてザ・ルーツのクエストラヴに絶賛された日本人、Syunsuke Onoの"Electro Voice Sings Sly Stone"にはここで改めて触れておきたい。スライ楽曲に対する理解力も、すべてひとりでこなしているという演奏も素晴らしいのだが、何より注目したいのは“エレクトロ・ヴォイス”によるヴォーカル・ワーク。トークボックスやテキストエディットのスピーチ機能など、さまざまな音声装置を駆使して、スライの音楽に迫っていくさまは鳥肌ものだ。ファンカデリックの新作でもオートチューンやスクリュー的なエフェクトを多用していたスライだけれど、ソウル/ファンク系のミュージシャンとして最も早く"ロボ声"を取り入れたのはスライにほかならない。スティーヴィよりも早かったのだ。
Art Official Age / Prince *関連記事
PLECTRUMELECTRUM / Prince & 3RDEYEGIRL
プリンス4年ぶりの新作。冒頭のEDMには脱力したが、ここ数年では最も充実した内容だった。これは前に取り上げたので省略。
DreamZzz / Philip Lassiter *関連記事
B S I D E S / IGBO *nyp
Handful Of Vapor / Van Hunt *FREE DL
そんなプリンスのNPG HornzのメンバーでもあるワシントンD.C.のトランペット奏者、Philip Lassiterの新作もファンキーなアルバムだった。ジャズやソウルをスマートに織り込んだホーン主導のファンクはオーソドックスだがキレが抜群だ。同じくNPG Hornzでサックスを担当するSylvester Onyejiakaはソロ名義のSly 5th Aveとしてジャズ・アルバム"Akuma"をリリースしたが、彼が2014年にNYのプロデューサーBENAMINと始めたデュオ=IGB0はジャズ・ファンクなプロジェクトでおもしろい。Sly 5th Aveの様々な活動とともに今後注目していきたい。あとは、久しぶりに活動を再開したVan Hunt。Soundcloudでぽつぽつと曲をアップしていたのだが、AFROPUNK 2014のサンプラーに収録されたという「Handful Of Vapor」はスライ風のファンクで超クール。2015年の活躍が楽しみだ。
NARVALOID FROM COSMOS / AMADEO 85 *nyp
Get Got - single ft. George Clinton / Lady Daisey
This Is A Black Man's Grind / Steve Arrington
Stone / Andre Cymone
あとはあのBlowflyが客演したパリのファンカーAMADEO 85の新作、ジョージ・クリントンをフィーチャーしたフロリダの女性シンガーLady Daiseyのシングル、Dam Funkとのコラボ盤以降活動が活発化したSteve Arringtonの硬派な新作など。プリンスの元バンド・メンバーであるAndre Cymoneも実は29年ぶりに新作をリリースしたのだが、これがかなり酷い内容で膝から崩れ落ちた。昔はかっこよかったのに。
first ya gotta Shake the Gate / Funkadelic
2014年をファンクの年たらしめたのは何といってもファンカデリックの新作だ。33年ぶりだから3枚組33曲という発想自体がファンクそのものなのだが、そのヴォリュームに比例するように、内容も実に幅のあるアルバムになっている。
もっとも、純粋な"新曲"ばかりではない。例えばB10「As In」は"George Clinton And His Gangsters Of Love"収録の同名曲にMichael "Kidd Funkadelic" Hamptonのギターなどを加えたもののようだし、A9「Mathematics of Love」もまた"His Gangsters of Love"に収録されていたKim Burrellとのデュエットに、Sly Stone「Salute」を"マッシュアップ"したもののよう。となると、Four Topsのカヴァー、B11「Bernadette」もカヴァー・アルバムだった同作のセッション音源がベースになっているということもあるかもしれないし、クリントンがDazz Bandとコラボした「Ain't Nothin but a Jam Y'all」がサンプリングされているA8「Radio Friendly」も、"His Gangsters of Love"に参加していたEl DeBargeがクレジットされていることを考えると、同様の可能性があるだろう。
おそらくここに挙げたもの以外にもGeorge Clinton/P-Funk All StarsやFunakdelic/Parliamentの音源を使用したものがいくつもあるはずだが、それゆえにこのアルバムを懐古的な作品だとするのは大きな間違いである。過去の素材を用いても新しい曲を作ることはできる。それは、B3「Jolene」のScarfaceやA10「Creases」のDel Tha Funkee Homosapienといったラッパーたちが既に十分示してきたことだ。今回クリントンは彼らによるPファンクをサンプリングした"トラック"をファンカデリックの新曲として提示している。
