いつも彼の名前を呼んでいた。

 

振り向いて欲しくて

 

構って欲しくて

 

笑って欲しかった。

 

 

彼の「親友」という存在にも

彼の「特別」という存在にもなりたくて

俺は、いつも彼の名前を呼んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

a Day in Our Life

― いつもの幸せを、君の腕の中で ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「翔くん」

「なんだよ、うるせぇな」

名前を呼び続けると、仕方ないと言った顔を作って振り返る。

だけど、すぐに笑顔になるから

彼の照れ隠しの言葉に、傷つくよりは

もっと、その顔が見たいと思っていた。

「ほんと、松潤は翔ちゃんが大好きだよねぇ」

高校時代、いつも一緒にいた相葉ちゃんに

少し呆れられた顔で、よく言われた。

「うん。だって翔くんカッコイイんだもん」

 

 

頭もいいのに、面白いし。

俺が知らないことを、たくさん知っている。

顔だって、駅で翔くんと並んでいると

他の学校の女子が騒ぐほど、かっこいい翔くん。

最初は、憧れだった。

だけど、俺のものになったらいいのにって思うのに

時間は、掛からなかった。

 

 

 

「お前、うるさい。ちょっと静かにしてよ」

俺が翔くんの名前を呼んでいると、ニノはいつも冷めた顔で

いじわるなことを、言う。

だけど、悲しくもなかったし、腹が立つなんてこともなかった。

ニノがちゃんと、優しい奴だと知っていたから。

「今日寒いね」

俺がそう言うと、ニノは自分がしていたマフラーを外して

俺に投げた。

「え、大丈夫だよ。ニノしてなよ」

「いい。これ、チクチクするし」

「ほんと?」

ニノに借りたマフラーは、柔らかくて温かくて

寒そうに肩を縮めるニノを見ると

俺は、嬉しかったのを覚えてる。

 

 

 

 

翔くん、ニノ、相葉ちゃんと一緒に過ごした毎日は

本当に楽しくて

こんな楽しい日々が、ずっと続けばいいと思った。

だから、翔くんに想いを伝えることを迷っていた。

 

 

 

 

 

「なぁ、本当は櫻井とキスくらいしてんだろ?」

クラスメイトに、茶化されて

今までだったら軽く流せる冗談も

卒業が近づくと、不安でいっぱいになった。

もし、大学で翔くんに恋人が出来たら

もう一緒に、いてくれなくなるかもしれない。

 

 

 

 

 

「ね、ニノ」

「なんだよ」

ニノと二人きりになった、中庭で

相談した。

「俺と翔くんてさ・・周りから見て、変?」

「は?」

「や、なんか・・クラスの奴にからかわれるから。うち男子校だしさ」

「・・・嫌なの?からかわれるの」

「俺は、いいけど・・翔くんが嫌なんじゃないかと思って」

「ふぅん」

「・・・俺、ね・・・ニノに、だから言うけどさ・・・。

翔くんが、好きなんだ」

 

 

 

 

同性を好きだと言っても、きっとニノなら馬鹿にしない。

冷静に考えて、一番いい答えを出してくれる気がした。

 

 

 

 

 

「翔くんは、迷惑じゃないかな・・・俺の気持ち」

「確かめてみます?」

「え?」

「俺がさ、翔くんに真相を聞いてみるから、そばで聞いてたらいいんじゃない?

 きっと、翔くんもお前の前だと照れて本音なんか、言わないだろうし。

 翔くんも、お前のこと好きだよ」

「ほんと?」

 

 

 

 

やっぱり、ニノは優しい。

相談して、よかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「抱きたいって思ってるんでしょ?松本のこと」

「な、に言ってんだよ・・・気持ち悪ぃなぁ」

 

 

「松本も、冗談で俺のこと好きとか、たまに言うけどさ〜・・

 冗談じゃなかったら、本当にきついっつの。笑えねぇよ」

 

 

 

 

 

あぁ、そうだよね。

女子にモテる翔くんが、わざわざ俺なんかを

好きになってくれるわけがない。

あまりに、毎日が楽しかったから

勘違いをしてしまった自分が、恥ずかしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「松本ッ」

泣きながら、裏門から帰ろうとする俺を

ニノは息を切らせて、追いかけて来てくれた。

「・・・ニノ、ありがと」

鼻を啜って、情けない涙声でお礼を言うと

ニノは、眉を悲しげに下げて俺を見つめた。

「翔くん・・が、あんなこと言うなんて思わなかった」

「・・・当たり前だよ。同性から好かれるなんて、やっぱり気持ち悪いでしょ?」

ははっと、悲しさを紛らわせるように笑うと

「松本は、別だよ」

「え?」

「だって・・お前、可愛いよ」

「なに言ってんの?ニノ。慰めてくれてる?」

「本当のこと、言ってるだけだ」

「・・・」

ニノは、真剣な瞳で俺を見る。

俺は恥ずかしくなって

「・・・俺ら、大学受験もないし、夏は遊べるね」

「俺、新しいソフト買ったんです。一緒にやります?」

「うん」

それから、翔くんと顔を合わせるのが辛くて

ニノとばかり一緒にいた。

すると、もう軌道修正なんて出来なくなって

4人で遊ぶことは、なくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「翔くん、俺らと違う大学行くらしいですよ」

