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書の海で発見した宝の本を記録しました。長めですが深い(?)感想が特徴。ジャンルは、政治、法、宗教、小説、神秘、戦争、文章論、読書論とさまざま。好きな作家は遠藤周作です。

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読書録148(2001.10.25) 坂本多加雄・秦郁彦・半藤一利・保坂正康『昭和史の論点』(文春新書、2000年)

発行日:10/25

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◆◆◆  トート号航海日誌(読書録) ◆◆◆ 

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○日記

〜ノーベル平和賞〜

ちょっと古い話だが、今年のノーベル平和賞は国連とコフィ・アナン国連事務総長が 
受賞した。実は日本人でもノーベル平和賞をもらった人がいる。佐藤栄作元首相であ
る。でもその受賞理由を知っている人はどれくらいいるであろうか。受賞理由は非核
三原則の公式表明であった。

せっかくの日本人によるノーベル平和賞受賞なのに、このことがあまり知られていな
いのには訳がある。実は佐藤栄作は本気で非核を訴えたわけではなかったことが明ら
かになり、疑惑の受賞となったのだ。直接あたったわけではないのだが、ノーベル賞
委員会が出版した『ノーベル平和賞 平和への百年』では「ノーベル賞委員会が犯し
た最大の誤り」という評価をされているらしい
http://www.kochinews.co.jp/0109/010906syakai.htm )

佐藤栄作に限らず、ノーベル平和賞受賞者一覧
http://www.ylw.mmtr.or.jp/~gifu-cea/data/nobel/peace.htm )
を眺めていると首を
傾げたくなるような人が少なからずいる。特に最近では、アウン・サン・スーチー、
ラビンとペレスとアラファト、C.ベロとラモス・ホルタ、金大中など、その後あまり 
平和が進展していない件での受賞者が多い。平和賞を与えたことを梃子に真の平和
を、と期待を込めて授賞したのだろうが、裏目に出ている。佐藤栄作同様、後世の人
からは受賞理由を忘れられてしまう恐れさえある。

ノーベル平和賞の授賞は難しい。性格上どうしても政治的になってしまい、評価も分 
かれるからだ。もうこの賞はいらないのではないか。

hari




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読書録148(2001.10.25)
坂本多加雄・秦郁彦・半藤一利・保坂正康『昭和史の論点』(文春新書、2000年) 
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▼本書の内容

先日、日記で風呂場読書初体験のことを書いたが、その時に読んでいたのが本書。月
刊誌『諸君!』に2000年に載った、坂本多加雄・秦郁彦・半藤一利・保坂正康による
座談会を収録したもの。扱っている議題は以下の通り。

1.ワシントン体制、2.張作霖爆殺事件、3.満州事変から満州国へ、4.国際連
盟からの脱退、5.二・二六事件、6.盧溝橋事件から南京事件へ、7.東亜新秩序
声明、8.ノモンハン事件、9.日独伊三国同盟、10.四つの御前会議、11.ハ
ル・ノート、12.真珠湾攻撃、13.大東亜共栄圏、14.餓死と玉砕、15.科
学技術と戦略、16.原爆とソ連侵攻、17.戦争責任と戦後補償。 


▼満州事変に対する世界の対応と米国同時多発テロ

テロ事件がまだ尾を引いている中、一見関係ない書物を読んでいてもついつい事件と
関連させて考えてしまう。

満州事変に関して本書に以下のような記述がある。「国際紛争は国際連盟で処理して
いくということに日本も積極的に同意していたにもかかわらず、満州事変を起こして
しまった。しかも連盟が制裁できなかったのを見てイタリアのムッソリーニ、ドイツ
のヒトラーもあとに続きました。第二次世界大戦につながる戦争の口火を切ったの
は、実は日本だ、という点で責任は重い」(秦発言、9頁)。

国際連盟は、リットン調査団を派遣し、日本の満州国建設は国際法違反だと結論づけ
たが、非難するだけで実際には物理的制裁を行使しなかった。その結果、日本は満州
に居座ったのだが、これを見たドイツやイタリアまでも違反行為をはじめた、という
のだ。

これは、著しい無法者に対しては、口で非難するだけではだめで、物理的制裁が必要
だという歴史的教訓ではないだろうか。僕は今回のテロ事件に対する米英両国の武力
行使を支持する。ここで何も物理的制裁を加えなければ、ビンラディン及びアルカイ
ダを増長させるのみならず、世界中のテロリストのテロ行為を招く恐れがあると思う
からだ。満州事変は「会話」では解決せず、物理的制裁の欠如が自体を余計悪くし
た。この失敗から学ぶことは少なくないのではないか。


