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土曜の夜。

仕事が終わって、家に帰るとすぐにチャイムが鳴った。

俺は、彼が戻って来てくれたのかと思い

急いでドアを開ける。

 

 

 

「あ・・・」

「翔ちゃん・・あの、昨日はごめんね?

 俺、ひどいこと言っちゃったから・・・」

 

 

ドアの前に立っていたのは、相葉ちゃんだった。

「入る?」

「うん」

相葉ちゃんを家の中に入れてから、外を見渡したけど

誰もいなかった。

 

 

「あれ?松潤は、帰っちゃったの?」

誰もいないリビングに、相葉ちゃんは辺りを見渡す。

「今日の朝・・ニノの家に行くって言って、出て行ったよ」

「え!?記憶戻ったの?」

「いや・・・戻ってないけど・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよ。米とパン、どっちがいい?」

松本を自分のベッドに寝かせ、俺はソファで一夜を過ごした。

もう寝間着から、洋服に着替えていた松本は

 

「翔くん・・俺、ニノのとこ行くね」

 

俺は、その言葉に心が痛くなる。

「なんで?俺のとこ居れば?あ、迷惑とか思ってるなら全然」

「早く、記憶戻したいから」

言葉の途中で、松本は強い意志を持って言った。

「・・・戻らなかったら?」

「え?」

「ニノのとこ行っても、戻らなかったらどうする?」

「・・・」

 

 

18歳の松本は、急に顔を暗くした。

 

 

「そしたら、俺のとこ戻ってこいよ?」

声は努めて明るく、冗談のように本音を言った。

「うん。また泊めてね」

松本は、俺の本心とは違う意味で受け取り、笑顔で頷いた。

「ねぇ、翔くん。ニノの家って、ここから近い?」

ニノと松本が住む家には、行ったことがないが

入院手続きをした書類の住所を、覚えていた。

「徒歩だと遠いから、俺が送ってやるよ」

「ほんと?ありがとう」

「朝飯食べてから、行こう」

「うん」

 

 

 

彼らのアパートの前で、松本を車から下ろした。

「じゃぁ、翔くん。仕事頑張ってね」

「あぁ・・」

バタン・・と車のドアが閉まり、松本はアパートの中に入って行った。

その後ろ姿に、俺は

あの日の松本の後ろ姿を、重ねて

下唇を噛む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「翔ちゃん?」

相葉ちゃんの声で、我に返る。

「あぁ・・ごめん。ちょっと、なんか・・ボーっとしてた」

ふっ、と笑うと、相葉ちゃんは悲しい顔をする。

俺は着ていたスーツの上着を、ハンガーに掛けて

冷蔵庫を開けた。

ビールを2つ取りだして、ソファに座っている相葉ちゃんに渡した。

「ありがと」

俺はネクタイを緩めて、相葉ちゃんの隣に腰掛ける。

ビールを一気に飲んだ俺を、相葉ちゃんは見た後

「俺さぁ、実家の中華屋継ぐって言って

 大学行かなかったじゃん?」

「・・うん」

「本当に継ぐ気だったんだけどさ、弟が同じタイミングで

 調理科がある高校に、行ったのね」

「へぇ・・」

今、相葉ちゃんの実家の店をやっているのは、弟さんだと聞いたことがある。

「弟が、キラキラした目で親父に言ってたんだよ。

 『俺が跡継ぐから安心してよ』って」

「・・・」

「そしたら、俺、言い出せなくなっちゃってさ〜。

 弟に頑張れよって、言っちゃって」

相葉ちゃんは、開けたビールを手に持ったまま

飲もうとしない。

「今になって思うよ。

 親父の嬉しそうな顔見ちゃうとさ、俺もあの時、名乗り出れば良かったって」

相葉ちゃんが、俺になにを伝えたいのかが

なんとなく、分かった。

「相葉ちゃん・・・後悔してんの?」

「そんなときもある。だけど、いつまでも落ち込んでんの

 俺っぽくないじゃん?今は、今で楽しいから、それで良かったって

 思うようにしたよ」

「・・・すげぇな」

「ねぇ、翔ちゃん。

 翔ちゃんが、一番後悔してることって、なに?」

 

 

 

 

相葉ちゃんの問いかけに、言葉が出てこなかった。

色々あるんだ。

色々あり過ぎて、いつまでも暗い中に閉じこもって出て来れなくなる。

 

 

 

 

「あっ、ニノだ」

相葉ちゃんは、震える携帯を持って、立ちあがった。

俺に気遣ってか、少し離れた所で携帯を耳に当てて会話している。

俺は、空になった缶を手で潰した。

「えっ!?ほんと!?」

相葉ちゃんの大きくなった声に、嫌な予感がした。

「うんうん。あ、俺・・今、翔ちゃんちいて」

電話が終わったのか、相葉ちゃんは俺の方を振り返った。

 

 

 

 

「松潤・・記憶戻ったって」

 

 

「・・・そう」

 

 

 

 

 

肩に、重たいものが圧し掛かった気がした。

そもそも、松本とあの頃にように一緒に映画を見たことが奇跡なのだ。

一瞬の奇跡に、俺はなにを期待していたんだろう。

 

 

 

 

「翔ちゃん!飲もう!」

相葉ちゃんは、床に座って俺の顔を覗く。

「ありがと。俺は、大丈夫だよ。

 お前、明日仕事だろ?」

「いいよ!飲もうよ!」

「もしかしたら、緊急オペで呼び出しくらうかもしんないからさ・・。

 また今度な」

「・・そっか」

相葉ちゃんは、笑顔を作って「また連絡するね」

そう言って家を出て行った。

ドアが閉まると、肩が重くて溜息が出る。

シャワーを浴びて、ベッドに潜りこんだ。

 

 

 

 

昨日、ここに寝ていた松本は奇跡だったんだ。

 

 

 

頭の中では、わかっているのに

 

 

 

 

 

 

「う・・っ・・馬鹿みてぇ」

 

 

 

 

 

 

明日は、秋晴れのように暑くなるそうだ。

赤くなった目で、眩しい太陽なんて

見れるわけがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

a Day in Our Life

― 君を想う朝 続く切なさ ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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