2015-01-01 出版状況クロニクル80(2014年12月1日〜12月31日)
■[出版状況クロニクル]出版状況クロニクル80(2014年12月1日〜12月31日)
出版状況クロニクル80(2014年12月1日〜12月31日)
11月の書籍雑誌推定販売金額は1232億円で、前年比3.3%減。その内訳は書籍同5.6%減、雑誌1.6%減で、雑誌のうちの月刊誌は0.8%減、週刊誌は4.9%減。
返品率は書籍が40.0%、雑誌は38.6%で、双方とも高止まりし、14年は40%前後の返品率が常態化してしまった。
書店売上は書籍3%減、雑誌6.5%減であり、出版社、取次も含めて、出版業界は最悪の状況を迎えている。大きな倒産や事件は起きなかったものの、正念場の1年もまた出版物売上の下げ止まりはまったく見られず、出版業界全体がさらに奈落の底へと沈み始めている。
15年はその解体の年として記録されることになろう。
1.2014年11月までの売上を示す。
2.出版物販売金額と書店数の減少の相関を表化してみる。[2013年の12月売上は1396億円で前年比5.6%減であるし、それに加えて2014年は消費税増税、12月の衆議院選挙も作用し、それ以上の落ちこみとなるかもしれない。もしそうなれば、出版物販売金額はかろうじて1兆6000億円をキープするか、もしくは割ってしまうことも考えられる。
■2014年 推定総販売金額 月 推定総販売金額 書籍 雑誌 (百万円) 前年比(%) (百万円) 前年比(%) (百万円) 前年比(%) 2014年
1〜11月計1,469,759 ▲4.8 698,008 ▲4.2 771,751 ▲5.3 1月 108,164 ▲5.5 53,266 ▲3.6 54,897 ▲7.2 2月 153,090 ▲3.6 81,062 ▲2.8 72,028 ▲4.4 3月 194,540 ▲5.6 108,516 ▲4.5 86,023 ▲6.8 4月 133,916 ▲6.5 60,623 ▲7.7 73,293 ▲5.4 5月 112,456 ▲5.0 51,390 ▲6.0 61,066 ▲4.2 6月 124,516 ▲9.5 54,551 ▲10.1 69,965 ▲9.0 7月 118,250 ▲0.4 49,980 2.0 68,270 ▲2.1 8月 117,674 ▲7.9 50,474 ▲4.8 67,200 ▲10.1 9月 150,829 ▲0.7 75,837 ▲0.4 74,992 ▲1.1 10月 133,096 ▲4.2 60.397 ▲2.2 72,698 ▲5.8 11月 123,229 ▲3.3 51,911 ▲5.6 71,318 ▲1.6
いずれにしてもそれを受けて、出版業界の地獄の1年が始まることは火を見るよりも明らかだ]
3.『出版月報』(11月号)が特集「電子書籍ビジネス最前線」を組んでいる。これは8ページに及ぶ包括的なもので、紹介しておくべきだろう。[これを表化してみたいと思ったのは、「出版人に聞く」シリーズ〈18〉として刊行予定の、野上暁『小学館の学年誌と児童書』で、1960年代半ばの書店が2万6千店だったと知らされたからである。この数字は小さなスタンド的な書店もカウントするものだったと推測される。
■書店数の推移と出版物推定販売金額 年 書店数 減少数 書籍 雑誌 合計 金額 (前年比) 金額 (前年比) 金額 (前年比) 1999 22,296 − 9,936 ▲1.6% 14,672 ▲4.2% 24,607 ▲3.2% 2000 21,495 ▲801 9,706 ▲2.3% 14,261 ▲2.8% 23,966 ▲2.6% 2001 20,939 ▲556 9,456 ▲2.6% 13,794 ▲3.3% 23,250 ▲3.0% 2002 19,946 ▲993 9,490 0.4% 13,616 ▲1.3% 23,105 ▲0.6% 2003 19,179 ▲767 9,056 ▲4.6% 13,222 ▲2.9% 22,278 ▲3.6% 2004 