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「これ、着替え持ってきましたよ」

「ニノ、ありがと。わざわざうちに寄ってくれたの?

 母さんに、頼もうと思ってたから助かったよ」

俺と一緒に、住んでいる部屋から

潤くんの洋服を持ってきたとは、言えなかった。

言ったところで「なんで、俺がニノと一緒に暮らしてるの?」

なんて、潤くんは悪気はないけど

俺が傷つく言葉を、言いそうで怖い。

 

 

 

 

潤くんは、今。

10年前の記憶で、止まっている。

 

だから、俺が潤くんの世話を焼くことも

 

俺が、彼の名前を高校時代のときの「松本」と呼ばずに

「潤くん」と呼ぶことにも、不思議な顔をする。

 

 

 

 

 

「これ、なに?」

俺が渡した紙袋の中身を見て、潤くんが首を傾げる。

「入院中、暇だと思って、本持ってきました」

「へぇ〜、ニノのオススメなの?」

「いや、潤くんが好きな本だよ。俺には、難しくてよく分かんない」

「俺、こうゆう本読むようになったんだね」

感心するように、左手で本を捲る潤くんに

話す言葉が見つからない。

「よぉ」

開けっ放しだったドアから、白衣を着た翔くんが現れた。

「翔くん」

嬉しそうに、翔くんの名前を呼ぶ潤くんの顔を見ていられなくて

「俺、外で煙草吸ってくる」

2人を病室に残し、外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニノ」

外のベンチに座って、煙草を吸っていると

相葉さんが、俺の隣に座った。

「・・・」

相葉さんの顔を横目で見ただけで、なにも言わないでいると

「大丈夫?」

「全然・・・大丈夫じゃないです」

はぁ・・と溜息をついて、両手で顔を覆う俺に

相葉さんが「そうだよね」と、慰めるように肩を叩く。

「松潤の仕事は、どうすんの?」

「潤くんのお父さんが、会社に電話してくれた。

 さすがに俺が電話するのは、違うと思うから・・・」

 

 

昨日。

病院に来てくれた潤くんの両親に

潤くんが記憶喪失ということを、伝えた。

潤くんと同棲する際に、殴られる覚悟で

彼の両親に、了承を得る挨拶をしに行った時

やはり、息子が普通の人生を歩めないと言う事に、ショックを受けていたけれど

 

「潤を、よろしくお願いします」

 

そう言って、俺なんかに

頭を下げてくれたお父さんとお母さん。

潤くんが俺との生活を、忘れてしまったということを伝えたら

 

「潤が、和くんを忘れるなんてしないよ」

 

そう励ましてくれた。

それで、俺は今日も勇気を出して潤くんに会う事が出来た。

 

 

 

 

 

 

「怪我と、頭を強く打ったって伝えたら

 長期休暇を使っていいって、言ってたらしい」

「そっか。じゃぁ、ゆっくり休養出来るね」

「潤くんが・・・俺を、見てくれないんだ」

「え?」

「本当に、高校時代に戻ったみたい」

ふっと、鼻で笑って、煙草を地面に押し付けた。

「この10年。翔くんのことなんか、忘れさせてやるって

 ずっと思ってたけどさ・・・。

 俺のこと忘れちゃうなんて、想像してなかったわ」

困るよね、笑い話のように俺が話すと

その当時から、俺の気持ちを知っていた相葉さんは

掛ける言葉が見つからないのか

俺と同じような顔をして、ただ下を向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また相葉さんと同じクラスですね。腐れ縁てこわいな」

高校一年の春。

小学校からの幼馴染の二宮和也と、同じ高校に受かって

クラスも一緒になり、楽しい高校生活が保障された。

まだ高校生活が始まって間もないから

クラスの連中の顔と名前が一致しない中

俺は、「松本潤」という奴だけは、すぐに覚えた。

なぜかというと、ニノの視線の先にはいつも彼がいたからだ。

 

 

今日も、休み時間中に

教室の片隅で、一緒に漫画を読んでいて

面白い場面があったから、ニノにも教えてやろうと顔をあげたら

彼は、漫画なんてそっちのけで

ある方向を、ずっと見ていた。

そこには、楽しそうに笑う松本潤の姿が。

「なんでいつも、松本のこと見てるの?」

特に深く考える前に、口から出てしまった。

俺の質問に、ニノは眉間にシワを寄せて

舌打ちをした。

「えぇっ、なんで舌打ち!?」

笑いながら、ニノの腕を掴んで揺らすと

煩わしそうに、その手を振り払った。

「ね、ニノ。松本と仲良くなりたいの?」

「・・・」

「ね、そうなんでしょ?素直に声掛けてくれば?」

「うるさいですよ・・・」

否定しなかった。

「よしっ!じゃぁ、俺が声掛けてくる!」

「はぁ!?」

ニノに制服を引っ張られて制止されたけど、俺は気にせずに

松本の前に立った。

 