週末、俺の家でゲームをしていたニノが呟いた。

「相葉ちゃんから聞いた」

そう言うと

「ねぇ」

ニノは、ゲーム画面を消した。

「ん?」

自分の部屋のベッドに座っている俺の前に、ニノが立った。

「翔くんの代わりでいいからさ、俺と付き合ってよ」

「・・・」

 

 

なんとなく、ニノは俺を好きでいてくれてると気付いていた。

一緒に過ごすことが多くなってから、ニノは

俺に、冷めた顔を向けなくなった代わりに

すごく可愛く笑うことが、多くなったから。

 

 

 

「好きだよ。松本」

 

 

 

ニノは上体を曲げて、座っている俺を抱きしめる。

そしたら、俺の心の痛みが和らぐように

温かいものが、身体の中に入って行く気がした。

 

 

 

 

 

 

 

一緒の大学に入る頃には

俺達は、下の名前で呼び合うようになり

親友から、特別な存在になった。

 

 

 

違う大学に行った翔くんを、たまに思い出す。

相葉ちゃんを通してだって、連絡をすることは、出来たはずなのに

隣にいるカズが、悲しい顔をすると思ったから

こっちから翔くんに連絡することは、やめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「潤くん」

カズは、よく泣く。

「なんかあったの?」

「潤くんが、どこかに行ってしまうかもって思うと、泣けてくる」

「なんで、そんなこと考えるんだよ〜」

高校時代「松本」と強気な声で俺を呼んだカズは

今とは、別人のようだ。

いや、元から彼には繊細な部分がたくさんあったのに

俺が、気付かなかっただけなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

「猫背」

テレビを見ている彼の背中は、いつも丸まっている。

「潤くんのために、猫背なんです。俺は」

「なんだよ、それ」

カズの首に腕を回して後ろから抱きついた。

「ね?凭れかかりやすいでしょ?」

「確かに」

「俺が、めっちゃ姿勢良かったら、こんなに密着できないよ?」

得意げにそう言われて、自分と同じシャンプーの匂いがするカズの

襟足に顔を寄せながら、幸せだなぁと感じる。

「潤くん、相葉さんからメール来た?」

「あぁ、同窓会だろ?カズ行く?」

「潤くん行くなら、行きますけど・・・」

「相葉ちゃん主催らしいね」

「・・・うん」

「翔くんとか、元気かなぁ。結局さ、俺が勝手に避けて

 気まずいまま、連絡も取らなくなったからなぁ」

カズに抱きつきながら、身体を左右に揺らす。

カズは頭をふらつかせながら

「あの頃に、戻りたいとか思います?」

「ん〜?まぁ、楽しかったよね」

「・・・」

カズの顔を覗くと、それに気付いて口の端を上げた。

彼は、たまに一人、切ない顔をするときがある。

「でも、カズいじわるだったからなぁ。俺に」

冗談で言うと、カズはすごく慌てた声を出して

「思春期だから、仕方なかったんですよ!

 潤くんと正面切って話すのが、恥ずかしかったの!」

「ふはは、わかったよ」

「嫌いとかで、いじわるしてたわけじゃないんですよ!?

 好きだからこそ!好きだから素直に出来なかったんですよ」

「今は?」

「え、俺いじわる?」

「ううん。優しい」

「じゃぁ、よかった」

幸せだなぁ。

 

 

 

 

 

同窓会で、久しぶりに会った翔くんは

やっぱりカッコ良かった。

高校時代、金に近いような髪色は

すっかり大人しく黒くなっていた。

話し方も、昔より落ち着いたようになった気がした。

「松本」

彼に久しぶりに、あの頃の呼び方で呼ばれて

 

 

 

 

 

あぁ、確かに俺は

彼を好きだった時代があった。

 

 

 

 

 

 

「翔くん」の特別な存在になりたくて

「翔くん」を自分のものにしたくて

「翔くん」しか、見えてなかったときが

確かにあった。

 

 

 

 

 

隣に座っていたカズを、ふいに見ると

彼の切ない瞳と目が合った。

 

 

 

 

 

カズは、まだ俺を信用してないのだろうか。

 

 

 

 

 

俺が、お前と付き合ったのは

決して「翔くん」の穴埋めではないのに。

 

 

 

 

 

何度「好きだ」と言っても

カズのこの切ない瞳は、消えないのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同窓会の一次会が終わり、俺とカズは

帰ることにした。

俺が

「帰ろうか」

そう言うと、カズは安心したように頷いたから。

 

 

タクシーを止めに、お店を出て

階段を降りようとすると

「松本っ!」

翔くんの声が聞こえて、振り返る。

返事をする前に、俺の目の前は暗くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ・・俺、今何してたんだっけ?」

「・・・炒飯・・」

「炒飯?カズが、作ってくれたの?」

「ほんとに・・?潤くん」

気付いたときには、自分の家にいて

目の前のカズが、泣きながら笑っている。

意味が分からなかったが、泣くカズを抱きしめて

宥めるように、背中を摩る。

 

 

 

いつも一緒にいるのに

なぜか、カズを抱きしめるのは

久しぶりな気がした。

カズの髪から、いつものシャンプーの香りがして

安心して、いつもの幸せを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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