18,156 ▲1,023 9,429 4.1% 12,998 ▲1.7% 22,428 0.7% 2005 17,839 ▲317 9,197 ▲2.5% 12,767 ▲1.8% 21,964 ▲2.1% 2006 17,582 ▲257 9,326 1.4% 12,200 ▲4.4% 21,525 ▲2.0% 2007 17,098 ▲484 9,026 ▲3.2% 11,827 ▲3.1% 20,853 ▲3.1% 2008 16,342 ▲756 8,878 ▲1.6% 11,299 ▲4.5% 20,177 ▲3.2% 2009 15,765 ▲577 8,492 ▲4.4% 10,864 ▲3.9% 19,356 ▲4.1% 2010 15,314 ▲451 8,213 ▲3.3% 10,536 ▲3.0% 18,748 ▲3.1% 2011 15,061 ▲253 8,199 ▲0.2% 9,844 ▲6.6% 18,042 ▲3.8% 2012 14,696 ▲365 8,013 ▲2.3% 9,385 ▲4.7% 17,398 ▲3.6% 2013 14,241 ▲455 7,851 ▲2.0% 8,972 ▲4.4% 16,823 ▲3.3% 2014 13,943 ▲298 − − − − − −
この時代に小学館に入社した野上は『小学一年生』編集部へ配属されるのだが、この書店数、及び大書店ではなく、小さな書店のほうが学年誌を多く売っていることをたたきこまれたという。実際に『小学一年生』は当時90万部を実売していたようだ。
この事実は小学館の経営者や営業部も、大手出版社のマス雑誌は、主たる販売が小書店によって支えられている構造を深く認識していたことを示している。つまり日本の雑誌をベースとする出版流通システムは、町の中小書店が根幹を占め、生命線であることを。
しかし今世紀に入って、書店数は減少の一途をたどり、2015年には1960年代の半分の1万3千店を割ってしまうことになるだろう。出版危機のひとつの原因が書店数の減少であることが了解されるのである]
まずは「紙と電子の出版物販売金額推移」の表をアレンジして示す。
また電子書店チャートも提出しておく。
■紙と電子の出版物販売金額推移(単位:億円) 年 紙
コミックス紙書籍 紙合計 電子コミック 電子書籍 PC
向け電子
合計総合計 ケータイ
向け新プラット
フォーム向け合計 ケータイ
向け新プラット
フォーム向け合計 2009 2,274 8,255 10,529 428 − 428 85 6 91 55 574 11,103 2010 2,315 7,979 10,294 492 4 496 80 21 101 53 650 10,944 2011 2,253 7,966 10,219 423 69 492 57 43 100 37 629 10,848 2012 2,202 7,797 9,999 302 272 574 50 95 145 10 729 10,728 2013 2,231 7,647 9,878 120 611 731 21 178 199 7 936 10,814
こうした電子書店に対して、電子取次は出版デジタル機構(ビットウェイ)、モバイルブック・ジェーピー、メディアドゥの3社とされる。
■電子書店チャート 海外プラットフォーム キンドルストア(アマゾン)
i Book Store(アップル)
グーグルプレイブックス(グーグル)印刷・書店系 BookLive(凸版印刷)
honto(大日本印刷)
Kinoppy(紀伊國屋書店)流通系 楽天kobo電子書籍ストア
ヤフーブックストア
セブンネットショッピングメディア・出版社系 BOOK☆WALKER
ニコニコ静画出版取次 Digital e-hon(トーハン)
boocross(日販)電子書店専業 eBookJapan
電子書店パピレス携帯キャリア系 dブック(ドコモ)
ブックパス(KDDI)
スマートブックストア(ソフトバンク)