むしろ、未来に向けた、ファンク財産相続のためのアルバムというべきだろう。財産相続というのは、比喩ではなく文字通りの意味だ。C4「Where Would I Go?」はマイケル・ハンプトンやDewayne "Blackbyrd" McKnightといったレジェンドたちの泣きのギターが聴きどころの曲だが、作曲を担当したのはGarrett Shider。2010年に亡くなったGarry "Starchild" Shiderの息子である。「お前なしで俺はどうすればいいんだ?」という嘆きを向ける相手はともにファンクの歴史を担ってきたシャイダーにほかならない。C10「Dipety Dipety Doo Stop the Violence」ではクリントンの孫である Tracy "Tra'Zae" Lewis ClintonやTonysha Nelsonがラップやコーラスで参加しているが、曲の最後を締めるのはやはり今は亡きEddie Hazel。逆回転で再生されるオリジナル・ファンカデリックのギターはまるで時を遡っているかのようだ。
Garry ShiderにEddie Hazel。あるいは、2010年のCatfish Collins、2012年のBelita Woods、2013年のCordell "Boogie" Mosson、2014年のJessica Cleaves。かつて自らのクローンで世界をファンク化しようとしたDr.Funkensteinも、毎年のようにファミリーを失い、自身もずいぶん前に70歳を超えてしまった。アルバムと同じタイミングで自叙伝"Brothas Be, Yo Like George, Ain't That Funkin' Kinda Hard on You?"を刊行して人生を振り返ったクリントンは、いま、ファンクのDNAを次の世代に受け継がせようとしたのではないか。自分が生きているうちに、自身の手で新旧ファンカーたちを結びつけようとしたのではないか。Rob "G Koop" Mandellや13teenといった若手のプロデューサーたちに三分の一ほどの曲を任せていることや、息子のTracey "Treylewd" Lewis以下、孫の代までクリントン家の面々が勢揃いしていることを考えると、クリントンがこのアルバムでしたかったことがわかるような気がする。Soul Clapがプログラミングを担当したタイトル曲B1「first ya gotta Shake the Gate」でアボリジニ古来の楽器ディジリドゥが使われていることも示唆的なことではないか。Pファンク・チルドレンのひとりでもあるJanelle Monaeの活動をみてもわかることだが、アフロフューチャリストたちは過去を通して未来を描く。
曲調に幅があるのも、そういう性格のアルバムだからだろう。A10「Creases」はデル・ザ・ファンキー・ホモサピエンひとりにすべてを任せたものだし、完全にメタルなB5「Dirty Queen」は実質的に孫のひとりであるTrafael Lewisのバンド、God's Weaponの曲だ。あるいは、13teenがヒップホップ調に仕立てたA2「Get Low」、クリントンが現在住んでいるタラハシーの地元ミュージシャンによるジャズ/フュージョン風のA4「Fucked Up」、エレクトロニックなトラックでTra'ZaeとともにクリントンもラップするC7「The Wall」といったヴァラエティ豊かなラインナップは、若手のファンク候補生たちを信頼して自由にやらせた結果ではないか。
ただ、そんななかでも一際異彩を放つのが大ベテランのスライだ。スライは作曲者としてクレジットされている娘のNovena Carmelとともに6曲に参加。Pファンクとスライとプリンスの接点を炙り出したかのようなA1「Baby Like Fonkin' it Up」やPファンクらしいA6「In Da Kar」といった曲もあるが、Lord Buckley「The Nazz」を朗読する先行シングルC2「The Naz」やスクリュー・ヴォイスを意識したかのような低音エフェクト・ヴォイスが強烈なB9「Yellow Light」など、従来のスライのイメージに縛られないキレっぷりが素晴らしい。JBのファンクは反復が肝だったが、ジョージ・クリントンやスライ・ストーンにとっては変化していくことこそがファンクなんだと示しているかのよう。もちろん両者はコインの裏表なのだけれど。
なお、スライは前述の"George Clinton And His Gangsters Of Love"で最高なトークボックス・ヴォーカルを披露しているほか、Pファンク・オールスターズ作品にはたびたび参加している。しかし、ことファンカデリック作品に限れば、1981年の"The Electric Spanking Of War Babies"のみ。そう、33年前のファンカデリックの“前作”である。当時ドラッグの問題に陥っていたスライはPファンク・ツアーと同作への参加をもちかけられてクリントンに救われたわけだが、今回のアルバムもホームレス報道まで出た現在のスライにクリントンが再び手を貸した33年前の再現という見方もできるかもしれない。ところでスライによる "アルビノ・バンド"の話はどうなったんだろう?
