a Day in Our Life

― 君を想う朝 ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ、翔くんち広いね」

俺の一人暮らしのマンションに、松本がいることが不思議だ。

「なんか飲む?」

松本の荷物を床に下ろして、キッチンに向かった。

「なにがあんの?」

スリッパの音を、パタパタと忙しなく立てながら

松本が俺の隣に、ぴったりくっついて立った。

 

 

高校時代。

当たり前のように、隣にくっついていた松本が

今も俺の隣にいることが、嬉しい。

 

 

「冷蔵庫開けてみ?」

そう言うと、怪我をしていない左手で、松本は冷蔵庫を開ける。

「お酒ばっかだ」

「ね。うち、なんもねぇの」

「食糧も全然入ってない」

「男の一人暮らしなんて、そんなもんだよ」

「え〜今日、夕飯どうすんの?」

「俺の好きなピザを取る」

「本当、翔くんピザ好きだね。太るよ?」

「うるせーよっ」

「ははっ」

 

 

 

ピザを待ちながら借りて来たDVDを鑑賞する。

俺は、ソファに座り

松本は、そのソファに凭れながら床に座った。

でも、俺は映画なんか見ずに

少し上から、松本の横顔を見つめる。

「・・・」

ずるずると、松本の頭が俺の膝に倒れて来た。

俺は口元を上げながら、松本の頭に手を置いて

前屈みになり、松本の顔を覗き込む。

 

「なに、つまんない?」

 

そう尋ねると

松本は、申し訳なさそうに

だけど、どこか楽しそうに笑った。

「お前が選んだんじゃん」

「ごめんね、翔くん」

「勝手な奴」

 

 

だけど、好きだ。

そんなお前に振り回されるのが、俺は好きなんだ。

それは、今も変わらないのだ。

 

 

 

ピンポーン。

 

 

「あ、ピザ来たかな」

インターホンが鳴ったので、松本の頭を

もう一度軽く撫でた後に、ソファから立ち上がった。

「はい」

インターホンのカメラの前には、ピザ屋ではなく

会いたくなかった奴らが、立っていた。

俺は、溜息をついて玄関に向かった。

 

 

「よぉ」

ドアを開けると、真剣な顔をした相葉ちゃんと

「どうした?」

その後ろに、ニノがいた。

「どうしたじゃないよ!

なんで、松潤のこと勝手に退院させるの?翔ちゃん」

相葉ちゃんは、俺の家に何回も来たことがあるので

文句を言いに来ることは、予想していた。

「あぁ、悪い。あとで連絡するつもりだったんだけどさ」

家の中に声が聞こえないように、俺は外に出て

ドアを閉めた。

「松潤が帰る家は、ニノと住んでる家なんだよ?」

「でも、松本が俺の家に行きたいって言うから」

言いながら、俺はニノを見つめる。

ニノは、俺の視線に気づいた後

顔を背けた。

 

 

まるで高校時代、松本を見つめていたニノを思い出す。

 

 

「とにかく、松潤に説明する」

「なにを?」

「ニノと、付き合ってることをだよ!」

興奮する相葉ちゃんに、俺は本当に自分でも嫌になるほどの

皮肉な笑顔を作って

「言ってどうすんだよ。覚えてねぇのに」

「翔ちゃん・・・」

俺の笑顔を見て、相葉ちゃんは眉間にシワを寄せた。

相葉ちゃんが口を開いて、何か言おうとした瞬間に

ズボンのポケットに入れていた携帯が鳴った。

「はい」

相葉ちゃんとニノを残して、俺は電話に出る。

 

 

『櫻井先生、お休みのところ申し訳ないのですが

 緊急オペが入りまして、出て来れますか?』

 

 

看護師から、いつもの呼び出しが掛かる。

医者に休日もあったもんじゃない。

 

 

「わかりました。15分で行きます」

 

 

病院の決まりで、すぐに応援に行けるよう

住んでいるマンションは、病院のすぐ近くだった。

 

 

電話を切って

「ごめん。呼ばれたから病院に戻るわ」

「翔ちゃ・・」

ドアを開けて家の中に戻る。

 

 

 

 

「あれ?ピザは?」

手ぶらで戻って来た俺に、松本は首を傾げた。

「ごめん、松本。呼び出し掛かったから、病院に戻らなきゃ」

上着を羽織った俺に

「いつ戻ってくる?」

「長くて5時間後?短くて2時間くらいで戻ってこれるよ」

「大変だね・・・」

「寝てていいぞ?あ、風呂入りたかったら

 明日の朝、髪洗うの手伝ってやるからさ」

怪我した右手じゃ、不便だろう。

「ありがと。頑張ってね」

「おう。お金置いとくから、ピザ来たら食べな?」

「うん」

松本に軽く手を振って、家を出ると

ドアの前には、まだ相葉ちゃんとニノがいた。

何も言わずに、2人の横を通り過ぎると後ろから靴音が聞こえる。

俺は、逃げるようにエレベーターのボタンを押した。

 

 

「翔ちゃんっ」

 

 

追いかけてきたのは、相葉ちゃん一人だけだった。

俺は、エレベーターが自分のいる階まで下りてくるのを

点滅したライトを見つめながら待つ。

「翔ちゃん!なんで、こんなことすんの!?」

「・・・」

上着のポケットに両手を突っ込んだ。

 

「ニノとの生活を忘れてる松潤に、優しくするなんて卑怯だよっ!」

 

「・・・卑怯?」

 

「卑怯だよ!翔ちゃん!!

 ニノの気持ちも、考えてあげなよっ!!」

 

 

ガッと、相葉ちゃんは俺の肩を掴んだ。

俺は、ポケットから片手を出して

相葉ちゃんの手を振り払った。

 

 

 

「俺が、どんだけ松本のこと好きか知ってんのかよ・・・」

 

 

「え・・」

 

 

「俺が・・ッ」

 

 

止めようと思ったけど、止まらなかった。

 

 

 

 

「俺が、10年間どんな気持ちで、毎日をやり過ごしたか・・・」

 

「毎朝、どんな気持ちで目覚めるのか」

 

「お前には・・・わかんねぇよッ!!」

 

 

 

 

エレベーターが到着して、扉が開く。

 

 

 

「・・・ごめん」

 

 

大声を出した俺に、驚いている相葉ちゃんに

一言残して、エレベーターに乗って扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「櫻井先生っ!第一オペ室です!」

病院の従業員専用入り口から、入ると

看護師が俺の到着を待っていた。

手術室に向かう廊下で

智くんと擦れ違う。

彼は、患者の顔を見ただけで

その人の精神状態が分かるらしい。

 

 

 

今、俺はどんな顔をしているんだろう。

智くんには、全部お見通しなのかと思うと

思わず顔を背けて、廊下を走って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニノ・・・松潤、連れて帰ろうよ」

一人戻って来た相葉さんは、元気がない。

「2人で、話したい」

俺が、それだけ言うと相葉さんは頷いて

「わかった・・・」

「相葉さん、ここまで連れて来てくれてありがとう」

仕事中だったのに、電話してごめんね。そう言うと

相葉さんは、俺の肩を叩いて

「頑張ってね」

「うん」

相葉さんは、エレベーターに向かって歩き出した。

その背中を見送ってから、俺は翔くんの家に

初めて入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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