[これらが2010年の電子書籍元年からの電子書籍販売金額の推移、電子書店と取次のチャートである。4.丸善CHIホールディングスは、完全子会社の丸善書店が同じく完全子会社のジュンク堂書店を来年2月に吸収合併するとのリリースを発表。
電子書籍販売金額は09年の574億円から13年の936億円と伸びてはいるものの、その内訳はコミックが731億円、書籍が199億円というもので、コミックシェアが8割近くを占め、日本の電子書籍のコアはコミックであることが歴然としている。これだけ電子書店があるにもかかわらず、書籍は2割でしかない。
この中で大手出版社は、雑誌を含めたコミックのサイマル(同時)配信とコンテンツ化を進めているので、電子書籍とコミックの連携はさらに進化していくはずだ。この電子コミック売上がどこまで成長するのかわからないが、1000億円を超えるものになれば、本クロニクルで既述してきたように、書籍、雑誌に続いて、紙のコミック売上も総崩れとなり、さらに出版危機を加速させるであろう。
その一方で、乱立状態といっていい電子書店は淘汰されていくし、すでに13年には地球書店、エルパカブックス、ヤマダ・イーブック、TSUTAYA.com eBOOKsなども撤退している。
出版科学研究所は電子書籍の出版と販売データ統計の早期実現を意図しているようだ]
[丸善書店の売上高214億円に対して、ジュンク堂の売上高は503億円だが、2億円近い赤字であり、DNPの意向もあり、前者への吸収合併となったと判断できよう。5.4のような書店状況のかたわらで、紀伊國屋書店や有隣堂の決算が出されている。
リリースによれば、「より効率的な運営とブランド力の発揮による成長と収益拡大」のためとあるが、結果として、ジュンク堂の名前が新社名「丸善ジュンク堂」として残るけれど、消滅することになる。
ジュンク堂と大阪屋の関係、かつての大阪屋筆頭株主で、丸善書店とジュンク堂の社長を兼ねていた工藤恭孝の処遇はどうなるのだろうか]
紀伊國屋の売上高は1067億円で前年比0.4%減だが、経常、当期純利益はそれぞれ7億円前後の大幅増で、微減収、増益の決算。
有隣堂は売上高504億円で前年比0.4%増、経常利益は2億9100万円で同35.8%減、当期純利益7300万円で同68.8%減の増収減益決算。
[両者ともほぼ横ばいの売上高であるが、紀伊國屋は店売560億円でマイナス3.6%を外売の461億円、同3.6%プラスで支え、電子書籍売上は12億円とされている。6.日販とトーハンの中間決算も出された。
紀伊國屋の店売推移を見てみると、1996年には37店、11000坪で584億円であったことからすれば、14年は64店、30000坪で560億円だから、多店大型化すればするほど、売上が落ちていったことになる。それは全体の売上も同様で、96年は1070億円である。
有隣堂の場合、書籍雑誌前年比1.8%減に対し、アスクルなどのカタログ商品が同7.3%増による増収で、こちらも出版物売上が伸びているわけではないし、店売状況推移は紀伊國屋と同様だと見なせよう。
今月も紀伊國屋は武蔵小杉店306坪、西武池袋店170坪の開店、有隣堂はアトレ恵比寿店リニューアル開店となっているが、これらも売上増に結びつくのではなく、ゼロサムゲーム的な出店、開店にすぎない。しかしそのことによって周辺書店の閉店につながり、それはCCC湘南T‐SITE開店、他のナショナルチェーンの出店も同じであり、かくして書店数はさらに減少していく]
日販は連結売上高3165億円で前年比3.9%減、単体売上高は2602億円で同4.8%減。書籍は5.6%減、雑誌は4.9%減。
トーハンは単体売上高2208億円で前年比5.8%減。書籍6.3%減、雑誌8.8%減。
[日販にしてもトーハンにしても、書籍、雑誌は総崩れ状況にあるといってもよく、第三商品である「開発商品」や「MM商品」によって、それらのマイナスを支えていることになる。7.MPDの中間決算は売上高933億円、前年比2.5%減で、書籍雑誌は同0.6%減にとどまったものの、レンタル、ゲーム部門が大きく落ちこんでいる。レンタルは124億円、同19.4%減、ゲームは66億円、同8.8%減。
