過ぎ去った2014年は、国際秩序が大きく損なわれた年として、歴史に刻まれるのではないだろうか。

 ウクライナに対するロシアの介入、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの侵攻と、紛争が相次いだ。

 内戦が続くシリアとイラクにまたがる地域では、「イスラム国」と名乗る過激派が一方的に国家を宣言した。

 そうした紛争の影響は地域を超えて世界に広がり、主要国や機関が調停に走り、共同で対処を求められることになった。

 衝撃的だったのは、犠牲者が多く出たことにとどまらない。ウクライナ紛争のように、地域大国が臆面もなく隣人を襲い、屈服させようとしたことだ。

 大国と小国や地域同士が互いを尊重し合わないでは、平和は築けない。崩れかけた共存のルールをいかに再構築するか。各国が協力して取り組むべき、2015年の課題である。

■背景にある国内事情

 武力衝突までには至らなかったものの、緊張の高まりが懸念された例もある。南シナ海の領有権争いをめぐる中国と東南アジア諸国のつばぜり合いだ。

 ロシア、イスラエル、中国はいずれも地域で圧倒的な軍事力をもつ。歴然とした力の差が、その振る舞いを支えている。

 冷戦が終結して以来、世界の紛争を抑える立場にあったのは唯一の超大国・米国だ。だが、その影響力に陰りが見える。

 イラクやアフガニスタンでの長い戦争に疲れ、オバマ政権下で対外関与を減らす方向にかじを切った。米国の重しが外れた世界で、地域大国の尊大さがまかり通るようになった。

 一方、外に向けて強さを誇示するこれらの国々は、内政に深刻な問題を抱えている。

 ロシアのプーチン政権は、石油やガスなど資源輸出に頼る経済構造を変えられず、不安定な体質から脱せられないでいる。内部に強硬派を抱えるイスラエルのネタニヤフ政権はパレスチナとの和平を進められず、国際的な孤立から抜け出せない。

 習近平(シーチンピン)体制の中国は、民主化や自治を求める国内の動きへの警戒を解けない。経済の発展に政治が追いつけない状態だ。

 グローバル化が進んだ時代だけに、いずれの問題も1国の手に余る。世論がいつ離反し、市民の不満の矛先が政権自身に向かって来るか。不安を抱えながらの国家運営だ。

 あえて外に強硬な姿勢で臨む裏には、内部の問題から国民の目をそらし、反発をやわらげる意図もうかがえる。大胆な行動は、逆に弱さの表れなのだ。

■国際法の原点に返れ

 一極支配の構造が薄まり、無極化の兆しが見える世界で、どうすれば安定と秩序を築くことができるだろうか。

 未曽有の破壊をもたらした第2次世界大戦の後、国際社会がめざしたのは、国際法の支配による平和の構築だった。戦後間もなく国際法の壮大な体系である国連が設立され、国際人道法の整備が進んだのも、大戦への反省からに他ならない。

 戦後70年を迎える今年、もう一度その原点に立ち返りたい。

 国連総会は、ロシアによるクリミア半島の併合をめぐり、事実上「国連憲章違反」とする決議を採択した。だが、力に頼るロシアは無視したまま。今の国際法支配の限界がそこにある。

 「イスラム国」のような新たな疑似国家組織に対抗するうえでも、国家間の協力が今まで以上に求められている。

 国際法の権威を高め、各国が団結して法を守る態勢を築くためには、ルールの運用を担う国際機関の機能が欠かせない。

■国連改革の論議を

 とりわけ、最大の国際機関である国連の地位向上が、今ほど必要とされるときはない。

 これまで米国はしばしば国際法や国連を軽視した。世界秩序を回復するには、まず米国が態度を改めねばならない。

 日本は長らく国連重視を掲げてきたものの、国連改革といえば、自国の安保理常任理事国入りにとらわれがちだった。

 もっと広い視点から国連全体の強化を探る論議を呼びかけ、国際秩序の守護役として国連を見直す機運を高めるべきだ。

 国連が地球を包む屋根であるなら、地域機構はより地元に密着した傘の役割を担う。

 欧州連合(EU)は、世界に人権と民主主義の価値を広める先進の機構として、加盟国同士の結束の締め直しが必要だ。

 欧州のような統合の動きに遠く及ばないアジアでは、東アジアサミットや東南アジア諸国連合(ASEAN)などの枠組みを土台にするほかない。

 ここでも最も重い責任を担うのは、日本と中国の2大国だ。アジア全体の安定のためにも、韓国を加えた3国の対話をより緊密に進める責務がある。

 2015年を、国際法に基づく秩序再構築の元年としたい。その作業に積極的にかかわるよう、日本政府に期待したい。