夏っていいなぁ。

一番好きだな。夏。

暑いけど、楽しいことがたくさんある。

 

 

 

 

 

Beautiful World

NO.3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開けっぱなしの窓から、蝉の声がする。

布団に寝転がったまま、大きく伸びをして目を擦る。

2度寝しようかなと、思ったけど

一日がもったいない気がして、勢いよく身体を起き上がらせた。

 

 

階段を駆け下りて、居間の襖を開ける。

「智くん、おはよ〜」

「はい。おはようございます」

「えっ!あれ!?どなたですか!?」

 

知らないおじいちゃんが、居間の縁側に腰掛けていた。

思わず、尋ねてしまうと

「君は、大野先生のお友達かい?」

ニコニコ笑顔で聞かれて、「はいっ」と何回も頷く。

「あ、佐野さん。おはようございます。相葉ちゃんも早いね」

両手にトマトを持った智くんが、外から顔を出す。

佐野さんと呼ばれたおじいちゃんは、「じゃぁ、今日もよろしくお願いします」

なんて言って立ち上がり、庭の方に歩いて行った。

 

 

「誰?」

智くんに小声で聞くと

「佐野さんは、近所のおじいちゃん。

 つっても、まだ65?いや、64?くらいだけど。

 オイラの家の中にある作品を、監視してくれてる」

「監視?」

「一応、アート巡りしたい人は町の案内所で観覧料を払うのね。

 払った人は、腕に専用のブレスレットしてんだけど

 それを目印に、佐野さんがお客さんを入れてくれんの」

「へぇ。佐野さんは、ボランティア?」

「いんや、ちゃんと市からお金もらってるよ。

 この町は、海あるけど捕れるもんが少ないし

 工場もないから、働くとこないんだよ」

「じゃぁ、智くんがここに来て良かったね」

俺が感心しながら言うと、智くんは照れた笑顔を見せた。

玄関の方が、騒がしくなる。

朝も早いのに観光客が来たようだ。

佐野さんが声を掛けて、家の中に通している。

閉じた襖の向こう側から、歩く床の軋む音がして

奥の広間に入る音が聞こえた。

「あっちに、アートが展示してあるんだっけ?」

「そ」

「自分の暮らしている家に、観光客が来るってなんかすごいね」

「でも、嬉しいよ。でっかいイベントホールで、個展とかしてた時は

 お客さんの反応なんか、よくわかんなかったし」

広間の方から「すごい」「綺麗」などと興奮している声が聞こえて

智くんの口元が、嬉しそうに上がった。

 

 

「あ」

 

 

智くんの後ろから、両手にトウモロコシを抱えた潤くんがやってきた。

台風の中、助けたあの日以来

会うのは初めてだった。

 

 

「おはよ!早いね」

 

 

俺がそう言うと、声の大きさに驚いたのか

潤くんの肩が少し跳ねた。

「あっ!そういえば、俺の名前知ってるんだっけ?

 相葉雅紀です。よろしくね」

「あっ・・どうも」

「潤、足洗ってきた?」

「うん」

ズボンを膝近くまで折って

サンダルを履いた潤くんの足は、なぜかビショビショに濡れている。

「どうしたの?」

「畑に入ったら、泥濘にはまっちゃったの」

智くんは、楽しそうに話しながらビーチサンダルを脱いで

縁側から家の中に上がる。

「ここ座ってさ、トウモロコシの皮剥いてくんない?」

「う、ん。わかった」

「俺も、やろっか?」

潤くんの隣に座って、10本近くあるトウモロコシの一本に手を掛ける。

「じゃぁ、オイラは朝飯作ってるわ」

そう言って、智くんは台所に向かった。

2人きりになって、潤くんはなんだか不安そうな顔で皮をむき始める。

 

 

人見知りなのかな?

