『なぜ関西のローカル大学「近大」が、志願者数日本一になったのか』(山下柚実/光文社)

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 2014年3月6日、教育業界に激震が走った。関西にある私立大学「近畿大学」が、志願者数4年連続トップの明治大学を抜いて全国1位になったのだ(大学通信調べ)。近畿大学(以下、近大)といえば、全国的には朝潮や旭富士を輩出した近大相撲部や元プロボクサー・赤井英和氏の出身大学として有名で、どちらかというとバンカラなイメージだ。そんな古風なイメージの大学がなぜ志願者数1位になったのだろうか?

なぜローカル大学「近大」が日本一に?

 本書『なぜ関西のローカル大学「近大」が、志願者数日本一になったのか』(山下柚実/光文社)には著者の取材に基づいたその秘密が書いてある。日頃から「大学は東大以外行く意味がない」と語るホリエモンこと堀江貴文氏が、この本を読んで「近大はあってもいいかもしれない」とまで言っているのだ。

■広告予算を増やし知名度を上げた?いやいや実はむしろ減らしています

「実は、新聞や雑誌といった媒体への出稿にかかる予算総額は、これまでより減少しているんですよ」近大の広報担当者は語る。近大が現役高校生に独自調査した結果、受験生は「実は、各大学が公式に配布している大学案内や入試情報サイトといった実にベーシックな情報源を参考にしていた」ことが明らかになった。そこから近大広報は「それで志願者が増えるかどうか?」という基準で効果の低い広告を大幅にカットし、近大公式サイトの充実や受験生にSNSで拡散されるような広告を自ら考えて打っていった。大学のような一般的な知名度を重視する業態の場合、毎年出稿していた大学一覧媒体の広告をやめるのは勇気のいる決断だ。それを実行する一方で、近大は自らの手で年間233本ものプレスリリースを打ち、メディアに取り上げられる工夫をしつづけた。今の時代に一般企業がお手本にすべき広報を次々と実施していったのだ。

■ターゲットは女性。全国初を連発する近大

 もちろん、宣伝広報のうまさだけで教育内容がおざなりでは人は集まらない。女性をターゲットに据えた近大は、心理・社会・インテリアデザイン・カラーコーディネイトといった女性に人気の学問が学べる学部を増やしていった。同時に女子トイレの広さを男子の倍にするなど環境も整備し「キャンパスがきれいな大学」で関西1位となった(リクルート調べ)。また、全国で初めて「100%完全ネット出願」を実施し、全国初の完全養殖マグロ「近大マグロ」のレストランを銀座と大阪でオープンするなど、大学らしからぬ先進的な取り組みを行っていった。

 志願者数日本一の裏には見事にかみ合った事業戦略と広報戦略があるのだが、なぜ近大がこれを成し遂げられたのだろうか?

 それは近大の建学の精神(ミッション)と理事長の目標設定、調査改善のサイクルにあると考えられる。一体それがどのようなものなのかは本書に譲りたい。また、近大の主人公である学生の中には他の志望校に不合格になり入学してきた学生も多数いるそう。その学生たちが自ら大学を好きになり、明確な目標を持ち活躍し成長していく姿も本書の中で描かれている。

「こんな大学に入りたい!」本書を読み、まさにホリエモンと同じ感想をもった。