「日本和菓子大会?」
「どうだ?参加してみないか?」
仕事が終わり、家に着くと
親父に真剣な顔で、一枚の紙を渡された。
話には聞いたことがある。
でも、商店街の小さい和菓子屋の俺には
関係のないことだと、思っていた。
「お前も、もう一人前になってきたし
俺は、いい線行くと思ってるんだが」
「父ちゃん!それは、親馬鹿でしょ」
俺が笑っても、親父は真剣な顔つきのまま。
「小さい和菓子屋で、のんびりやるのもいいけどな・・
お前には、色々経験して欲しいんだ」
「・・・」
大会まで、あと半年。
参加するために書類を送る期限が迫って来ていた。
僕を好きだと言って。
第13話
「潤、いる?」
櫻井家に、和菓子を配達した後
帰るふりをして
裏庭を通り、潤の部屋の窓を叩く。
窓から顔を出した潤は、腫れぼったい眼をしていた。
「雅紀・・」
元気のない様子に、俺は
「寝てた?ごめんね」
「ううん。どうしたの?」
「新作の和菓子作ってきたから、一緒に食べない?」
「うん・・」
やはりいつもより眠そうな目をしている潤が、可愛くて
俺は、靴を脱いで窓から部屋に入る。
潤の頭を撫でると、照れくさいのか下を向く。
部屋の隅に、高級旅館などの窓際にありそうな
木で編み込まれた一人掛けの椅子が、2つ置いてあり
相向かいに並んだ椅子の間には、ガラスのテーブルが存在する。
俺は、椅子に腰かけて、和菓子を入れた小さい箱を
テーブルの上に置いた。
「俺・・お茶注いでくるね」
「あっ、ありがとう!」
今日も、夏日で外は暑い。
潤の部屋は、エアコンが付いてないが
心地よい風が入ってくる。
薄暗い部屋の中は、窓から入る光が綺麗に
畳みを照らす。
「どうかな?」
箱を開けて、作って来た和菓子を潤に見せる。
掌の窪みに置くと、ちょうどいい大きさの和菓子が3つ。
丸い薄ピンクの上に、黄色くて小さい花を散らせたものと
夕日をイメージした、オレンジと黄色の2色の菓子。
最後の一つは、紫の紫陽花を作った。
「すごい綺麗」
「ほんと?嬉しいな」
「紫陽花のお菓子って、よく見るけど
紫って、珍しい」
「なんかね、紫って潤のイメージなんだよね」
照れくさいながらも、素直に言うと
潤は俺の顔を見て、眠そうな目を少し大きくした。
「けっこう紫って独特で、和菓子で使うと
強い色で好まれないんだけどね。
なんか作りたくなっちゃったから」
「俺って、紫って感じなんだ」
「うん。艶やか?な感じ。ふふ」
「難しい言葉、知ってるじゃん」
「あはは!食べて、食べて」
潤が紫の紫陽花を指で摘んで、口に運ぶ。
「美味しい」
柔らかく笑った潤に、俺は嬉しくなる。
潤が入れてくれた緑茶を飲みながら
「父ちゃんがさぁ、俺に和菓子の大会に出ろって言うんだよね」
「大会?」
「優勝した人は、テレビ出たりさ
海外で活躍してる人も多いから、刺激になるだろうって」
「どんなことするの?」
「このくらいの四角くて黒いお皿に、和菓子を好きなように飾りつけていいんだって」
俺は、自分の手でお皿の大きさを作る。
ちょうど、紙A4サイズくらいの大きさだ。
「へぇ、テーマとかは?」
「ない。だから難しそうだよね」
「出るの?大会」
「父ちゃんは、親馬鹿だから出ろって言うんだけど・・・
自信ないよ。俺」
「大丈夫だよ。お前なら」
潤は、真っすぐ俺を見た。
「小さい頃から、和菓子食べ続けて来た
俺と幼馴染みが選んだ和菓子屋なんだから」
「ふはっ、うん!やる気出て来た」
大会まで、あと半年。
一次審査に合格出来る様に、自分で作った和菓子の写真と
申込書を封筒に入れて郵送した。
『一次審査、合格したよっ』
夜。
電話の向こうで、雅紀の明るい声が響く。
「ほんと?やったじゃん。おめでとう」
『来週、2次審査なんだけど。緊張して来た!』
「なにすんの?」
『会場で決められた和菓子を、その場で作らなきゃいけなくて。
時間制限もあるから、焦っちゃいそうなんだよね』
「ふふ。雅紀、焦ったら歴史に残ることしちゃいそうだね」
『ははっ!ありえそう〜』
「じゃぁ、当分は会えないの?」
部屋の襖が、開く音がする。
『うん。ちょっと火曜も、特訓しなきゃ。
落ち着いたら、また遠出しようね』
「うん。頑張ってね」
『ありがと〜。おやすみ』
「おやすみ・・」
ツーツーツー・・・・
