「今度は、なにを描くんですか?」
Beautiful World
NO.9
大野さんの自室は、一階の一番奥にある。
日があまり当たらず、夏でも風が入ってくると涼しい。
襖を叩いて、部屋に入ると
大きくて真っ白な紙の前で、大野さんが頭にタオルを巻きながら
絵を書いていた。
紙の隣には、たくさんの花が花瓶にささって
並べられている。
「ん〜・・うちの庭に咲いてる花」
「へぇ」
この前、銭湯の壁に描いたのは黒い墨で描いた
龍と滝。
女湯の方には、カラフルな熱帯魚をたくさん描いていた。
想像とリアル。
写真で得た造形と、身近で見る庭の花。
彼の頭は、めまぐるしく色鮮やかな妄想でいっぱいなのだろうか。
「俺、なに手伝ったらいいですか?」
朝ごはんを食べ終えると、夕方まで大野さんの手伝いをするのが
日課になっていた。
これから、潤くんと2人で暮らしていくために
俺の通帳に残っていたお金を、使うことが恐くて
無理だと思いながらも、大野さんに
「なんでもやるから、ここに置いてくれ」と、頼んだ。
潤くんと。ここまで逃げて来た経緯を話すと
大野さんは、嫌悪感を示すわけでもなく
変な野次馬精神を、出すわけでもなく
ただ、昨日の晩御飯を聞いたときみたいな
普通の反応で
「そういう理由なら、いくらでも居て良いよ。
飯も、豪華なもんはないけど、うまいもんなら出してあげる」
そう言ってくれた。
それに甘えて、ただ飯を食わせてもらい
服も借りて、部屋まで用意してくれた。
お人好しすぎて、逆に心配になる。
いつか、この人詐欺にでも遭っちゃうんじゃないかと。
「今日は、なんも手伝うことないから、好きな事してなよ」
「・・・ありがとうございます」
集中しているのか、空気がピリピリとしている。
静かに襖を閉めて、潤くんを探す。
台所で、朝使った食器を洗っている潤くんを見つけた。
「潤くん」
「あ、カズ。今日は智と、どこ行くの?」
「なんか今日は、一人で絵描いてるみたい。
潤くんは、なにすんの?」
「俺は、翔くんと相葉くんとアート巡りしようってことになってる」
「俺も行こうかな」
潤くんが洗った食器を受け取って、近くに置いてあった
布きんで水分を拭きとって、食器棚に並べた。
「あれ、今日智くんは?」
「今日は、手伝わなくていいって言われました」
「じゃぁ、一緒にアート巡る!?」
潤と一緒に玄関に来たカズを誘うと、隣でカメラを弄っていた翔ちゃんが
「アート巡りは、俺と相葉で行くからさ。
たまには、2人で過ごしたらいいんじゃないの?」
「えー、みんなで行こうよ」
俺がそう言うと、2人から見えない角度から
翔ちゃんが俺の背中を叩いた。
潤とカズは、お互いの顔を見合わせて
「じゃぁ・・そうする?潤くん」
「うん」
「じゃぁ、相葉ちゃん行こっか」
翔ちゃんに、肩を組まれて家を出た。
「なにさっきのー」
「なんだよ」
「みんなで行ったらいいじゃん!俺、カズとあんま遊べてないし」
「バカ。お前、空気読めよ」
お互いの顔を見つめ合っていたカズと潤を、思い出して
「やっぱ付き合ってんの?あの2人」
そう尋ねると、翔ちゃんは「お前って相変わらず直球だな」と苦笑いを返した。
「だって、別に悪い事じゃないじゃん」
俺が言い切ると、翔ちゃんはまた笑って
「お前らしいね」
安心した顔で、そう言った。
「潤くん、どこ行くの?」
「佐野さんに、良いとこ教えてもらった」
嬉しそうに、先を急ぐ潤くんの手を握ると
潤くんは、辺りを見渡す。
「大丈夫ですよ。誰もいないから」
「それもあるけど・・」
「けど?」
「暑いから汗かいたら、はずい」
「潤くんて、可愛いよね」
潤くんの反応は、いつも初々しくて
こちらも照れくさくなる。
手を繋いだまま、ぶらぶら前後に大げさに振ると
潤くんは、恥ずかしそうに「あっち」と言って俺の手を引く。