それゆえに文房具や雑貨、あるいはカフェ事業の推進へ向かうしかない取次状況を浮かび上がらせている。
なお日教販の決算も出され、売上高は290億円で前年比6.6%減。家電販売店やアマゾンとの取引を止め、学参と教科書の本業に専心する方針と伝えられている]
[レンタルを柱としてFC多店大型化を推進してきたMPDとCCCの成長もすでにピークアウトしたと考えられる。8.大阪屋は37億円の増資とともに、大竹深夫社長はそのままだが、役員は刷新され、7人が交代し、執行役員は13人のうち、8人が新任。
そのことに関連してか、長崎県内外でTSUTAYA事業を展開する松早商事の新会社株式を、長崎バスグループ中核企業の長崎自動車が買収し、完全子会社化し、TSUTAYA事業を始めとする様々なFC店を取りこむという。
レンタル、ゲーム部門の落ちこみは三洋堂HDの中間決算にも顕著で、レンタル8.7%減、ゲーム21.1%減である。一方でゲオの中間決算は1249億円と過去最高で、レンタルは415億円、前年比1.7%減とそれほど落ちていない。このような状況からすれば、三洋堂とゲオの資本業務提携は急速に深まっていくかもしれない]
主な新任役員の名前を挙げてみる。カッコ内は前身、もしくは兼職。
9.『ニューズウィーク日本版』は12/2号、12/9号と続けてアマゾンにふれている。[この他に営業や流通担当役員は従来の大阪屋の大阪本部メンバーでほぼ占められ、声明にあるように関西に重点を置く方針が了解される。
取締役・上席執行役員/企画管理本部長 篠田 真(大阪屋経営企画室室長) 同・同/流通本部長 堀江厚夫(大阪屋システム情報部、OKC) 同・同 安田博祐(楽天) 社外取締役 片山 誠(楽天) 同 関谷幸一(KADOKAWA専務取締役) 同 佐藤隆哉(小学館取締役) 常勤監査役 池田俊治(大阪屋営業本部営業調整部長 ) 社外監査役 玉井宏平(DNP) 同 林 秀明 (集英社経理部次長) 同 村上 潔(講談社社長室)
しかしその改革の内実となると、きわめて不鮮明で、こうした役員のラインアップを見ても、株式出資に応じた各社の顔見世以上の印象を超えるものではない。
筆頭株主となった楽天にしても、取締役・上席執行役員と社外取締役の二人を送りこんだだけで、この安田と片山はKoboとイーブックジャパン事業の担当者だが、大阪屋投資と案件に関するリリースはまったく出されていない。
要するに出資には至ったものの、実務は従来の大阪屋が担い、楽天にしても出版社にしても、新たな改革の見取図などは描かれていないと見なすしかない。
そこにジュンク堂の清算も加わってくる。またヴィレッジヴァンガードの、大阪屋からトーハンへの帳合変更も伝えられている。大阪屋だけでなく、他の取次も含めて、もはや予断を許さない段階へ入っていると考えられる]
12/2号は「アマゾンは『未来』を変えたのか」で、本クロニクル77 でも既述したアマゾンとアシェットの電子書籍価格決定権をめぐる争いは、著名作家たちの後押しを受けたアシェットが価格決定権を死守することで決着したと伝えている。
12/9号は「アマゾンで買わないクリスマス」で、イギリスの反アマゾン運動を展開するウエブサイト「アマゾン・アノニマス(AA)」の同タイトルキャンペーンをレポートしている。アマゾンの損害は250万ポイント超に及び、今でも1日当たり5万ポンドで増え続けているという。AAはアマゾンが従業員に対し、「生活賃金以下の給与しか払わないだけでなく、昨年の法人税納付額は売り上げ43億ポンドに対し、たったの420万ポンド」で、それはイギリス事業を法人税率の安いルクセンブルグに移管したからだ。
10.『日経MJ』(12/10)が「アマゾンVS.セブン」特集を組んでいる。ネットとリアルを組み合わせた「オムニチャンネル」市場の獲得競争で、そのチャートは次のようなものだ。![]()