それにしてもこのアルバムを、近年の作品で用いているクリントンのソロ名義やPファンク・オールスターズではなく、ファンカデリック名義でリリースしたのはなぜだろう。パーラメント的なヴォーカル・ワークが楽しいA5「Ain't That Funkin' Kinda Hard on You?」、William "Bootsy" Collinsと Bernie Worrellが揃い踏みしたB9「Boom There We go Again」、Maceo Parker&Fred WesleyによるP印なホーンズがクールなC1「Catchin' Boogie Fever」といったPファンクらしい曲もあるが、どれもファンカデリック名義でないといけないものではない。理由はわからないが、本作がファンクを若い世代に受け継ぐためのアルバムであるとすれば、ごくごく自然なことのようにも思えてくる。クリントンのソロ名義はありえないし、Pファンク・オールスターズでも物足りない。クリントンは彼ら流のファンクを生み出し、一時代を築いたファンカデリックの名前を使うことで、ファンク候補生たちの門出を祝い、発破をかけたのではないか。first ya gotta Shake the Gate。揺さぶって抜け出したゲイトの向こうには、新しいファンクの時代が待っているのだと。
ちなみに、B12"Meow Meow"ほか33曲中5曲には Taken from the original motion picture "Dope Dogs the Movie" というクレジットがある。"Dope Dogs"はクリントンの1995年作だが、映画は公開されていない。しかし、2012年のインタヴューで「"Dopr Dogs"というカートゥーンを作ってる」という発言をしており、おそらくそのことを指すのではないかと思われる。カートゥーンは「Adult Swim的なものになる」とのことで、 Flying Lotus/Captain Murphyのこれに近いものになるのだろう。Pedro Bellの絵柄とはずいぶん差があるが、ファンクはこうしてあらゆる方法を用いて伝授されていくのである。
Moodymann / Moodymann
Basementality 2 / Amp Fiddler *関連記事
FECKIN WEIRDO / Nnamdi Ogbonnaya *nyp
2014年のPファンクはファンカデリックだけではない。ファンクを生前分与で相続したMoodymannはセルフ・タイトル・アルバムでファンカデリックの名曲「Cosmic Slop」を、ジョージ・クリントンと自身のヴォーカル、Amp Dog Knightsのキーボードを足して「Sloppy Cosmic」としてカヴァーした。そのAmp Dog Knightsこと、Pファンク・ファミリーのAmp Fiddlerも2014年に新作"Basementality 2"をリリース。ゴスペル調、モータウン調など、ルーツ色の強い内容だが、Raphael Saadiqが客演する「Take It」はメロウ&グルーヴィなファンク・チューンだ。
そしていま最もPファンクを感じるのが、シカゴのNnamdi Ogbonnayaだ。エクスペリメンタルなロック・バンド=The Para- medicsやIttōやNervous Passengerといったパンク系バンドのドラマーであり、The Para- medicsのヒップホップ・プロジェクト=The Sooper SWAG Projectなど、様々なプロジェクトで活動している多作なマルチ奏者なのだが、彼のラッパーとしてのソロ最新作"FECKIN WEIRDO: Nnamdi's spectral adventures through a pubulous conundrum, canceling out the burrowing burden and ambiguity of his pre-zuberant tooth shine."は、タイトルの長さといい、アートワークや動画での自身の見せ方といい、もちろんサウンドといい、実にPファンク的な一枚だった。いや、正確にいえばPファンク的というには少々過剰でやりすぎな感は否めないのだが、この伝言ゲームで間違って伝わったような歪みこそ、ファンク(に限らない音楽全般)が進化していく真髄だろうと思う。 "Maggot Brain"だって1971年の時点ではそういう風に受け止められていたんじゃないか。
FECKIN WEIRDO / Nnamdi Ogbonnaya *nyp
2014年のPファンクはファンカデリックだけではない。ファンクを生前分与で相続したMoodymannはセルフ・タイトル・アルバムでファンカデリックの名曲「Cosmic Slop」を、ジョージ・クリントンと自身のヴォーカル、Amp Dog Knightsのキーボードを足して「Sloppy Cosmic」としてカヴァーした。そのAmp Dog Knightsこと、Pファンク・ファミリーのAmp Fiddlerも2014年に新作"Basementality 2"をリリース。ゴスペル調、モータウン調など、ルーツ色の強い内容だが、Raphael Saadiqが客演する「Take It」はメロウ&グルーヴィなファンク・チューンだ。
