課題解決エンジンレポート 19
よしたにの突撃インタビュー
Vol.5 「kazoc」開発、運用秘話
よしたに 〈漫画家〉
佐藤 新悟〈ヤフー「kazoc」担当エンジニア、プロジェクトマネージャー〉
内田 里佳〈ヤフー「iOS版 kazoc」担当エンジニア〉
(2014.12.22 掲載) text by Nao Niimi(KAI-YOU)
■家族向けのクローズドアプリ「kazoc」の魅力
佐藤子育ての中でスマホやデジタルカメラなどでたくさん写真を撮るけれども、それを家族が共有できて劣化させず半永久的に残せる場所がない、という悩みをITの力で解決しようという発想から生まれたのが「kazoc(カゾック)」です。
内田「子どもを思う親心は今も昔も変わらず、また子どもの成長を家族で思い出とともに共有したい」というのが企画の意図でした。2013年2月にiOS版を、7月にAndroid版をリリースしています。
佐藤現時点ではウェブブラウザ版はなく、アプリ版のみの展開です。リリース当時はスマホにおけるウェブサービスの定番がウェブブラウザかアプリか定まっていませんでしたが、これからはアプリの時代だろうと見越して注力しました。実際今ではアプリが主流になっているので、その判断は正しかったと思っています。
kazocの特徴は、母子手帳などの機能を兼ね備えていて、完全に家族専用のクローズドサービスだという点です。SNSで子どもの写真を公開することに抵抗のない人もいますが、やはり載せづらいという人もいるわけで、そういう方にも安心して子どもの写真をアップロードして家族で楽しんでもらえます。
万一、端末の写真データが全部消えてしまってもkazocには残るため、ある意味バックアップの役目も果たせますね。
内田ユーザーのレビューでも、その安心感を評価していただいているように思います。今は20代から30代の女性、ママさんたちが一番のユーザー層です。総ダウンロード数は20万、そのうち妊娠中の方が3割で育児中の方が7割です。
妊娠や出産、育児という、女性にとって一番デリケートな時期に使っていただくアプリだということを、開発時に意識するようにしています。たとえば、出産後は視力がすごく落ちるそうで、スマホで見づらい文字を見続けると目に負担がかかるので、負担が減るよう優しい色使いにするといった工夫をしています。
佐藤ひとつひとつの機能をシンプルに抑えることも意識しています。 また、ユーザーに集まっていただき、kazocについてのインタビューをして、感想や要望を開発に生かすよう努めています。
最近特に好評をいただいているのが、リリースしたばかりのフォトブック機能。投稿した写真をまとめて本にしたいという要望が多かったので、kazocに投稿した写真と日記をそのまま簡単にフォトブックにできるようにしました。
内田フォトブックサービスは多くありますが、kazocではアプリに登録してある出生時の記録をそのまま掲載できますし、フォトブック自体もkazocアプリのシンプルなデザインを引き継いでいます。敬老の日が近い2014年9月9日にリリースしました。
佐藤スマホをお持ちのおじいちゃん、おばあちゃんであればkazocをすぐに活用できますが、そうではない人もいますし、やはりアプリだけだとハードルは低くない。フォトブックにして渡してあげることで、思い出を共有するといったサイクルが生まれてくれたらうれしいですね。
内田2014年3月にリリースした、エコー動画をkazocに保存できる「AngelMemory」機能もぜひ活用してほしいですね。他のサービスにはない珍しい機能です。
佐藤病院で撮ったエコー動画をサイトで閲覧できるサービス「AngelMemory」と連携した機能です。サービスに対応している病院が患者さんにkazocを紹介してくださり、利用いただく機会も増え始めています。
内田実はこれ、4Dエコー動画としておなかの中の様子を立体的に撮影しているんです。おなかの赤ちゃんの表情や動きもはっきりわかるし、心臓の音も聞こえます。一般的にエコー動画は、病院で1枚だけDVDでもらえるものですが、この機能ならインターネットで家族と共有できます。生まれる前のおなかの中から生まれた後まで、記録が一括で残せるというところを実現したくて始めた企画です。