 

「ねぇねぇ、親睦会やんない!?」

「親睦会?」

松本といつも一緒にいる櫻井翔が、首を傾げた。

「俺ね、ボーリングの割引券持ってんの!今日行かない?」

「マジで?松本どうする?」

「いいよ、行きたい。ボーリング超久しぶりだし」

「ほんと!?あ!二宮も来るけどいい!?」

「いいよ」

「じゃぁ、放課後ね!」

俺は、達成感いっぱいで2人に背中を向けて

ニノに向かって、ピースした。

ニノは、呆れたような怒ったような

どっちか分からない顔をして、漫画に視線を落とす。

 

 

 

 

それから俺達4人の距離は、一気に近くなった。

 

 

 

翔ちゃんは、気が利いて世話焼きで

色んなことを知ってて、面白い。

 

松潤は、最初人見知りだったのか

少し距離があったけど、だんだんと打ち解けてったら

よく笑い、人懐っこくて、たまに天然。

 

 

 

4人で、遊んではバカ話しで盛り上がった。

 

 

 

 

 

 

「翔くん、翔くん」

「なんだよ、うるせ〜な〜」

「今日、泊まり行っていい?」

「いいけどさ〜、お前この前ひどかったじゃん!」

「なに!?俺、なんかした?」

「「翔くん一緒に映画見よ〜」とか言ってDVD持ってきたくせに

 先に寝やがって!」

「え〜だって、あれ超つまんなかったんだもん」

「お前が、借りてきたんじゃん!」

笑い合う翔ちゃんと松潤。

この2人は、高校に入ってから仲良くなったらしいけど

俺には、この2人の間に

入れない壁のようなものを、いつも感じた。

それは、小さい頃からずっと一緒にいる俺とニノの関係とも

また違ったような空気だった。

松潤は、翔ちゃんのことが大好きなんだなぁ、というのが伝わってくるし

翔ちゃんも冷たくあしらうふりをして、困ってる松潤を見るのが

楽しそうだった。

家の方向も、2人は同じで。

俺とニノは反対方向だった。

よく、2人とは反対側のホームに立って

電車が来るのを待っていると

じゃれ合ってる翔ちゃんと松潤の姿が、目に入る。

隣にいるニノの横顔は、いつもどこか

つまらなそうに怒っていた。

 

 

 

 

「お前、馬鹿なんじゃないの」

4人で、ふざけている時に

松潤に対するニノの言葉には、いつも棘があった。

それでも松潤は、笑って

「なんだよ〜、馬鹿って言うな!」

「本当、松本って、ガキだよな〜」

そう言って、また翔ちゃんが松潤をからかうから

ニノの棘のある言葉なんて、松潤は気にしていない様子だった。

そんな松潤を見るニノの横顔は、見ているこっちが

心配になるほど、切なそうだった。

 

 

 

 

「もっと、翔ちゃんみたいに接したら?松潤に」

「・・・は?」

「ニノがいつも冷たいこと言うから、松潤も翔ちゃんのほうばっか行くんだよ」

「知ったような口聞くなよ」

「なに、その言い方。ニノのために言ってんじゃん」

「俺のためって、なんだよ」

「松潤のこと、好きなんでしょ?」

そう言うと、いつもニノは黙ってしまう。

 

 

こんな言い合いを、俺達は高校3年の途中まで

何十回も繰り返す。

 

 

 

 

 

 

 

「翔ちゃん、大学どうすんの?」

高校3年の春。

俺達4人は、クラスが全員離れてしまったけど

相変わらず一緒に過ごしていた。

「俺は、このまま付属の大学に進もうと思ってるけど」

「やっぱり?ニノと松潤も、そうするって言ってたよね〜」

「相葉ちゃんどうすんの?」

「俺さ〜、もう勉強すんの嫌だから大学は行かない」

「え、マジで」

「お金も掛かるし、親父の中華屋とか手伝おうかな」

「あ〜、それもありだよね」

「3人は、大学も一緒か〜。楽しそうだね」

 

 

 

 

 

 

俺達の4人の関係が、終わりを告げるのは

その年の夏休みに入る前だった。

 

 

 

 

 

 

 