そしていま最もPファンクを感じるのが、シカゴのNnamdi Ogbonnayaだ。エクスペリメンタルなロック・バンド=The Para- medicsやIttōやNervous Passengerといったパンク系バンドのドラマーであり、The Para- medicsのヒップホップ・プロジェクト=The Sooper SWAG Projectなど、様々なプロジェクトで活動している多作なマルチ奏者なのだが、彼のラッパーとしてのソロ最新作"FECKIN WEIRDO: Nnamdi's spectral adventures through a pubulous conundrum, canceling out the burrowing burden and ambiguity of his pre-zuberant tooth shine."は、タイトルの長さといい、アートワークや動画での自身の見せ方といい、もちろんサウンドといい、実にPファンク的な一枚だった。いや、正確にいえばPファンク的というには少々過剰でやりすぎな感は否めないのだが、この伝言ゲームで間違って伝わったような歪みこそ、ファンク(に限らない音楽全般)が進化していく真髄だろうと思う。 "Maggot Brain"だって1971年の時点ではそういう風に受け止められていたんじゃないか。
Black Messiah / D'Angelo & The Vanguard *関連記事
...And Then You Shoot Your Cousin / The Roots
Under The Influence 2 / Domo Genesis *FREE DL
D'Angeloの新作にもジョージ・クリントンのファンクは息づいている。"Voodoo"以来14年ぶりのリリースとなったこのアルバムは"Brown Sugar"や"Voodoo"のスウィートな密室ソウルとは異なったファンク寄りのサウンドと社会的なメッセージが特徴の、いわば『暴動』 的な一枚だが、このアルバムのキーパーソンのひとりがファンカデリック新作にも参加しているPファンク・ファミリーのKendra Fosterだ。彼女は12曲中8曲で歌詞をディアンジェロと共作。初期ファンカデリックのような生々しいバンド・サウンドに、ブラックパンサー党のカリスマで警察に暗殺されたFred Hamptonの演説を乗せた「1000 Deaths」を始め、アルバムの硬派なカラーに大きく寄与している。ディアンジェロ自身による荒々しいギターもエディ・ヘイゼルを彷彿させる。
このディアンジェロの新作をサポートしてるQuestloveのバンド、The Rootsの"...And Then You Shoot Your Cousin"も同じカラーの作品だ。冒頭でいきなりNina Simone「Theme From Middle Of The Night」をそのまま切り取って収録したり、アメリカ黒人の絵を描き続けた画家Romare Beardenによる作品をアルバム・カヴァーに使ったりと、メッセージ性の強い仕掛けが全編に散りばめられたアルバムだが、最も象徴的なのがニーナ・シモン同様に原曲が挿入されているMary Lou Williamsの「The Devil」だろう。この曲のオリジナルが収録されているのはワシントン大行進の1963年にリリースされた"Black Christ of the Andes" であり、この"アンデスの黒いキリスト"とは16世紀ペルーの聖人Martin de Porresのこと。黒人奴隷のために尽力した"Black Christ"とディアンジェロ"Black Messiah"の相似は偶然ではないだろう。
上の2枚とはテンションがだいぶ異なるが、オッド・フューチャーのDomo Genesisによるミックステープ"Under The Influence 2"にはディアンジェロの「Brown Sugar」をサンプリング/カヴァーした「The Most Subtle Flex Ever」が収録されており、併せて聴きたいところ。"Black Messiah"リリース直前の11月に公開された作品で、ドモの妙な予知能力に驚愕するが、この未来を捉える力こそファンクなのである(軽い冗談)。
I'm Just Like You: Sly's Stone Flower 1969-1970 /Sly Stone
Bishouné: Alma del Huila / Gabriel Garzón-Montano *関連記事
Electro Voice Sings Sly Stone / Syunsuke Ono