「毎日してんの?電話」
「うん」
首に、後ろから両手が巻きつく。
「エアコン付けていい?」
「・・・うん」
窓を閉めて、冷房を付ける。
人工的な風が、部屋を冷たくしていく。
暗闇の中、頬を撫でられた後
低い声で名前を呼ばれた。
「潤・・・」
「・・翔くん」
俺も、彼の名前を呼ぶ。
キスをして、抱きしめられると
翔くんの匂いに包まれる。
この匂いが、大好きだ。
なのに、安心するどころか
落ち着かない。
いけない事をしてると、分かっているからだ。
「しょ・・くん」
翔くんの背中に手は回さずに、抱きしめられたまま
呼びかける。
「ん?」
翔くんは、俺の肩に手を置いて
身体を少し離した後、顔を傾けて
俺を見つめた。
「俺・・ね。和菓子屋の息子と付き合ってるんだよ」
翔くんは大きい目を、細めて
「知ってる。寂しかったんだよな?」
そうなんだ。
そうだったんだけど・・・
「俺・・・その人のこと、大切・・で・・・」
翔くんとは、見た目も性格も違うんだけど
あいつの笑った顔が、好きで。
だから、これ以上
裏切るような事はしたくない。
「俺とそいつ、どっちが大切?」
「え・・」
翔くんの額が、俺の額とくっ付く。
囁く声で
「どっち?」
裏切りたくない・・のに。
そのまま、俺は目を瞑って
翔くんとキスをする。
翔くんの唇に夢中になって、自分から
彼の首に両手を絡めた。
「んっ・・ふ・・んんっ・・」
舌を絡めながら、膝を曲げて
布団の上に横になる。
浴衣を着ている俺の足の間に、翔くんの足が入って絡みつく。
唇を離した翔くんは、そのまま俺の首にキスをしながら
顔を下へとずらして行く。
「あっ・・!」
翔くんの太ももが、俺のモノを押し上げる。
胸の突起にキスをされると、頭のてっぺんが
痺れるような感覚に陥った。
「ぅあっ!あっ・・」
仰向けに体制を変えさせられて、翔くんが俺を見下ろす。
翔くんは、俺を見つめながら
自分の指を咥えて湿らせてから
俺の後ろに、手を回した。
「んっ!あっ、あっ!」
翔くんの指が、徐々に自分の身体に入って来て
俺は首を仰け反らせながら、布団を握りしめる。
「潤・・・」
「んあっ!」
中で、指が曲がり
一番感じる場所を刺激される。
俺のモノは、きっと八切れそうなほど興奮してるだろう。
翔くんの指の感覚がなくなると、
熱くて固いものが、入口に当たる。
布団を握っていた俺の手に、翔くんの手が重なる。
「は・・っ」
翔くんが小さく息を吐いた瞬間。
俺の中に、指とは比べ物にならない
翔くんのモノが入ってくる。
「んんーッ・・あっ!うっ、はぁ・・はぁ」
「潤・・」
「あっ!あぅ・・う・・」
身体を揺さぶられて、声が途切れ途切れに口から出て行く。
「あ・・あっ、う・・んんっ」
「俺・・お前が手に入るなら
もう、世間体とか」
「あっ!・・ッあぁ」
「どうでもいい。好き・・潤」
絡められた手に、力が籠る。
翔くんの言葉は、嬉しいはずなのに
抱かれてる間も、雅紀の顔が頭にチラついて
快感なのか
罪悪感なのか
どちらか分からない涙が、流れた。
「初恋ってさ、特別なもんじゃん」
花を生けている俺の横で、カズはずっと
ソファにうつ伏せになったまま、黙っている。
「いつまでも、淡くて
キラキラしてて、綺麗でさ」
何年経っても、その相手は
自分にとって特別な存在だ。
「だから、執着しちゃうんじゃねーかな。
潤は、翔くんに。
オイラ達は、潤に」
「・・やめてくださいよ。
初恋は実らないって、言われてるんですから」
ようやく顔を上げた、カズの目は
真っ赤になっていた。
「あんたも懲りないね。また潤くんに花束なんか作ってさ」
テーブルの上に置かれた小さい花束を、カズは
呆れた顔で見つめる。
「潤を好きなことは、変わんねーもん」
俺が、そう言うと
「俺は、大野さんみたいに強くないから。
だから、周りに八当たりしちゃうんだ・・・」
カズは、唇を噛みしめて
またソファに顔を埋めた。
「苦しい・・・」
カズの涙声に混じった言葉は
ソファに顔を埋めて息が苦しいというものではない。
俺達は、もっと歳を取っても
今の気持ちを思い出しては
キラキラ輝いていた頃を懐かしみ
苦しい想いが蘇って
夜も眠れなくなるのだろうか。
「好き」と言ってもらえなかった後悔を引きずって。