特別編集委員・冨永格
2015年1月1日01時16分
今年、日本は戦後70年を迎える。豊かで平和な戦後は、世界と日本との関係を新たに築こうとした個人抜きには語れない。一人ひとりのドラマが日本の姿を映し出す「鏡」となる。そこに映る70年の軌跡を追ってみよう。
■鏡の中の日本〈1〉装う
冬のパリは暗いけれど、寒々しくはない。いろんな人種民族がある種の摩擦熱を発して暮らす。モデルのユリア(25)はロシア人、この街に4年。その透き通る肌に、アトリエの松重健太(26)は自作の服を合わせていく。ユリアはされるがまま動かない。初対面のプロ同士、ほのかな緊張を伴い沈黙の時が流れた。
渡仏6年の松重は昨春、名高い南仏イエールの服飾コンクールを制し、期待の若手となった。受賞作は前年の夏、瀬戸内の直島にたたずむ安藤忠雄の建築に想を得たという。鉱業から文化へ、戦後日本の流転を映すその島で、誰も見たことのない服を作ろうと心に決めた。基調色は、打ち放しのコンクリートを思わせる薄いグレーである。
優勝者の国籍に驚きはなかった。松重が巣立ったパリのデザイナー養成校にはアジア系の顔が目立つ。東西の壁はとうに、日本の先達が壊している。「森英恵さん世代の苦労を知ると、独りで日本を背負う覚悟を感じます。それほどの強さを、僕も持ちたい」
88歳になる森を六本木に訪ねた。取材の終わり際、彼女はやや唐突にその言葉を口にした。「やっぱり、戦争だと思います」。服飾人生の、原点である。
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