ファンカデリックの新作で大活躍し、ディアンジェロの新作に大きな影響を与えたスライは、1969年に設立し1970年に終わった自身のレーベル<Stone Flower>の編集盤をリリースした。その時期のスライと言えば、"Stand!"から『暴動』へと移るころ。ファンクの歴史を塗り替えようとする転換期だ。Little Sister名義の「You're the One, Pt. 1 & 2」から『暴動』に収録されることになる「Just Like a Baby」の初期テイクという冒頭の2曲からして過渡期ならではの試行錯誤の様子を聴きとることができるが、その後もテンションの高いバンド・サウンドとリズムボックスを用いた内省的なファンクとが対照的に提示されており、とても興味深い。さすがLewisを再発した<Light In The Attic>の仕事だ。
スライに影響を受けたミュージシャンはディアンジェロほか数知れないが、2014年の"スライ"と言えば、Gabriel Garzón-Montano"Bishouné: Alma del Huila"だろう。ガブリエル・ガルソン・モンターノはソウル・バンドのGillososiaやアフロビート系バンドの EMEFEなどの作品に客演、あるいは自身の大所帯バンド=Mokaadなどで活動してきたシンガー/マルチ奏者で、2013年にはニューヨークのMason Jar Musicによる企画盤 "Decoration Day, Volume 2"に参加してスライ「You Can Make It If You Try」のカヴァーも残しているような人だ。ソロ・デビュー作となった"Bishouné: Alma del Huila"は、リズムボックスのポコポコとしたビートに多重録音ヴォーカルによるメロウな歌唱が映える「Everything Is Everything」を筆頭に、ディアンジェロ、プリンス、スライ・ストーンといたクールなファンクの系譜を感じさせる一枚になっている。
2014年の作品ではないが、スライをカヴァーしてザ・ルーツのクエストラヴに絶賛された日本人、Syunsuke Onoの"Electro Voice Sings Sly Stone"にはここで改めて触れておきたい。スライ楽曲に対する理解力も、すべてひとりでこなしているという演奏も素晴らしいのだが、何より注目したいのは“エレクトロ・ヴォイス”によるヴォーカル・ワーク。トークボックスやテキストエディットのスピーチ機能など、さまざまな音声装置を駆使して、スライの音楽に迫っていくさまは鳥肌ものだ。ファンカデリックの新作でもオートチューンやスクリュー的なエフェクトを多用していたスライだけれど、ソウル/ファンク系のミュージシャンとして最も早く"ロボ声"を取り入れたのはスライにほかならない。スティーヴィよりも早かったのだ。
Art Official Age / Prince *関連記事
PLECTRUMELECTRUM / Prince & 3RDEYEGIRL
プリンス4年ぶりの新作。冒頭のEDMには脱力したが、ここ数年では最も充実した内容だった。これは前に取り上げたので省略。
DreamZzz / Philip Lassiter *関連記事
B S I D E S / IGBO *nyp
Handful Of Vapor / Van Hunt *FREE DL
そんなプリンスのNPG HornzのメンバーでもあるワシントンD.C.のトランペット奏者、Philip Lassiterの新作もファンキーなアルバムだった。ジャズやソウルをスマートに織り込んだホーン主導のファンクはオーソドックスだがキレが抜群だ。同じくNPG Hornzでサックスを担当するSylvester Onyejiakaはソロ名義のSly 5th Aveとしてジャズ・アルバム"Akuma"をリリースしたが、彼が2014年にNYのプロデューサーBENAMINと始めたデュオ=IGB0はジャズ・ファンクなプロジェクトでおもしろい。Sly 5th Aveの様々な活動とともに今後注目していきたい。あとは、久しぶりに活動を再開したVan Hunt。Soundcloudでぽつぽつと曲をアップしていたのだが、AFROPUNK 2014のサンプラーに収録されたという「Handful Of Vapor」はスライ風のファンクで超クール。2015年の活躍が楽しみだ。
NARVALOID FROM COSMOS / AMADEO 85 *nyp
Get Got - single ft. George Clinton / Lady Daisey
This Is A Black Man's Grind / Steve Arrington
Stone / Andre Cymone
あとはあのBlowflyが客演したパリのファンカーAMADEO 85の新作、ジョージ・クリントンをフィーチャーしたフロリダの女性シンガーLady Daiseyのシングル、Dam Funkとのコラボ盤以降活動が活発化したSteve Arringtonの硬派な新作など。プリンスの元バンド・メンバーであるAndre Cymoneも実は29年ぶりに新作をリリースしたのだが、これがかなり酷い内容で膝から崩れ落ちた。昔はかっこよかったのに。
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