「仕事、サボって大丈夫なの?」
僕を好きだと言って。
第6話
部屋の襖を静かに閉めて、尋ねると
相葉くんは、緊張しているのか
部屋の中央に突っ立ったまま
ぎこちなく、俺の方に首を動かした。
「あ・・だい、じょぶだと思います」
「後で、怒られるんじゃない?」
畳みの上に敷きっぱなしになっている布団の上を
歩いて、窓の襖を全部閉めた。
昼のこの時間でも、太陽の光が入って来ない俺の部屋は
窓の襖を閉じると、夕方のような薄暗さになる。
薄暗い部屋で、相葉くんの目が潤んでるのか
光って見えた。
「・・・」
「・・・ねぇ」
自分から、相葉くんに近寄る。
あと一歩踏み出せば
確実に、お互いの唇がぶつかる距離まで近づいて
「さっきの続きする?」
声を顰めて、内緒話でもするように
彼を誘惑する。
「続き」の意味が分かった相葉くんは
顔を赤らめて、戸惑った。
彼の腰に、両手を回して下半身をくっつける。
「ちょ、っと・・待って!」
両肩を掴まれて、身体を離される。
やっぱ、今日全部事を終えるっていうのは
難しいか。
急ぎ過ぎたかな。
相葉くんは、きっと男と寝たことないだろうし。
「こういうことは、ちゃんとしたいから・・ッ」
俺の両肩を掴んだ相葉くんの手に、ぎゅっと力が込められる。
「俺と、付き合ってください!」
「え・・」
予想外の言葉に、今度は俺が驚く。
「付き合う」・・・って、なんだよ。
「・・・」
「・・・」
さっきまで恥ずかしそうに、俺の目を逸らしていたくせに
今度は、真剣な眼差しで俺から目を離さない。
両肩に乗った相葉くんの手が、だんだん熱を帯びて来る。
「えっと・・じゃぁ、付き合う・・の?」
正解が分からなくなって、そう尋ねると
相葉くんは、大きく頷いた後に
はぁ・・と、深く息を吐いた。
「うわぁ・・緊張したぁ」
目尻を思い切り下げて、彼が笑うから
なんだか、俺が良い事をした気分になる。
「俺、誰かと付き合うとか初めてなんだけど」
「え!?うっそ!!潤さんモテそうなのにっ」
「いや、知らない。告白されたことも、したこともないし」
「あ〜、ははっ!
潤さんって、なんか無闇に近付いちゃいけない感じするもんね」
敬語がなくなると、一気に相葉くんが身近に感じる。
「恐いってこと?」
そういえば、学生時代も廊下を歩いていると
みんな俺を遠巻きにしている感じがした。
「違うよ。綺麗だから、汚しちゃ駄目?みたいな感じ」
「・・・」
初めて、同性にそんなことを言われて
自分の顔が熱を持って行くことに気付いて
恥ずかしくて、相葉くんに背中を向ける。
「付き合うって・・例えば、なにすんの?」
窓の襖を開ける口実を作り、彼に顔を見られないようにする。
「え〜?なんだろうね?
毎日、電話するとか?メールでもいいけど」
「は?用もないのに?」
「声が聞きたくなるでしょ?」
「会いに来りゃ、いいじゃん」
「そういうんじゃなくて〜・・・じゃぁ、今日の夜電話する!」
「何時?」
「それ言ったら、ドキドキ感ないじゃん」
「意味分かんない」
「でも、するから!連絡先教えてくれる?」
「いいけど・・・」
お互いの連絡先を交換した後、俺は
「しないの?続き」
さっきのキスの続きは、どうするんだと問いかけると
相葉くんは、「う〜ん」と唸って
「今日は・・しない!まだなんか、もったいない」
「はぁ?」
彼の言っていることが、いちいち分からない。
いつかするなら、今日しちゃえばいいじゃん。
トントン。
襖を叩く音がして
「潤くん、いる?」
カズの声が聞こえた。
「いるよ」
そう答えると、襖が開いて
相葉くんがいる状況に、カズは眉間にシワを寄せた。
それに相葉くんも気付いたのか
「あっ、そろそろお店戻らなきゃ」
「ほんと?」
「うん。またね」
「また」というのは、今日の夜電話をしてくると言う事だろうか。
「お邪魔しました」
カズに向かって頭を下げた後、相葉くんは
俺の部屋から出て行った。
カズは、それを見届けてから襖を閉めて
俺を、じっと見つめる。
「なんだよ」
「なんで、あいつがこの部屋にいんの?」
カズの声がいつもより、小さくて低い。
機嫌が悪いのだろうか。
「この前、葛餅くれたから
お礼に、お茶飲んでもらった」
「ふぅん」
「あっ、カズ」
「はい?」
「俺ね、相葉くんに告白されて付き合うことになった」
「は?・・・なにそれ」
「なんか色々あって・・俺、誰かと付き合ったことないけど
どうなるんだろうね」
「・・・さぁ」
「昼飯食べた?」
「・・・まだ」
「なんか食べ行こう。着替えるから待ってて」
そう言うと、カズは頷いて部屋を出て行った。
カズは、翔くんに言ってくれるだろうか。
俺に恋人が出来たということを。
翔くんは
少しでも、嫉妬してくれるだろうか。
『うわぁ・・・緊張した』
先程の相葉くんの笑顔が、頭に浮かぶと
胸が、チクチク痛くなる。