「ここはね、町興しのために、一年前からアートの町を作ろうとしてんだよ」

 

 

 

 

 

 

Beautiful World

No.2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日の大雨が嘘だったかのように、晴れた午後。

畳みの上に脚立を置いて、天井に金具を刺してトンカチで叩いた。

「大野さんが、発案者なんですか?」

釘を刺す音に掻き消されないように、脚立を抑えているカズが声を張った。

「そ。旅行で来たとき、この町のんびりしてていいなぁって、思って。

 自然の中に作品残して、観光客が地図巡って見に来てくれんだよ」

天井に付けた金具に、そのワイヤーを通し終えて

脚立を下りる。

「・・・綺麗ですね」

「そう?ありがと」

ふふっと、笑うと目の下にクマを作ったカズも

釣られて口端を上げた。

 

 

 

住んでいる平屋の一階。

一番奥の20畳もある畳みの部屋の天井に

カラフルなガラスで作った魚を吊り下げた。

 

 

 

 

トビウオの大群は、淡いピンク。

大好きなホオジロザメは、濃い青。

エイは、黄色。

 

 

 

 

 

窓を開けて風を入れると、魚達は小さく揺れて

鈴の音が部屋に、響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「智くーん!今日の夕飯なに!?」

開けた窓から、サーフボードを持った水着姿の相葉ちゃんが見えた。

「カレー。めちゃくちゃ辛いやつ」

「マジ!?うわ〜テンション上がる」

走って窓の枠から、消えていった相葉ちゃんの後に

翔くんが、見えた。

こちらを横目で見た後、通り過ぎようとしたので

「翔くん、カレーの肉、なにがいい?」

そう尋ねると、足を止めてこちらを見つめる。

「・・・豚肉」

「わかった。いってらっしゃい」

「うん」

翔くんが見えなくなった後、隣にいるカズに

「翔くんは、いい子だよ。ちょっと心配性なんだよ」

そう言うと

「・・わかります。こんな得体の知れない俺が『おはようございます』って

 声を掛ければ『おはよう』って返してくれる人ですから」

「ははっ。翔くんらしいや」

「大野さんの本名って・・」

「あぁ、櫻井。翔くんはオイラの弟だよ。5つ下くらいか?」

「へぇ・・」

「似てない?でしょ?」

「あ・・あー・・はい」

「ははっ、翔くんかっこいいでしょ。

 オイラ達は、親の再婚で兄弟になったから。血は繋がってねーの」

「あ、じゃぁ大野っていうのは、旧姓なんですね」

「そ。母ちゃんの。オイラは、櫻井でもよかったんだけど・・・。

 まぁ、うん。翔くんのこと考えると・・・」

俺が言葉を途中で止めると、カズは不思議そうな顔で

続く言葉を待っていた。

 

 

「潤くん、熱下がった?」

「え・・あ・・そうですね。でも、まだ寝てます」

「潤くん元気になったら、この町のんびり歩いてみなよ」

カズは、不安そうな表情のまま頷いた。

 

 

 

 

翔くんと、歳が変わらないカズと潤くん。

この夏を、出来れば楽しく過ごして欲しいと思った。

そんな俺は、楽観的すぎるのかもしれない。

 

 

でも夏って、楽しくてキラキラしたもんだと

俺は思うから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「潤くん、おやすみ」

布団の上に寝たまま、夜になってしまった。

カズがそう言って、部屋の電気を消したあと

俺は、だるい身体を起こしてトイレに向かう。

 

 

 

 

チリン・・・チリン・・・

 

 

 

 

どこからか、風鈴の音が聞こえる。

その音に釣られて、廊下を進んで奥の部屋の襖を開けると

 

 

「・・うわ」

 

 

魚の形をしたガラス細工が、宙に浮いていた。

風鈴だと思っていた音は、魚が揺れている音だったのか。

 

 

「寝れねぇの?」

 

 

後ろに誰かが立っていて、驚いて振り返ると

この家の主が、柔らかい笑顔を俺に向けて立っていた。

「あ・・」

言葉に詰まっていると

「これ、どう?今日カズに手伝ってもらって吊るしたの」

その人は、襖を全開に開けて部屋の中に入る。

「綺麗・・だし、いい音・・です」

初対面の人と話すのは、苦手だ。

「よかった。あ、満月出てる」

手招きされて、遠慮気味に部屋に入り

その人の隣に立つと、雲一つない暗闇の空に

丸い月が大きく出ていた。

「あ・・の、色々とありがとうございました」

「ん?あぁ、全然」

「カズ・・から、聞きましたよね?俺達のこと。

 いいんですか?」

 

 

「いいんですか」と言うのは、色々な意味を含めた。

 

 

普通の奴なら、俺達がこの田舎町に来た理由を聞いて

家に泊めるのを嫌がりそうなものなのに。

ニコニコしているその人を見て、俺は

良い人なんだろうが、俺のことを同情してるんだろうなと思った。

 

 

「ん・・聞いた。大変だったね」

 

 

 

 

「大変だったね」

今まで何人にも、同じ言葉を言われた。

 

 

 

 

 

 

「・・・「大変」。簡単にみんな言うけど

 助けてくれる奴なんて、ごく僅かだ」

 

 

 

 

ぽつりと、心に思ったことを呟いてしまった。

その人は、驚いた顔をして

鈴の音しか聞こえなくなった空間に、居づらくなって

俺は彼に背中を向けて、部屋を出て行こうとすると

 

 

 

「潤くん、トオモロコシ好き?」

「え?」

「明日の朝、早く起きれたら一緒に採りに行こ」

「・・・」

「おやすみぃ」

 

 

その人は、また笑顔に戻った。

 

 

「おやすみ・・なさい」

 

 

 

 

 

部屋に戻って、カズが寝ている布団に寝転がると

「ん・・遅かったね」

カズが目を瞑ったまま、俺に薄い掛け布団を掛けた。

「俺の人生って、大変だよね」

カズの胸の中で呟くと

ぎゅっと、抱きしめられて耳元で

 

 

 

「これから楽しくなるよ。俺が潤くん、幸せにするんだから」

 

 

「・・・おやすみ」

 

 

 

 

 

 

遠くで、鈴の音が聞こえる。

カズの体温に触れて眠る夜は

いつまで続くことが出来るのだろうと、俺の胸を締め付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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