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[いずれの問題も日本の出版業界や社会と密接に絡み合っている。前者に関して、だが「アマゾンとアシェットの戦いは、その長い物語のエピソードの1つにすぎない」、後者については「適切な社会貢献なしに儲けだけを追求することは許さないという彼らの声は巨大企業に届くだろうか」と結ばれている。これらのクロージングの一文も、そのまま日本に当てはまるものとして認識すべきであろう]
11.コンビニのオムニチャンネル化だけでなく、明屋書店はセブン‐イレブンを併設した融合店の本格的展開をめざす。すでに愛媛県松山市と西条市に2店を出し、数年内に10店以上を併設店に転換する予定。[野村総合研究所によれば、「オムニチャンネル」が生む020市場は、2017年度には50兆円規模に達すると推測され、そのためにアマゾンもセブン&アイホールディングスも、ネットと受け取り店舗網の拡大、及び店頭注文もできるネットと実店舗の融合を進めていることになる。
■「オムニチャンネル」市場の獲得競争 アマゾンジャパン   セブン&アイ
ホールディングス1億品目
(ローソン店頭では数千万品)購入できる商品 300万品目 ローソン1万2千店
ファミリーマート1万1千店
ミニストップ2千店
ヤマト運輸集配所3千店受け取り可能店舗 セブンイレブンとイトーヨーカ堂など
1万7千店最短即日(ヤマト集配所の場合、
コンビニは数日)注文から店頭受け取り
までの所要時間最短即日(自宅配送の場合、
コンビニは翌々日)7400億円程度 ネット経由売上高
(13年度)1500億円
セブ‐イレブンでは、アマゾンが扱っていない生鮮品2千品目も買えるし、また「町の本屋」を標榜しているが、雑誌や書籍も「オムニチャンネル」によって、購入することが日常的な習慣となっていくのであろうか]
[これは親会社のトーハンの意向、及び大型店における家賃コスト負担の低減手段の双方を反映していると思われる。12.『週刊プレイボーイ』(12/8)が「東京都『有害図書』指定の50年史」を掲載している。
雑誌、書籍、レンタルのマイナスによって、バブル的に大型化した店舗家賃は売上に比べ、コスト負担が過大になっていて、そのために文具売場、カフェ併設などへの転換が計られているわけだが、コンビニ併設もそうしたひとつの流れと判断できよう。出版物売上の凋落の果てに選択されたものであり、そういう意味では書店にとっては後ろ向きコース、後戻りができない道を歩んでいくことになるだろう]
13.早川書房の『ミステリマガジン』『S‐Fマガジン』『悲劇喜劇』が来月から隔月化。![]()
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[東京都の「青少年健全育成条例」による有害図書指定は、1964年の東京オリンピック浄化運動の一環としてスタートし、50年間にわたって続けられ、『週刊プレイボーイ』や『平凡パンチ』などの週刊誌も、それに指定されていたのである。
1960年代の出版シーンの一面において、週刊誌やコミックを含めた雑誌出版は、当局の検閲と悪書追放運動との戦いでもあった。
新たな東京オリンピックを控え、それらの動向はどうなるのか。これはほとんど言及されていないが、時宜を得た企画で、私も数十年ぶりに『週刊プレイボーイ』を買い、その真摯な内容にある種の感動を覚えた次第だ。
なお有害図書史についての具体的なケーススタディは「出版人に聞く」シリーズ〈12〉の飯田豊一『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』を参照されたい]
14.『FACTA』(1月号)が「消える雑誌、残る雑誌」と題する記事を発信している。![]()
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[『週刊プレイボーイ』と同様に、近年は買うことはなかったけれども、昔なじみの月刊誌だっただけに、隔月化に移行するのは淋しい気がする。とりわけ『ミステリマガジン』に関しては、それこそ50年前から読んでいて、「早川書房と『エラリー・クィーンズ・ミステリ・マガジン』」(『古雑誌探究』所収)という一文まで書いているからだ」
