今日から高校生。
着慣れないネクタイを締めて、教室に入る。
名字のせいで、俺の座席はいつも一番前の廊下側。
入学式の入り口で配られたクラス分けと座席表を持って席に着く。
クラスの全員の名前なんて、覚えられるかな。
そんなことを不安に思っていたら、ドアが開いた。
気だるげに教室に入ってきたクラスメイトを見て、俺は息を飲む。
その笑顔を
僕のものにしたい。
Vol.7
彼は、ゆっくりと歩き後ろの方の窓際の席に座った。
俺は急いで、彼が座った座席表の名前を確認する。
「松本潤・・・」
言葉に出したら、もう俺の中で特別になった。
「松本・・くんはさ、部活入る?どっか」
いつ話しかけようか散々迷って、4時間目が終わったと同時に席を立つ。
彼の席の前に立って、名前を呼ぶと
彼は大きな瞳で、俺を見つめ返してくれた。
「入るつもりはないけど・・・」
部活の勧誘かと思われたのか、少し疑いの目を向けられて
俺は焦る。
「いや!聞いてみただけだから!俺も中学の時はバスケやってたんだけど
高校は、帰宅部でいっかな〜って」
「そうなんだ」
「・・・俺、相葉雅紀っていうんだけど」
「あ、松本潤です」
「一緒にお昼食べない?」
勇気を振り絞って誘った、その時。
「松本」
廊下の方から、松本くんを呼ぶ声が聞こえる。
俺と松本くんが声の方向に顔を向けると
なんだかイラついた顔をした奴が、こちらに近寄ってきた。
「飯、どこで食べんの?」
「どこでもいいよ。ニノ、お弁当?」
「今、購買で買って来た。中庭行く?」
2人の会話に入れずにいると、松本くんが
「ニノ、同じクラスの相葉くん」
俺はいきなり紹介されて、慌てて笑顔を作る。
「よろしく!」
俺が挨拶すると、その男は俺の顔を横目で見た後
「どうも、二宮です」
目線を逸らされたまま自己紹介された。
第一印象は、なんとも悪い。
「中学一緒なんだ」
松本くんが、そう付け加えた。
「えっと、相葉くんも一緒にお昼食べる?」
先程の俺の誘いを流さずに、提案してくれる松本くんに感動する。
二宮くんは、なんともつまらなそうな顔をしたけど
俺は、一緒に中庭に付いて行った。
最初印象が悪かったニノも、話していくうちに
面白い奴だということが分かった。
3人で放課後や休みの日に、遊ぶことが多くなって
俺の高校生活は、とても充実していた。
「お前、なにやってんだよ」
俺がバカなことをすると、ニノが笑いながらツッコんでくれる。
それを隣で笑う潤を見るだけで
もっと馬鹿なことをして、彼の笑顔を引き出したくなるのだ。
「潤って、付き合ってる人いんのかな?」
自分の気持ちが、抑えられなくなっていき
俺より彼を知っているニノに聞いてみた。
「さぁ・・・」
ニノは、携帯をいじりながら首を傾げる。
俺は深呼吸をした後、思い切ってニノにカミングアウトした。
「あの、さ・・俺が潤のこと好きだって言ったら、引いちゃう?」
自分と同じ男を好きになるということは
周りの人間からすると、驚くことだろう。
でも、いつも3人で一緒にいるから、ニノにも知ってほしかった。
ニノは携帯を閉じて、口元を上げる。
「引かない。だって俺、松本のこと抱いてるもん」
「え?」
ニノの言葉が一瞬、理解出来なかった。
「中学の時から、あいつとヤッてるよ。
相葉さんもヤラせてもらえば?」
「う・・そでしょ」
「じゃぁ、明日俺ンチに松本呼ぶからさ、相葉さん見れば?」
ニノは、また俺をからかっているんだ。
いつもそうだ。
その冗談は笑えないけど、明日俺が現れたら
潤と一緒に「引っかかった」って笑うんだ。
俺は少しムッとするかもしれないけど、「あぁ、なんだ。やっぱりな」って
安心できるはずだ。
「遅いよ、相葉さん。俺、先に入れちゃうとこだった」
ドアを開けると、ベッドには裸の潤が
ニノにお尻を向けていた。
「ほら、相葉さん。ちょうど緩くなってるからさ」
ニノの声が遠くに聞こえる。
逃げたい。
そう思って、足を後ろに引いた瞬間
潤の白い太ももに、白い液が伝ったのを見て
あまりの厭らしさに
俺の理性が、音を立てて崩れた。
俺は、いつの間にか潤の細い腰を掴み
「潤・・入れるよ?」
そんなことを呟いて、今にも破裂しそうなほどの自分のものを
潤の中に射れる。
「うっあっ!あっ、あっ」
聞いたことのない甘い声で叫んだ潤に、俺はイキかけるのを
腹に力を入れて堪えた。
「うわっ・・きつ」
「あっ!うっ・・んん・・ッ」
俺が動く度に、潤が気持ちよさそうに声をあげるから
俺はすっかり優越感に浸ってしまった。
彼を、自分のものに出来た。
そんな馬鹿な勘違いを、してしまった。
それから俺は
更に馬鹿になったように、潤を求めてしまうようになる。
いつも3人で遊ぶのに、抜け駆けをしては
潤の家に行ったり、俺に家に潤を引き連れて
キスをし、ベッドに押し倒して
セックスをする。
「相葉ちゃんて、キス好きだね」
長く繰り返すキスの合間に、潤が息を切らせながら呟いた。
「うん・・好き。だからもっとしよ?」
早く、潤を好きだと言えばいいのに
大事なことは、いつも後回し。
俺は目の前の潤の赤い唇に、噛みついた。
気持ちいいのは、セックスの最中だけで
終わるといつも、虚しくなる。
俺とセックスしてくれるけど
潤は、ニノともしている。
もしかしたら、俺の知らない奴ともしているかもしれない。
「ニノは、なんで潤とエッチしてんの?」
いつもは避けていた会話を、正面切ってしてみる。
「あいつが、ヤラせてくれるから」
「好きなの?潤のこと」
「馬鹿じゃないの。お前」
ニノが冷たく言い放った。
でも、俺はそこまで馬鹿じゃない。
ニノの見つめる視線の先には、いつも潤がいる。
その顔は、見ている俺が切なくなるほどに
潤のことが好きで堪らないという目をしていた。
きっと、俺も潤をこんな目で見ているのだろう。
このままじゃダメだ。
ニノが潤に好きだと言う前に、俺が言いたい。
クリスマスイブという特別な日に、想いを伝えることを決めた。
「お前さ、今更告白してどうすんの?