クラスが違う4人が、いつも放課後待ち合わせする場所は

中庭の大きな桜の下にあるベンチだった。

暑い中、木の日陰に隠れて3人が来るのを待っていると

翔ちゃんが一人だけやってきた。

「翔ちゃん!遅いよ〜俺、暑くて死にそうなんだけど」

笑いながら翔ちゃんの肩を叩くと

彼の表情は、いつもと違い元気がなかった。

「どうしたの?調子悪い?」

「ん?いや、平気。ごめん、俺先帰るわ」

作った笑顔で、翔ちゃんはそう言って去って行ってしまった。

同時に、俺の携帯にニノからメールが入る。

 

 

 

 

待たせて、ごめん。

今、松本と一緒にいる。

先に帰っててください。

 

 

 

 

訳が分からないまま、その日俺は一人で帰った。

 

 

 

 

 

 

あんなに仲が良かった俺達が

4人で一緒に遊ぶことは、もうなくなってしまった。

 

 

 

俺一人で、ニノや翔ちゃん松潤と遊んだけど

4人で集まることは、なくなった。

学校が始まると、いつも松潤の隣にいたのは翔くんだったのに

それは、ニノの場所に変わっていた。

「翔ちゃん、松潤とケンカでもした?」

「別に・・・。もう、一緒にいるの飽きたし」

「なにそれ・・・」

「俺さ、大学別のとこ行くことにしたわ。

 まぁ、都内だから、卒業しても遊ぼうよ」

「2人で?」

「・・・ニノと松本が来るんだったら、俺は行かない」

 

 

 

ニノと松潤に、訳を聞こうとしても

なにも答えてくれなかった。

 

 

 

俺達は、バラバラのまま高校を卒業して

同じ大学に行ったニノと松潤は

いつの間にか、付き合っていて

俺は、驚いた。

そのことを翔ちゃんに言うと

驚いて目を大きくさせた後、話題を変えられた。

 

 

 

 

「相葉さん。翔くんに、今も会ってるんでしょ?」

「うん。今度また飲みに行くけど」

「俺と潤くんが、同棲してるって、報告してよ」

「え・・・でも、2人が付き合ったって言ったときも

 反応なかったし、もういいんじゃない?

 もしかしたら、聞きたくないのかも」

 

 

俺は、男同士ということで差別するなんて考えてないけど

そう言う人もいると思うし・・・。

 

 

「言ってよ。相葉さん。お願いだから」

ニノにそう言われて、仕方なく

俺は翔ちゃんに言った。

 

 

 

 

 

「ニノと松潤ね、同棲始めたんだって」

BARのカウンターで横に並んで、伝えると

翔ちゃんは、グラスに視線を落として

氷を揺らしながら

「ふぅん・・そうなんだ」

「あのさっ、今度4人で集まらない?」

勇気を出して提案してみると

「俺は、いいや・・・今更なに話していいか、わかんねぇし」

翔ちゃんは、口元を上げてグラスの酒を一気に飲み干した。

その日は、珍しく酔っ払った翔ちゃんを家まで送った。

「翔ちゃん、大丈夫?」

一人暮らしの彼の部屋に入り、ベッドに寝かせると

 

 

 

「松本・・・」

 

 

 

寝言で呟いたその名前を聞いて

 

 

彼は、偏見でニノと松潤を避けているわけではなく

 

 

松潤のことが、好きなのかもしれない。

 

 

そう思った。

 

 

 

だとしたら、俺は今まで

彼を傷つける言葉を、何回も言ってしまったんじゃないかと

気付いて、後悔する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺、松潤の様子見てくるね」

2本目の煙草に火を付けた、ニノにそう言うと

「俺も、後で行く」

「うん。わかった」

病室に向かう。

「あははっ」

松潤の病室から、廊下まで笑い声が聞こえた。

部屋に入ると、ベッドに上半身を起こして座っている松潤と

パイプ椅子に座って、笑っている翔ちゃんがいた。

ここは、病室だけど

俺は、高校時代の教室の風景を思い出した。

いつも翔ちゃんと松潤は、他の奴が入り込めないくらい

2人で楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

翔ちゃんは、松潤がニノとの記憶をなくしたことを

きっと誰よりも喜んでいる。

 

 

翔ちゃんの気持ちも

ニノの気持ちも

知っている俺は

なにを松潤に伝えれば正しいのかが、わからなくて

病室に入ることが出来なかった。

 

 

 

 

 

「帰るの?」

後ろを振り返ると、ニノが立っていた。

「うん。また来るよ」

「俺も一緒に帰る」

「そっか」

少し丸くなったニノの背中を、軽く叩いて

俺達は、そのまま帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

a Day in Our Life

― あの頃僕らは、親友だった ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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