翔くんの家は、とても広くて新築の匂いがした。
医者か・・・。
彼は、いつだって俺の上へ行く。
今でも親友なら、自慢の親友になるだろう。
だけど、同じ男として彼を見ると
昔から、俺の欲しいものを持っていた彼を
疎ましく思ってしまう俺は
本当に、小さい男だと
自分がますます、嫌になる。
6
玄関で靴を脱ぎ、廊下を進むと
一番奥の部屋のドアから、明かりが洩れていた。
ドアを開けると
「あっ、ニノ!」
潤くんが、ソファに座ってテレビを見ていた。
「・・調子どうですか?」
ゆっくり近づいて、潤くんの隣に腰かけた。
「もう、打った背中も痛くないよ」
「それは、よかったね」
「ニノ、なんで来たの?あ、やっぱり映画見たくなった?」
「・・・ねぇ、潤くん」
「ん?」
「本当に忘れちゃったの?」
「え・・っと」
潤くんの首の後ろに片手を置いて、引き寄せた。
唇が、合わさってすぐに離すと
潤くんは、生まれて初めて誰かとキスをしたときのように
驚いた顔をした。
「俺達、付き合ってるんだよ?潤くん・・・」
潤くんの肩に顔を埋めて、願いを込めるように呟いた。
「俺と・・ニノが?」
思い出して。
思い出して。
「・・・」
テレビの音だけが部屋に響く。
俺は、顔をゆっくりと上げて潤くんを見つめた。
「そう・・なんだ。なんかビックリ・・・」
潤くんは、気まずそうに俺から目線を逸らした。
「なんで・・?」
「だ・・って・・・」
その言葉の続きは、簡単に想像できる。
そうだよね。
潤くんは、翔くんしか見てなかったもんね。
「潤くんの初めてのキスも、俺なんだよ?」
翔くんが好きだった彼は、色んな奴にモテていたくせに
真面目に、翔くんが振り向いてくれるのを待っていた。
俺と付き合って、初めてしたキスに
潤くんは、恥ずかしいのを隠したかったのか
いっぱい関係のないことを喋っていたのを
俺は、10年経った今でも
鮮明に覚えているよ。
潤くんの唇に、また顔を近づけようとすると
チャイムが鳴る。
頬を真っ赤にした潤くんが、俺の胸を押してソファから立ち上がった。
「ピザ来た・・・ニノも、食べてきなよ」
机の上に置かれたお金を手に持って、潤くんは俺に背中を向けた。
俺は思わず、彼の怪我をしていない左手を掴んで
勢いよく自分の方に引っ張って、その身体を抱きしめた。
ピンポーン・・・ピンポーン・・・
「ニ・・」
口を塞ぐようにキスをする。
「ッ!?」
潤くんの口内に舌を入れると、彼の肩が跳ね上がった。
腰に手を回し、空いている手で潤くんの後頭部を掴んで
逃げないように、強引なキスをした。
「んっ・・ッはっ・・んん!」
潤くんの逃げる舌を追いかける。
ピンポーン・・・
「すみませーん!ピザお届けに参りました〜」
ドアの向こう側から、声が聞こえる。
テレビも相変わらず、うるさい。
俺の頭の中は、もうグチャグチャだ。
唇を離すと、潤くんは今にも泣きそうな顔で俺を見た。
「・・・ふ、」
その顔を見て、自分が情けなくなって俺は笑ってしまった。
「・・・俺、怖いよ」
潤くんを、床に押し倒す。
利き手を怪我している潤くんは、左手で俺の身体を押すけど
全然力が入っていなかった。
それはまるで、高校一年のとき。
俺より少し身長が低く
成長しきれていない腕が、折れそうなくらい細かった
潤くんを思い出した。
「俺との思い出を、翔くんの思い出に塗り替えられちゃうのかと思うと
怖い・・・」
「ニッ・・」
潤くんの肩口に顔を埋めて、彼の服の中に手を入れた。
何回も撫でたはずの白い肌は
彼の反応が違うだけで、別人のような気がした。
「なっ・・にすんのっ」
左手で肩を叩かれた。
だけど俺は、そんなことお構いなしに
手を滑らせる。
「ニノッ・・・やだ!」
いつの間にか、外にいたピザ屋の声はしなくなり
テレビの音も気にならなくなった。
「やだよ・・ニノ、やめて」
潤くんの左手が、拳に変わる。
「・・・翔くんっ」
君は、いつだって
困った時はあの人の名前しか、呼ばなかった。
俺が、隣にいても
君は、いつだって
遠くにいるあの人の元に、走って行ってしまった。
「うぁっ・・ふ・・」
もう、その名前を聞きたくなくて
俺は潤くんの口内に、自分の指を3本突っ込んだ。
潤くんは苦しそうに目に涙を溜める。
潤くんの舌を指で撫でている最中に
彼の履いているズボンを下着ごとずらした。
潤くんの口から指を引き抜くと、厭らしく
銀色の糸が絡みつく。
その指を、潤くんの後ろに宛がうと
彼は目を大きくして、また俺の肩を拳で殴った。
「そんなとこ・・入れないでっ」
「いつも入れてたから、大丈夫ですよ」
淡々と答える俺に、潤くんの声が震える。
「入らない・・よっ」
「入るよ。俺の入れるんだもん」
2本の指を入れると、潤くんは息を止めた。
俺は、潤くんの震える唇にキスをしたまま
指を奥に進めて行く。
それでも、潤くんは諦めずに俺の肩を殴るから
俺の心は、どんどん凶暴になっていく。
まだ十分にほぐれていないと分かっているのに
指を抜いた。
異物感が抜けた潤くんは、安心した顔を一瞬したが
俺が彼をうつ伏せの体制に変えて、再度
上に圧し掛かったのを感じると
潤くんは身体を震わせた。
こんなに一方的に、彼を抱くのは初めてだ。
「ひっ・・!やっ・・いた、い!!」
「いたい・・・ニノっ・・もう、抜いて」
「うっ・・うっ・・・」
潤くんのうめき声と、腰を打ちつける音が
今度は俺の頭を、埋め尽くす。
自性に近いほど、相手のことを思いやらずに動いて
俺は、潤くんから離れて床に精を吐き出す。
自分のモノを見ると、赤い液体がついている。
うつ伏せに倒れている潤くんの後ろを見つめると
痛々しく、そこから血が流れていた。
「切れちゃった・・・ね」
俺はズボンを履いて立ち上がり、洗面台を探して
タオルを濡らした。
潤くんの血が流れている場所をタオルで拭おうとした瞬間。
潤くんは、また悲鳴を上げたので
俺は手を触れずに
「タオル・・置いておきます」
汚した床を別のタオルで拭き取って、倒れている潤くんに言った。
「怖い思いさせて、ごめんね」
こんなことをして、記憶が戻ると思った自分が滑稽だ。
漫画の読みすぎだ。
潤くんの泣き声は、テレビの音量より小さいはずなのに
そればかりが、頭に響いて
俺は、逃げるように翔くんの家を出た。
a Day in Our Life
― 君の震える唇は、別人のようだった ―