もうそんなの飛び越してさ、セックスしちゃってんじゃん。お前」
その決意をニノに伝えると、彼は悔しそうに鼻で笑う。
「俺だって・・・普通に告白してから、そういうことすればよかったけど。
あの時、ニノに流されなければよかった」
「は?俺のせいだって言いたいの?
あんたが欲望に負けただけでしょ」
そう言われると、なにも言い返せない。
結局はいつも欲望に負けてしまうのだから。
「じゃぁ、相葉ちゃんはこれ掻き混ぜてて」
潤が、居候している家でのクリスマスイブ。
大野さんもニノもいない、2人きりでの空間に緊張が増す。
潤に任されたスープをかき混ぜながら、横目で
野菜を刻む潤を見つめる。
「なに?」
俺の熱い視線に気づいたのか、潤が俺の方を向いた。
「な、んでもないよっ」
慌てて目線を鍋に移す。
好きだと伝えたいのに
俺は潤の横顔を見つめては
キスをして、抱きしめた後のことばかり考えてしまう。
「決めた!俺、初詣でお願いしてから、潤に告白する!」
結局、告白できなかった帰り道。
呆れた顔をするニノに、また誓いを立てた。
「なんかそのままズルズル行って、潤くんの誕生日とか、
最悪卒業式の日とかに、なっちゃうんじゃないの?」
「う・・・」
「まぁ、応援はできないけど、邪魔はしませんよ」
白い息を吐きながら、ニノは下を向いて口元を上げた。
「・・・ニノは?」
「俺?」
「ニノだって、好きでしょ。潤のこと」
また馬鹿にされるのを承知で言うと
ニノは、俺の方を向いた後
空を見上げた。
「俺は・・・もう少し経ったら言う」
「もう少しって、いつ?」
「素直に優しくできるようになったら・・・」
ニノの心境になにがあったか、知らないけど
変わろうとしている彼に
俺の心が「早くしなくちゃ」とざわつく。
『明日、潤の家に行っていい?』
お正月明け、初詣で告白が成功するように千円もお賽銭に入れた。
金欠の俺としては、本当に神に縋る思いだ。
ドキドキしながら、潤に電話をすると
あっさりと「いいよ」と返事が返ってきた。
明日、言おう。
今度こそ、言おう。
「大野さんは?」
「今、仕事部屋に籠ってるよ」
冬休みに入り、潤とはメールしていたものの
会うのはクリスマスイブの日以来だった。
潤の部屋に入れてもらい、俺は床に胡坐をかいて座る。
温かいお茶が入ったカップを、俺に渡し
潤も隣に座った。
「相葉ちゃんは、なにしてたの?」
「俺は、初詣行ったり、じいちゃんちにお年玉もらいに行ったりした。
潤は?」
「俺、釣り行った」
嬉しそうに笑った潤を見て、可愛いなと思う。
「へぇ!え?誰と?」
「智と。超朝早かったけど」
「釣れた?」
「うん!すげーでかいの釣れた!あ、写メ撮ったよ」
「見せて見せて」
潤が携帯を開いたので、俺はもっとそばに寄って携帯を覗きこんだ。
「海釣り行ったんだけどさ」
肩が触れ合って、潤の体温が伝わる。
嬉しそうに話す潤の言葉は、全く耳に入ってこないほど
俺の心臓の音がうるさかった。
「潤!」
「えっ」
潤の両肩を掴むと、俺の迫力に驚いた潤が後ろにバランスを崩した。
そのまま潤に覆いかぶさって、俺の影が潤の顔に映る。
「好きだ」
早くその言葉を言いたいのに。
潤の赤い唇を見つめると、その言葉を飲みこんで
キスがしたくてしょうがない。
ゆっくり潤の唇に近づくと、胸を押された。
「え・・」
「ご、めん。もうやめる」
潤が、目を伏せる。
長い睫毛が際立つ。
「もう、やめる。こういうことすんの」
「え、なんで・・・?」
潤の赤い唇が、動く。
「好きな人できた。だから、もう相葉ちゃんとはできない」
頭の片隅が、思考を停止したように
俺は固まってしまった。
「これからは、普通の友達に戻ろう」
数秒経った後、やっと思考が動き出した。
「戻れないよ・・・」
声を振り絞って呟いた。
「もう、戻れない」
最初は、一番の友達になりたかった。
でも欲が増して、特別な存在になりたかった。
俺の言葉に、潤はひどく傷ついた顔をした。
君の笑顔が、可愛くて大好きだ。
その笑顔を、俺のものにしたい。
俺だけのものに
したかったのに。
「だって・・・俺は、潤のことが好きなんだよ?」
潤の顔に、俺の目から出た水滴が
ボタボタと落ちる。
潤は、その涙を拭き取らないまま
「ごめん・・・」
ただその言葉を繰り返した。