「おぉ〜すごいね」
一面にラベンダー畑が続く。
「ここ、佐野さんの土地らしいんだけど、手入れもあんまりしてないのに
毎年、綺麗に咲くんだって」
「匂いもすごいね」
一面、紫の花が少しの風に匂いを含ませる。
「佐野さんから、好きに取っていいって言われた」
「へぇ、じゃぁ大野さん喜ぶかも。
今日、花の絵描いてたから」
「ほんと?じゃぁ、綺麗なやつ探そう」
「どれも同じに見えるよ。潤くん」
「ちげーよ!ほら、まだ蕾のやつとかあんじゃん」
「え〜?」
ラベンダーの中に、潤くんが入って行く。
育ち切ったラベンダーは、俺の腰まで背があった。
真剣にラベンダーを選んでいる潤くんに
構ってもらえなくなった俺は、その場にしゃがみ込む。
「あれ、カズ?」
潤くんが俺を探す声が聞こえて、しゃがんだまま片手を上げた。
「なに、貧血?」
ラベンダーを掻きわけて、俺の前にしゃがんだ潤くんに
「俺、気付いちゃった。ここに来てから、潤くんとイチャついてないなって」
潤くんは、首を横に傾げて
「そう?」
「ということで、チューしましょう。潤くん」
「え、ここで?」
「大丈夫ですよ、しゃがんでれば誰にも見られませんから」
ね、と言って顔を近付けると
潤くんは、目線をきょろきょろさせた後
覚悟したのか、目を瞑った。
潤くんの頬に両手を添えて、キスをする。
ラベンダーの香りが、頭に回って
クラクラしそうだ。
「ん・・」
ちゅ、と音を立てて唇を離す。
「・・・だめだ。ちょっと、我慢できなくなるから」
情けなく笑って、潤くんから顔を逸らし
立ち上がると、潤くんは俺の服の裾を握る。
「我慢してたの?」
「そりゃ・・他人様の家だし。潤くん体調崩してたし」
「・・・する?」
「えっ、ここで?」
「バカ。しねーよ」
「えぇ・・でも、潤くん声出しちゃうよ。きっと」
「俺、そんな声でかい?」
「うー、うん!」
迷って、素直に頷くと、潤くんは耳まで顔を赤くして立ち上がった。
「智に持ってかなきゃ」
耳まで赤くした潤くんの背中にくっついて
「潤くん、これいいんじゃない?」
形の綺麗なラベンダーを一緒に選んだ。
夕飯を食べ終わり、みんなでテレビを見て
時間が経つにつれて、一人一人、各自の部屋に戻って行く。
俺は、ソファを背もたれにして床に座り
さして、興味のないテレビを見ていたら
風呂から上がった潤が、やってきた。
「面白いテレビやってる?」
「んーん。別に。あ、今日ラベンダーありがと」
「描けた?」
「まだ色付けてない」
「あ!そうだ、智さー」
言いながら、潤が一度居間を出て行く。
戻って来た時には、一枚の紙を持ってソファに座った。
「歌詞書いてみたんだけど、どう思う?」
「あ、書けたの?」
紙を受け取って目を通す。
「カズに見てもらえば?」
「なんか、恥ずかしくてさ」
「でも、曲付けてもらうんでしょ?」
「ん〜・・」
潤は、眠そうな声を出しながらソファに横になった。
俺は、歌詞を読みながら
潤が、カズをどれほど大切に想っているのかを再確認するようで
切なくなった。
歌詞は、一番しか書かれていない。
「ね、潤。これ2番は・・」
振り返ると、潤は俺の方を向いて目を瞑っていた。
「潤?」
小さい寝息が聞こえる。
潤の髪から、シャンプーのいい匂いがする。
ラベンダーの綺麗な紫を思い出した。
そっと、手を伸ばして
頭を撫でる。
形の綺麗な頭。
艶のある髪は、撫でているこちらが心地よいほどだ。
指を滑らせて、潤の頬を触る。
白いな。
唇に人差し指を軽く触れさせると、その弾力に指が押し返された。
赤。
やわらかくて
温かい。
「なにやってるんですか」
その声に、肩が震えて潤の唇から指を離す。
「あ」
カズが、立っていた。
すごく恐い顔をして、立っていた。
「潤、寝ちゃった」