 

 

「サンダル脱げば?」

「え・・」

「脱いでさ、こう、振ってさ!そしたら、早く乾くよ」

話しながら、自分の足を上下に振って見せる。

潤くんは口元を少し上げて、サンダルを脱いだ。

「こう?」

「もっと振って!」

「え、無理。疲れる」

「え〜俺より若いでしょぉ?」

クスクス笑う潤くんに、安心する。

 

 

出会ったときの彼は、

なにもない道端に座り込んで、雨に打たれていた。

なんだか、生きてるのに体温がないような

笑顔なんて、知らないような顔をしてたから。

 

 

「ね、潤くんさ。今日一緒に川で遊ばない?」

「川?」

「小さい滝があるんだって!みんなで行こうよ」

 

 

 

 

「潤くんっ!」

 

 

 

派手な足音と共に、二宮くんが青ざめた顔してやってきた。

 

 

 

「カズ?おはよ」

 

 

 

二宮くんは、呑気にトオモロコシの皮を向いている俺と潤くんを見て

力が抜けたのか、その場にじゃがみこんだ。

「起きたら隣にいないから・・どっか行っちゃったのかと思いました」

「ねぇ、カズ。今日さ、相葉くん達と川行こうよ」

「え?」

二宮くんと目が合う。

「滝あるんだって。俺見たい」

潤くんが嬉しそうに言うと、二宮くんは口元を上げながら軽く頷いて

「楽しみだね」

そう答えた。

 

 

優しいな。

 

この2人の関係は、なんだろう。

友達とも見えるけど、男友達のようなガサツさは

この2人の間に感じない。

二宮くんが、潤くんを守っているように見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ!冷たっ!!」

午後。

山道を進んだ先に、小さな滝つきの川が現れた。

相葉ちゃんに「二宮くんと潤くんも一緒」と聞いて

俺は正直、気乗りしなかった。

なんで、名前しか分かんない奴らと、仲良くしなければいけないのか。

相葉ちゃんも智くんも、警戒心がなさすぎる。

Tシャツを脱いだ相葉ちゃんが、一目散に川の中に入って悲鳴をあげた。

「山の水は、冷てーから」

呑気に笑っている智くんに「早く言ってよ!」と叫ぶ。

「みんなも早くっ!」

手招きする相葉ちゃんに、俺は渋々Tシャツを脱いで、岩の上に置いた。

「あれ、智くんは泳がないの?」

釣りの準備をしている智くんに尋ねると

「オイラは、今日の夕飯釣る!」

嬉しそうに、針に獲物を付け始めた。

「潤くん、泳ぐ?」

上着を脱ぎながら、二宮は松本潤に尋ねる。

松本潤は、少し黙った後に

「俺、今日はやめとく。智と一緒に、魚見てるよ」

いつの間にか、智くんのことを呼び捨てで呼んでいて驚いた。

そういえば、今日俺が起きたときには

2人で台所に並んで、食器を洗っていた。

「じゃぁ、俺も・・」

「いいよ。カズ泳いで来なよ。暑いでしょ?」

「・・・そう?」

「うん」

 

 

2人の間に、優しい空気が流れる。

お互いがお互いを想い合っているのが、第3者の俺でも分かった。

 

 

「翔ちゃーん!」

相葉ちゃんに呼ばれて、俺は川の中に入った。

続いて、二宮も川に入る。

滝の近くに行くと、足が付かないほど深く水が溜まっていた。

「あっ!二宮くん、滝あるよ!」

「え、打たれて来いってことですか?」

相葉ちゃんが言うと、二宮は苦笑いを返す。

「違うけど!面白そう!やろやろ」

「はー!?やめろよ、相葉ちゃん」

「翔ちゃんも、ほら!」

「ぜってーやだ!!」

「相葉さんが、行けばいいじゃないですか」

「そうだよっ!お前が行けよ!」

二宮の言葉に、俺も乗っかる。

「じゃんけん!じゃんけんしよっ!」

「言い出しっぺが、負けますよ。こういうとき」

「ははっ!」

結局相葉ちゃんが本当に負けて、滝に打たれる様を

俺は、ついさっきまで警戒していた二宮と笑いながら川を泳いだ。

なんだか、夏休みに知らない土地の子供とすぐに仲良くなったことを

思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が落ちて、夜になる。

電灯も少ないこの町は、夜になると真っ暗だ。

智くんが釣った魚を持って、浜辺で焚き火を起こす。

「お腹減ったね〜」

たくさん捕れた魚を、智くんが串に刺して火に近付ける。

「なんか、ゲームでもする?」

魚が焼けるまで、なにをするかで相葉ちゃんが考え始めた。

 

 

「カズ、ギター弾けば?」

 

 