▼戦争を煽ったマスコミ

読書録117(稲垣武『朝日新聞血風録』)でも読書録147(田原総一郎『日本の戦
争』)でも触れたが、マスコミは戦争を煽ってきた。そのことが本書でも強調されて
いる。例えば、満州事変の頃の『朝日新聞』。事変勃発当時は事変反対の主張だっ
たのが、関西で朝日新聞不買運動が起こると急に戦争支持の論調に変わった(40
頁)。眉間を射抜かれた兵隊がまた歩き出す記事まで書いたというから呆れる。大衆
に迎合して戦争を煽ったと言われても仕方あるまい。

国際連盟脱退の際にも、新聞12社は「横並びで、国際連盟は日本の東洋平和の意図を
わかっていない、報告書は断じて受諾すべきでないと松岡を励ます宣言をだし」(保
坂発言、56頁)たという。さらにひどいことに、「政府も軍部もまだ本気で脱退を考
えていないとき、新聞が率先して脱退せよと政府の尻を叩いた」(半藤発言、59頁) 
そうだ。

戦争の責任を考える際にあまり触れられないが、マスコミにも国を誤らせた大きな責
任があるのだ。


▼戦争責任は国民全体にある

しかし、戦争を煽ったのはマスコミだけではない。例えば、文学者・芸術家だ。「日
米開戦のとき、日本の文学者や芸術家の多くが、まったく芸術性の欠けた表現で、積
年のウッセキが晴れた、いざ戦わん、などと日米開戦を賛歌していました」(秦発
言、59頁)。

こう見ると、戦前の日本の過ちを軍部や政府のみに押しつけることは、正しくないと
いうことが分かる。日本人全体の責任という面も大きいのだ。国民にとっては、一部
の人間に騙されたと考える方が楽なのだろうが、あの戦争の反省・総括をしっかり行
なうためにも、いま一度あの戦争の原因をしっかり検証する必要があろう。


▼二・二六事件と国民生活

読書録147(田原総一郎『日本の戦争』)で、二・二六事件当時は国民生活は安定し
ており、クーデターが起こるような社会状況ではなかったという説を紹介した。本書 
でも秦郁彦がこの説を支持している(もっとも田原総一郎はかなり秦郁彦を信頼して
いるので、秦郁彦説を田原総一郎が支持した、と考える方が自然だが)。「もはや戦
後ではない」で有名な1957年の経済白書が、その根拠をGNPなどの経済指標が1935
年、1936年の数値を越えたことに置いていることを考えると(41頁)、この説は信憑
性が高い。


▼侵略か解放か

先の戦争が侵略だったか解放だったか。皆、純粋な解放ではなかった点には同意して
いるが、坂本多加雄だけは侵略とも言い切れないと言っている(181頁)。他の発言
者は、明言はしていないが、文脈からどうも侵略の度合いが強いと考えているようで
ある。僕も後者に同感である。


▼最後に

こういう座談会形式の本は、一人の主張を理論的に論じているるわけではないので深
みはないが、いろいろな論点やエピソードが手軽に読めるという利点がある。会話な
ので文章や表現も軽くて面白い。例えば、日露戦争で、日本は賠償金を取れなかった
のに勝ったという雰囲気だけが残った。これは「九九年のダイエー球団と同じで、リ
ストラしたいときに優勝したもので、困ったことになった(笑)」(秦発言、16頁)
という発言なんかは座談会ならではの喩えだろう。

参加者中、秦、半藤、保坂の意見には概ね賛成だったが、先の戦争が侵略だったかど
うかの判断を留保し、戦後賠償の問題も賠償額ばかりを気にしているように見受けら
れる坂本多加雄の議論にはちょっとついていけない部分があった。

2001.10.25.



●関連読書録

◇戦争とメディアの関係について

・読書録117 稲垣武『朝日新聞血風録』
        http://www6.plala.or.jp/Djehuti/2001822.htm

◇その他戦争関係

・読書録147 田原総一郎『日本の戦争』
        http://www6.plala.or.jp/Djehuti/20011023.htm
・読書録075 西尾幹二他『[市販本]新しい歴史教科書』
        http://www6.plala.or.jp/Djehuti/2001628.htm 
・読書録033 高橋哲哉『歴史/修正主義』
        http://www6.plala.or.jp/Djehuti/2001323.htm 
・読書録030 藤原帰一『戦争を記憶する 広島・ホロコーストと現在』
        http://www6.plala.or.jp/Djehuti/2001314.htm 
・読書録021 藤田久一『戦争犯罪とは何か』
        http://www6.plala.or.jp/Djehuti/2001220.htm


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