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「叩かれるのは我慢する時間が少なかったから」楽天・大久保監督はなぜ批判される?

産経新聞 1月1日(木)12時30分配信

 就任が伝えられると「反対署名」が集められ、ネガティブキャンペーンともとれる記事まで躍った。来季、プロ野球で5人の新監督が誕生する中で、楽天の大久保博元監督(47)は異質な存在だ。

 「監督という大役を仰せつかったのに、まだたたかれるというのは我慢する時期が人より少なかったから。そう受け止めているんですよ」

 最初はショックだった。しかし「我慢」という言葉を反芻するうち、周囲の反応も変わっていく。「実績のない俺なんかが監督になって…という思いもあるでしょう。でも球場で、ファンの人はわーっと盛り上がってくれる。気にしてもらっているんだ、何でもいいから話題にならないと」と考えるようになった。あとは結果だとも。

 選手とのコミュニケーションを疑問視する声もあった。西武コーチ時代、菊池投手への暴行があったとして裁判になった経緯があるからだ。しかし、徹底的な対話が基本にある。たとえばミーティングで、あるカウントでの打撃やサインなどチーム方針を伝えると「自分の意見があったら今、ここで言ってくれ。黙っていてあとから何か言うのは約束違反だぞ」と促す。押しつけはない。

 “デーブ流”はグラウンドだけにとどまらない。そのひとつが、スポーツにおける自律神経の作用。一般にテンションが高い場合は交感神経が、リラックスしているときは副交感神経が優位になる。科学的にもリラックスしているほうが力が発揮できるとされ、秋季キャンプでは知人の医師に講義を依頼した。

 「選手って恋愛している女の子みたいなものだと思っているんです。振られないように、いつもドキドキしているでしょ。だから安心していられるように、いろいろな情報を与えてあげる。そのひとつが医学的な話で、僕に意見をくれる人たちの話を有効に使ってほしいんですよ」

 J1仙台の渡辺監督とも意見交換し、大学教授や栄養士など“ブレーン”ともいえる存在が周囲に多くいる。ためになると思えば貪欲に試す。

 食事改革は大きなポイントだ。春季キャンプからは「短時間での食事が自律神経に影響する」とランチタイムに1時間を割き、血糖値の急激な上昇を抑えるため「野菜、肉や魚、それからご飯という食べる順番を、食事会場の目につくところに張り出すつもり」。通常、ホームゲームのナイターでは試合の約1時間半前に食事を取るが「それでは消化できていなくて、かなり鈍い状態で野球をやっているそうです。だから11時や正午から準備してもらうと思っています」と次々とアイデアがわく。いずれもブレーンから得た知識をアウトプットし、野球に役立てようというものだ。

 すべてに全力投球なのは、2軍監督としてイースタン・リーグで南三陸や石巻など被災地を回った経験も影響している。ある試合で、球拾いを手伝う少年12人のうち9人が家を流され、6人が家族を亡くしていた。

 「選手にもすぐ言った。“きょうからなんとなく打席に立つのはやめよう。なんとなく暮らすのはやめよう”って」

 大久保監督の出身地、茨城県大洗町も津波被害を受け、母親とは4日間連絡がつかなった。

 「必要とされているのは水や食料で、俺たちなんか誰も必要としていない。だからこそ鍛錬して人にはできない球を投げて、人には飛ばせない距離の球を打つ。それを3時間めいっぱいやる。その時間だけは見ている人も嫌なことを忘れられる。俺たちはそのために必要なんだと」

 最下位からのスタートにプレッシャーはない。ただ、尊敬する星野前監督から引き継いだチームをもう一度、歓喜に導きたい。目指すのは常勝軍団だ。「ペナントを取るつもりでは勝てない。日本シリーズで勝つチームを目指してこそ、優勝できる」。打撃コーチを務めてきたが、意外にもイメージするのは守備のチーム。「現役時代に西武、巨人でやってきて思うのは、強いチームは守備から入っている」という経験値がある。

 そのキーマンにはベテランの名前を挙げた。投手なら小山、野手は藤田や松井稼や嶋。「まだあまり言えないけど、中堅を(松井)稼頭央、聖沢、森山で競わせたいと思っている」とプランの一端も明かした。

 デーブ流革命で楽天は再び頂点を目指す。(芳賀宏)

最終更新:1月1日(木)14時9分

産経新聞

 

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