2015年の世界経済は米国をけん引役に回復基調を歩むとの期待感が高い。ただ、さまざまなリスクを抱えているのも事実だ。日本はそれを見据えながら構造改革を加速すべきだ。
足元では「逆オイルショック」ともいわれる原油価格の下落が目立つ。1バレル100ドル超の高値で推移していた原油相場は昨年12月に一時60ドルを割り込んだ。
シェールオイルといわれる新型の石油の供給が増える一方、中国をはじめとする新興国の景気減速で需要が鈍化した。
産油国と輸入国で明暗
原油安は、ロシアを筆頭に産油国の経済を揺さぶっている。ロシアでは昨年、通貨ルーブルが急落し、株価も大幅に下がった。インフレの加速をうけて、中央銀行は政策金利の引き上げを強いられ、それがロシアの実体経済を冷やす悪循環に陥っている。
産油国では原油収入が国家の歳入のかなりの部分を占めており、原油安で財政赤字も膨らむ。外貨準備の急減に直面したナイジェリアは自国通貨の切り下げを余儀なくされ、ベネズエラは債務不履行(デフォルト)の可能性までとりざたされている。
対照的に、原油安の恩恵を受けるのは、原油輸入国・地域である日本や韓国、台湾といった東アジア勢や欧州諸国だ。世界全体でみれば、原油安はプラスである。
国際通貨基金(IMF)の推計によれば、原油安は15年の世界の国内総生産(GDP)を0.3~0.7ポイント押し上げる。ただ、産油国経済の苦境は、金融市場の混乱などを通じて世界経済の足を引っ張るおそれがある。日本も警戒を怠れない。
15年は米連邦準備理事会(FRB)による政策金利の引き上げが見込まれる。米国経済は堅調で、失業率も着実に低下している。量的金融緩和政策を終えたFRBが利上げを開始すれば、04年以来となる。
米国が本格的な金利上昇局面に入れば、新興国市場からドル資金が一気に流出して米国に向かう可能性もある。いまの産油国と同様、自国通貨の急落でインフレが加速しかねない新興国にとっては、大きな正念場となる。
13年に当時のバーナンキFRB議長が量的緩和の縮小を示唆したとき、金融市場の標的となったのは、ブラジル、インド、インドネシア、トルコ、南アフリカだった。いずれも財政赤字と経常赤字の「双子の赤字」を抱えていた。
今後問われるのは、新興国経済が外部環境の変化に耐える力を十分に備えているかどうかだ。
たとえば、エネルギー改革を断行したメキシコは堅調な米経済にも支えられ、産油国ながら底堅い成長が見込まれる。インドネシアは財政健全化に向け、燃料費向け補助金の削減に乗り出した。インドも投資許認可の手続き迅速化などに着手した。
各国がこうした構造改革を進めているか否かを、市場は厳しく選別するだろう。新興国との結びつきを強めている日本企業も無関心ではいられない。
デフレ懸念がぬぐえない欧州や、不動産価格が下落している中国の行方も、引き続き世界経済にとってはリスクとなる。
世界貿易の伸びは鈍化
気になるのは、世界貿易が伸び悩んでいることだ。ここ数年は、3%台の世界経済の成長率をやや下回って推移している。
背景には中国製造業の供給網の変化があると、IMFは分析している。中国は日本や韓国、台湾から部品や半製品を輸入し、最終製品に組み立てて米欧に輸出してきた。ここにきて中国の部品メーカーが育ち、世界貿易の潮流が変わり始めた可能性には留意したい。
日本は異次元の金融緩和で円安が進んでも輸出数量が伸び悩んでいる。外需に過度に期待せず、生産性の上昇を伴うかたちで個人消費や設備投資など内需を含む持続可能な成長を探る必要がある。
15年10月に予定していた10%への消費税増税は延期され、当面は景気を大きく下押しする要因はなくなった。むしろ原油など資源価格の低下で企業や家計の負担が減り、先行きは比較的明るい。
政府や企業は目先の景気が改善しても気を緩めず、構造改革や成長戦略を実行に移すときだ。
再び原油価格が上がる事態に備え、エネルギーを安く安定供給できるようにする戦略づくりを急ぐ。米国を起点に世界的な金利上昇圧力が強まったときでも、日本国債の信認を保てるような財政再建の努力を続けることも忘れてはならない。慢心は禁物だ。