そう言うと、カズは何も言わずにそばに来て
潤の身体を揺さぶった。
「潤くん、起きて」
少し強めの口調で言うと、潤は、目を開ける。
寝ぼけている潤の腕を取って
「大野さん、おやすみなさい」
そう言って、カズは居間を出ていった。
見られてはいけないものを、見られてしまったかもしれない。
潤に渡された紙をポケットに仕舞って
テレビを消し、自分の部屋に戻って絵を描くことに専念した。
敷いてある布団に、横になった潤くんの上に覆い被さる。
「カズ・・?」
潤くんは眠そうな目で、俺を見つめた。
「しましょ。潤くん」
「でも」
「タオル噛んでれば、聞こえないよ」
潤くんがなにか言う前に、唇を塞ぐ。
「んっんっ」
潤くんの舌を吸いながら、Tシャツに手を入れる。
わき腹を摩ると、潤くんが擽ったそうに身を捩った。
熱い舌を絡めると、潤くんの手が俺の首に回って来て安心する。
胸を撫でた後、主張している小さな突起を指で摘まむと
ピクッと、潤くんが反応した。
唇を離して、近くにあったタオルを潤くんの口に噛ませる。
部屋の電気を消して、着ていたTシャツを脱いだ俺を
潤くんは潤んだ瞳で、見つめる。
潤くんのTシャツも、首まで捲って
胸の突起を口に含むと、また潤くんは身体を震わせた。
舌で転がしたり、甘噛みしたあと
舌をそのまま滑らせて、潤くんのズボンに手を掛ける。
下着ごとズボンを脱がすと、すでに潤くんのものは
半分起ちあがっていた。
それを遠慮なしに口に含むと、潤くんは俺の髪の毛を掴んだ。
嫌というわけじゃない。
気持ちいい顔をしている潤くんを見ながら、先端を舐めると
白い液が出てくる。
「ふ・・ッ・・ん・・」
タオルを噛んでるとはいえ、小さい声が洩れている。
それだけで興奮する。
潤くんのものから、溢れだしてくる液を指に絡めて
彼の後ろの入り口に指を入れて。
閉じていたそこに、指を入れると
潤くんは、頭を横に振る。
久しぶりで、痛いのかな、そう思って
潤くんの足の間に顔を埋めると舌を出すと、髪の毛を引っ張られた。
「いたっ」
思わず顔を上げると、潤くんはタオルを口から外し
「も、いいよ・・・入るから、射れて」
「あんまり濡れてないから、痛いよ?」
「いい。早く」
潤くんも、限界が近かったのだろう。
「わかった」
また潤くんの口に、タオルを入れて
彼の足を開く。
俺のモノを、潤くんの入り口に付けると
潤くんは、小さく頷いた。
潤くんの腰が逃げないように、手で支えながら
身体を前に進める。
「ん・・!!」
押し戻されそうになるのを堪えて、前に進むと
潤くんが切なげに眉を顰めて、俺に抱きついた。
俺も潤くんの首に顔を埋めて、密着し腰を動かす。
潤くんの中は、いつも熱い。
それだけで、腰が溶けそうになるほど気持ちいい。
「ッ・・んっ・・ん・・」
罰あたりかな。
恩人の大野さんの家で、潤くんを抱くなんて。
潤くんの口のタオルを外し、キスをする。
「ん!ふぅ・・ん・・」
舌が絡み合う。
潤くんの顔に、俺の汗が落ちて
まるで潤くんが流した涙のように、頬を流れて行く。
「じゅ、くん・・好きだよ」
そう呟いて、潤くんの中に出した。
目が覚めたとき、腰のだるさに起きるのが精いっぱいだった。
時計を見ると、そろそろ智と朝ごはんを作る時間だ。
隣で裸のまま眠っているカズに、布団を掛けてやり
近くに落ちていた服を着る。
畳みの上に、カズのギターが出しっぱなしになっているのを見て
カズが寝ぼけて踏んでしまわないように、ケースに仕舞う事にした。
ギターケースを開けると
中には、一枚の小さな紙が入っていた。
手に取ると、それは名刺で、
俺でも知っている有名な音楽事務所のものだった。
カズの寝顔を見て、俺の心はざわつく。
その名刺を元の位置に戻して、ギターを仕舞った。
現実を、考えなくていけない。