佐藤エコー動画を最初に見たときの感動は、やっぱり親からすると格別です。だんだんおなかが大きくなるのでそこにいるというのはわかるんですが、形として見えたときの実感はすごい。だから、その特別な動画を見て、とっておきたいというのが親の心情です。
■男性にも積極的に使ってほしい
内田kazocの運営体制は、エンジニアが3名で、企画と制作が1名ずつ。エンジニアは全員既婚者なんです。メンバーの中で、男性と女性の2人が育児中です。
佐藤僕には3歳になる娘がいます。子どもが生まれてから、仕事への時間のかけ方にメリハリが生まれました。また実体験でわかる子どものいる家庭での課題をkazocに反映させています。たとえば、子育て中に天気が大事な要素だと実感し、kazocに「Yahoo!天気・災害」と連携させてタイムラインに3時間単位の天気を表示するようにしました。
プライベートでは、お義母さんがスマホから見られるように自分と妻が娘の記録を投稿するようにしています。後日、それが話題の種になるのはうれしいですね。
個人的には、男性にも積極的に使ってもらいたいと思っています。子どもと一緒に遊べる時期は限られているので、子育ては積極的に体験しないともったいないと思うんです。kazocを使っていろいろな思い出を残すように習慣化することで、子育てへの積極さの向上にもつながるといいですね。
内田今の機能に関してはユーザーのみなさんから好評をいただくことが多いのですが、もっとかゆいところに手が届く機能も充実させたいです。
佐藤そうですね。全体的な使いやすさやパフォーマンスなど、まだまだ改善したいところはたくさんあります。今まで一番多い要望がフォトブックでしたが、最近は動画の投稿に対応してほしいという要望が多いです。サーバー容量の問題などもありますが、今後対応したいです。
内田外部連携としては、ソフトバンクモバイルで携帯電話の契約者向けに、子どもから離れていてもワイヤレスカメラで見守ることができる「子育てサポート」というサービスを行っています。その閲覧アプリはkazocから派生したもので、開発もこちらで担当しています。
中には、kazocでも子育てサポートでも、子どもではなくペットを登録するといった思わぬ使い方もあります(笑)。ペットも家族ということで、家系図に入っている場合もありますしね。
■安心で簡単なサービスの実現が、少子高齢化へのアンサー
佐藤妊娠・出産・育児という限定的なシチュエーションで、かつアプリ版のみということで、kazocはニッチなアプリだと思われるかもしれません。しかも今は少子高齢化が指摘されています。けれど、子どもが大事だという価値観は普遍的なものです。
内田子どもの数は減っていますが、今までよりも写真や映像を本当に簡単に撮れるようになっているので、デバイスに接する時間の増加に比例して写真の枚数、つまり育児に関わるログの総量自体は実は増えているんじゃないかと思います。そういう膨大なデータを管理する場所が必要になってくるため、ヤフーが対応したというわけです。
佐藤少子高齢化自体、まさに解決すべき課題です。他社のサービスですが、女性の生理周期の管理ができるものもあります。ヤフーとしても、妊娠に限らず女性が健やかな生活を送るためのサービスについて構想をもっています。
内田子どもが少なくなっていることには理由があるはずです。たとえばそのひとつが、安心して子育てできる環境が足りていないのだとしたら、子育てしている人たちにとって安心できる場として機能させることで貢献できるかもしれない。時代的に、時間がない世の中だから、子育てにかける時間が十分ではないという不安があるなら、子育てにまつわる記録をもっともっと簡単に実現させるといった努力をしたいです。私はまだ子どもはいませんが、いつか自分も使いたいと思えるアプリをつくるという気持ちで日々開発しています。
佐藤kazocは、今は子育て世帯をメインターゲットにしていますが、広く家族向けのサービスということで考えたらほかにどんなことができるか、いつも話し合っています。アイデアとしては、やはり現実問題として増えている高齢者のために、おじいちゃんやおばあちゃんを見守ることができるサービスやアプリを実現させたいと思っています。
ヤフーでは、IT時代の人生設計と世代継承を支えるために、すべての人へ「Full Life(充実した人生)」を提供しようという意志のもと、プロジェクトを推進しています。kazocもそのうちのひとつで、生まれる時から寿命を迎える時まで、サポートできるサービスを生み出していきたいです。