[これは「主要149誌『完全部数』大公開!」と銘打ち、「門外不出!ABCデータ」に基づき、そのうちの118誌が前年割れで、経済誌や女性誌の凋落を伝えているが、日本ABC協会の雑誌実売部数は業界紙などに公表されているものなので、「門外不出!」のキャッチフレーズは誇大表記である。15.『アイデア』368号が日本オルタナ精神譜否定形のブックデザイン」特集を組んでいる。これは「日本オルタナ出版史ほんとうに美しい本」(354号)、「日本オルタナ文学史戦後・活字・韻律」(367号)に続く三部作の完結編である。
それでも知らなかった事実として、女性ファッション誌『DRESS』を創刊した幻冬舎系出版社ギフトの「異変」が記されている。ギフトは幻冬舎の見城徹がオーナーで、役員として秋元康、松浦勝人、藤田晋といった豪華な顔ぶれを揃えていたが、売れ行きが芳しくなく、IT企業に株式を売却したという。
また最近になって、ギャル系ファッション誌『小悪魔ageha』を刊行していたインフォレストの自己破産も伝えられている]
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16.『週刊ポスト』連載時から単行本化が待ち望まれた伊藤博敏『黒幕』(小学館)がようやく出された。サブタイトルに「巨大企業とマスコミがすがった『裏社会の案内人』」とあるが、これは情報誌『現代産業情報』発行人石原俊介の半生をたどったノンフィクションで、バブルと1990年代事件史の検証や記録ともなっている。[この三部作は戦前前後を通じての本をめぐる装丁、造本、活字、ブックデザインに表出する、もうひとつの出版精神史をめざして編まれたといっていいだろう。
三部作ということで連想されるのは、平凡社の『発禁本』三部作で、こちらももうひとつの出版精神史に他ならない。
しかし現在の出版業界において、これらの双方も追放されてしまったに等しく、それもまた出版危機の兆候を物語るものである。
今回の特集で教えられたのは、京都大学学術出版会発足経緯で、元平凡社の故二宮隆洋が自分にも声がかかることを期待していると語っていたが、それが成就しなかった事情がわかるように思われた]
17.小笠原豊樹=岩田宏が亡くなった。
[『現代産業情報』は講読料が高かったので、とることはできなかったが、その代わりに縮刷版『情報の情報』を読んでいた。これは90年代に4冊が出され、1冊3000円だったので、購入することができた。今世紀に入ってからも問い合わせたが、その後は出されておらず、『黒幕』を読んで、そうした事情の一端にふれたような気がした。
『情報の情報』を読んでいて驚かされたのは、所謂「政・官・民」に加え、報道機関と暴力団に通じた情報、人脈交差点という『現代産業情報』と発行人石原の立ち位置とその存在であった。この石原という人物は何者なのか。それを『黒幕』でようやく知ることになったのである]
[詩人としての岩田宏にはそれほど親しんでこなかったけれど、翻訳者としての小笠原豊樹には長きにわたって影響を受けてきたし、ロシア文学、フランス文学のみならず、ミステリーやSFの翻訳においても、大いなる貢献を果たしたと断言していいだろう。18.「出版人に聞く」シリーズ〈16〉の井家上隆幸『三一新書の時代』は12月中旬に刊行。
私的記憶からのベストを挙げれば、ロス・マクドナルドの『縞模様の霊柩車』『ウィチャリー家の女』『さむけ』、及びジョン・ファウルズの『魔術師』である。
そのこともあって、小社でも1992年にファウルズの哲学エッセイ『アリストス』の小笠原による翻訳を刊行し、吉本隆明によって、その年のベストに挙げられたこともある。
それゆえに公私を含め、ご冥福を祈る]
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〈18〉の野上暁『小学館の学年誌と児童書』は編集を終え、宮下和夫へのインタビュー『弓立社という出版思想』も年初に予定している。ご期待あれ。
《新刊》
《既刊の「出版人に聞く」シリーズ》