突然、おとなしかった松本潤が口を開く。

「あ!そういえばカズ、ギターケース持ってきてたよね!やっぱ弾けるんだ」

川遊びで距離を縮めたのか

相葉ちゃんは、自然に二宮を下の名前で呼ぶ。

俺も、最初会ったときより「二宮は、いい奴かもしれない」なんて

警戒心が溶け始めてきたが、まだ素性が分からないので

下の名前で、呼ぶことはしない。

「いや・・そんな、下手なんで」

「俺、持ってくるよ!」

片手を上げた相葉ちゃんが、二宮の了承もなしに家に向かって走り出した。

困った顔で相葉ちゃんの背中を見つめる二宮に、松本潤が

「久々に、俺が聞きたいんだよ」

そう言って、口元を上げる松本潤に

二宮は気まずそうな笑顔を返して、「頑張ります」と呟いた。

「持ってきたよー!」

「早いですね・・」

息を切らせながら相葉ちゃんが二宮に、ギターケースを渡した。

二宮は、ゆっくりとケースを開いて

ギターを手に持つ。

なんだか、愛おしそうな目でギターを触り

弦を調整した後

 

 

「じゃぁ・・」

 

 

すぅ、と息を吸い込んだ。

 

 

 

 

 

海の音と、薪が焼けるパチパチした音が俺の耳に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高校時代、仲のいい友人達が

バンドを結成するからと言って、誘われたことがある。

「翔、ピアノ習ってたろ?キーボートとかやってよ」

小さい頃から親に無理やり習わせられていたピアノは、人並みに弾けるが

弾いていても楽しくなかったし、俺より後に始めた奴の方が上手になっていくのを見て

 

 

「俺には、ピアノの才能はない」

 

 

そう思って辞めた。

そんな俺が、高校からいきなり開花するとも思えなくて、バンドの参加を断った。

文化祭などで、彼らが演奏しているのを見ても

彼らには、その才能がないということが一瞬で分かって

とても冷めた記憶を思い出した。

あんなに放課後、休日、練習していても、才能と言えるまでの実力はついていなかった。

 

 

 

 

 

今、俺の目の前にいる二宮という人間は

才能がある奴だ。

 

 

 

 

 

 

 

彼が弾くギターの音は、なぜか心を締め付けるほど重く

彼の声は、耳に心地いい程温かいのに

どこか寂しくなるのは、歌っている彼の顔が切なそうだからだと思った。

 

 

 

 

 

歌い終わると、みんなが拍手をした。

俺も少し遅れて手を叩く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜カズすごいね。俺、感動しちゃった!

 今の曲、自分で作ったの?」

「はい。まぁ・・」

「うわー!すげー!」

「カズさぁ、この町イメージした曲、作ってよ」

智くんが言うと、二宮は「えっ」と声を上げる。

「いいねぇ!じゃぁさ、町の景色をカメラで撮ってさ

 動画サイトに載せようよ!そんでBGMとして、カズの曲くっつければ」

「おー、いいかも。それ」

智くんが喜ぶと、相葉ちゃんもテンションが上がり

「翔ちゃん、ビデオカメラ持ってきたよね!?」

「え?あぁ・・うん。あるけど」

「じゃぁ、翔ちゃんがカメラマン兼監督で」

「は!?」

「だって、俺がカメラ撮ると手ぶれするよ?」

「お前・・」

最初から、俺に任せる魂胆か。

「じゃぁ、カズも曲よろしくね!」

「・・わかりました。あ、でも期待しないでくださいね?」

「いいなぁ、曲作れるなんて。ね!翔ちゃん」

相葉ちゃんに、話を振られて

「あぁ。羨ましいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さい頃から、色々なスポーツをやった。

勉強だって、頑張って来た。

音楽も小説を読むのも、食べることも好きなのに

俺には、才能がないから

それを職業に出来ず

才能がある奴に、嫉妬するしか出来ないのだ。

 

 

 

 

 

 

平均的に全てのことを、努力でやれても

才能がある奴が、すぐ俺を追い抜いて行く。

 

 

 

 

 

 

小さい頃から、同じ家の中にいた兄は

才能の塊のような人で

兄のことが大好きなのに

彼を家から追い出してしまったのは

 

 

俺の嫉妬心からなのだ。

 

 

 

 

「お、魚焼けた」

火のオレンジ色が、智くんの顔を照らす。

なんだか、無性に「ごめん」と謝りたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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