「やっと電話出た」

 

 

 

 

 

その笑顔を

僕のものにしたい。

Vol.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロスに一人で暮らすようになって、半月が経つ。

日本で離れて暮らす弟に、毎日電話を掛けていたが

出てくれなかった。

仕事の休憩中、日本は夜の9時くらいだろうと思い

また電話を掛けてみると、何度目かのコールの後

やっと電話が通じて、俺は胸を撫で下ろす。

 

 

 

『・・どうしたの?』

電話は出てくれたけど、声はまだ不機嫌のままだった。

「毎日掛けてたのに、なんで出てくんないんだよ」

苦笑いをしながら問い詰めると

『だって・・・』

電話の向こう側で、唇を尖らせてるであろう弟が想像できて

心が和む。

「まだ拗ねてんの?」

『だって、俺も翔くんと一緒にロスに行きたかった』

「俺だって、潤と暮らしたいけどさ」

この議論は、何度もやった。

「英語ができないのに、俺しか頼る人間がいない生活は

 大変だってわかるだろ?

 智くんの家からなら、高校も変わらない距離だし・・・」

『・・・』

「なぁ、潤。俺も寂しいよ」

『ほんと?』

「高校卒業したら、日本で一人暮らしするか

 俺のとこに来てもいいよ」

『ほんとに!?』

久しぶりに潤の声が明るくなった。

「うん。だから、卒業するまでは智くんに迷惑かけないように

 そっちで頑張れよ」

『わかった』

「おやすみ」

『うん。あっ、翔くん仕事頑張ってね』

「了解。じゃな」

電話を切って、緩んだ顔を引き締める。

 

 

 

 

 

 

俺が15歳のとき、母が過労で倒れ肺炎を患って亡くなった。

そのとき8つ下の弟の潤は、まだ7歳だった。

親戚一同が集まって、会議が行われた。

 

誰が引き取るのか。

2人一遍は無理だとか。

母さんが残したお金は、どう分配するんだとか。

 

子供の俺達に意見する権限はなくて

俺と潤は、親戚の家にバラバラに引き取られた。

家も離れていたものだから、潤とは電話でしか話す機会はなかった。

その電話も、お互い親戚の家に遠慮して一年に数回しか出来なかった。

俺は、高校を卒業したら働いて

潤を引き取ろうとしたが、高卒の給料で幼い潤を育てるなんて無理な話だった。

奨学金で大学まで行って、頑張って大手の会社に入ることが出来た。

22歳になり、アパートを借りて潤に電話した。

 

「まだ安月給だから、ビンボー生活だけど

 俺と一緒に暮らすか?」

 

潤は、即答で「うん」と元気よく答えた。

飛行機を使って、潤を親戚の家に迎えに行くと

俺の到着を待ち望んでいた潤が、冬だというのに

コートも羽織らずに外で待っていた。

 

「翔くんっ」

 

久しぶりに会った潤は、14歳。

7歳の頃の甘えただった潤は、その頃のまま

俺の胸に飛び込んできた。

 

「お前、中2だろ?恥ずかしくないの?」

 

意地悪く言って、背中を撫でてやると

「7年間会わなかったぶん、甘える!」

そう笑顔で言った潤を見て、迎えに来てよかったと思った。

潤を育ててくれた親戚に挨拶をすると

「まだ若いのに苦労することない」

「潤を置いていけ」

「ちゃんとお前が育てられるのか」

否定的なことばかり言われたが、俺は潤と一緒に東京で暮らし始めた。

 

 

潤が、奨学金で今の高校に通い

俺の社会人生活も、だんだんと板についてきた所で

恐れていた海外転勤になってしまった。

 

 

まだ3年しか一緒に暮らしてなかったのに

また離れて暮らすことに、潤は泣いた。

俺だって、辛い。

寝る間も惜しんで勉強して、大学を卒業して

給料が安定しているこの会社に入ったのも

全部、潤と暮らして行くためだった。

 

 

「潤、2年くらいで日本に戻って来れるからさ。

 親戚のおじさんには、俺から話しておくよ」

「やだ!行きたくない・・・」

「でも、お前を連れてロスに行けないし・・・一人暮らしなんて無理だよ」

「やだ・・・翔くん」

あまりに泣くので、信用ができて東京に暮らしている友人の

大野智にお願いした。

 

 

 

 

 

「潤、機嫌直せよ」

智くんの家に向かう途中、タクシーの中。

後部座席に並んで座っているのに、会話はない。

潤は、ずっと窓の外を見ていた。

 

「毎日さ、電話するし。

 無理なときは、メールする。

 お前の誕生日には、夏休み利用して戻ってくるよ」

 

 

 

遠距離恋愛でもする恋人に向かって言う台詞みたいだ。

 

 

「・・・いいよ。別に」

 

 

そっぽを向かれたまま、小声で言われて

俺は、なにも言えなくなってしまった。

 

 

 

なんだよ。

俺だって、お前を置いて行くのがどんなに寂しくて辛いか

お前分かってないよ。

 

 

 

拳を握りしめて、俺も潤とは反対方向の窓の外を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「潤?今、なにしてる?」

潤が、電話に出てくれるようになって

俺は合間を見ては、短くてもいいから電話をかけた。

国際電話で高くつくことは分かっているが

日常で趣味もないし、お金を使うのはここくらいだから

気にせずに電話をかける。

朝、通勤途中に電話をかけた。

日本はちょうど夕方くらいで、潤も学校が終わって帰った頃だろう。

 

 

 

『今、友達・・来てる』

 

 

 

電話の向こう側で、少し元気がない潤の声と

遠くで音楽が流れている。

「あ、そうなんだ。俺が知ってる子?

 智くんに、ちゃんと了承取ったか?」

『ニノが来てる・・・うん。いいよって言われた』

「あぁ、ニノね」

ニノとは、潤と中学時代からの友達で

俺と潤の暮らしていたアパートに、何回か遊びに来た。

顔を合わせただけで、あまり話したことがないが

高校も一緒のところに行ったから、仲良くしているのだろう。

潤は、人見知りだからニノが一緒なら安心だ。

「あのさ、三者面談とか智くんにお願いするの悪いから

 俺が担任の先生に、電話で話しとくから」

『・・・』

「潤?聞いてる?」

『ぅ・・あっ!』

 

 

 

 

ブツッ!

 

 

ツーツーツー

 

 

 

 

いきなり電話を切られた。

焦ったような潤の声に、少し心配になったが

友達となんかふざけてて、物でも落としたのかな。

腕時計を見ると、遅刻ギリギリだったので

携帯を仕舞って、走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニノ・・・携帯返してよ」

「相変わらずブラコンだな」

ニノは、俺の携帯の電源を切って

床に散らばった服の上に、投げた。

「電話してても、よかったのに」

「こんなときに・・してらんないよ」

「こんなとき?」

「・・・」

俺が言葉に詰まると、ニノは可笑しそうに口元を上げて

「あぁ、俺に突っ込まれて善がってるとき?」

俺の中に入っていたニノのモノが

グッと奥に進み。

「あっ・・!はっ・・ん・・」

「いいじゃん。翔さんに聞いてもらおうよ。

 可愛い弟の喘ぎ声」

俺が、こんなことしてるなんて知ったら

ショックを受けるに決まってる。

大野さんに知れて、この家を追い出されたら

どうしよう。

 

 

 

ぐるぐる考えていても

もう、どうしようもない。

俺が真剣に考えたとしても

ニノは、俺にいつも冷たいし

翔くんと一緒に暮らせるわけじゃないし・・・

 

 

 

 

 

いつから、こんなに諦めやすくなってしまったんだろう。

無駄だって分かってしまったからだ。

 

 

 

 

「あっ・・・」

 

 

 

考えると、暗いことばかり思い出す。

今、気持ちいいならいいや。

 

 

ニノの首に両手を回すと、優しくキスされた。

いつも冷たいニノと

こういうときに優しいニノ。

どっちが本当のニノなのか、俺はいつもわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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