ジャズとメイリアがパーティを組んで数日後。 「ねえ、そろそろ新しい場所に行かない?」  リザロの町から外れた森での狩りの休憩中、メイリアは突然そう言い放ち、ジャズはいきなりの発言に呆気にとられた。 「元々ここら辺の魔物はあまり金目にならないし、野草拾いしてても仕様がないわ。この前のブラッドベアみたいな危険な魔物を見たなんて情報もないし、かと言ってコガネリスを探すのも効率が悪いし、だったら他の場所に移動した方が良いと思わない?」  確かに、これ以上ここにいても意味はないだろう。ブラッドベアの倒した時に得た金で懐は余裕があるが、それ以降の狩りにはあまり成果は出なかった。他の場所に向かい金目となる魔物を狩った方が良いだろう。そう考えたジャズはメイリアの提案を受け入れることにした。 「決まり! それじゃあさっそく明日出発ね!」  そう言うとメイリアは早速出発の準備だとリザロに向けて歩きだし、ジャズは慌てて彼女を追いかけて行った。 「やっと着いた! ここがフォスティね」  リザロからフォスティへ向かう馬車に揺られて数時間。馬車から降りるとメイリアは長い時間を座席に座っていたために固まった身体を伸ばしほぐし、ジャズも凝り固まった首を回す。 「それじゃあ最初は宿探しね」  自分たちが泊まる宿屋を探そうと二人は歩き出す。そしてしばらく歩いていると広場が騒がしいのに気づく。 「なにかしら?」  何事かと二人が近づくと冒険者であろう二人の男が一人の小柄な少女に詰め寄っている姿があった。 「いきなりぶつかってきやがってどうしてくれるんだてめぇ?」 「あ、あの……すみません。私がよそ見してたせいで」 「謝っただけですむと思ってんのか? あぁ?」  赤い髪の少女は男たちに謝るが、男二人はそれでは済まないと言う。  そしてバンダナを付けた男の一人が少女の持つ杖をねめ回すとにやりと笑う。 「中々良さそうな杖じゃねえか。そいつを渡してくれりゃ許してやらんでもないぜ」  もう一人の頬に傷のある男も同意するように笑みを浮かべる。 「そうだな。見たところかなりの一品と見た。こいつは高く売れるぜ」  男が少女の持つ杖に手を伸ばすと、少女は杖を胸に抱え後ずさる。 「こ、これはだめです……これは大事なものなんです」 「なに言ってんだ、これは詫びの品としてもらってくぜ」 「あっ……!」  少女の杖を奪い取ろうと男は杖を乱暴につかんだ。  その時。 「やめなさい!」  それまでのやり取りを見ていられなかったメイリアが突然飛び出し、少女と男の間に割って入る。 「なんだお前? そいつの仲間かよ?」 「違うけど、この子が謝ってるんだから許してあげなさいよ! いい年した男が二人で女の子に詰め寄って恥ずかしくないの!?」 「てめぇ! 言わせておけば!」  メイリアの台詞に男たちは険しい顔をして怒鳴る。 「嬢ちゃん、大人をなめたら痛い目に合うぜ」  男たちはそれぞれ獲物である剣の柄に手をかけ刃を引き抜いた。 「やるっていうの? 受けて立つわ」  やる気満々なメイリアに対し、ジャズは慌てて彼女に駆け寄り無茶だと言い聞かせる。 「あんな場面見せられて止めないわけにはいかないじゃない! 別にいいわよ、私一人でもやるから」  しかしメイリアは引く気がない。ブラッドベアの時と同じ展開だとジャズは頭を抱え、仕方がないと剣を抜く。 「あなたは下がってて」 「あ、はい」  メイリアに言われたとおり、少女はジャズたちから距離を取る。 「オラァ!」  バンダナの男はメイリアを、頬に傷のある男はジャズを狙い襲い掛かる。  メイリアは相手から放たれた斬撃をかわす。バンダナの男はすかさず二撃目を入れるがメイリアはそれを寸でのところでかわした。  その後もバンダナの男は相手に反撃の隙を与えないように剣を振るうがことごとくかわされた。 「くそっ、うろちょろしやがって!」  バンダナの男は攻撃が当たらないことに腹を立てチッと舌を打つ。  だが、攻撃をかわしているうちにメイリアは建物の壁へと追いやられていた。 「へっ、追い詰めたぞ嬢ちゃん」  バンダナの男は勝利を確信しニヤリと笑う。 「それはどうかしら?」  しかしメイリアも口角を上げて男を見る。 「くたばんなぁ!」  その態度に癪が触った男はメイリアめがけて全力で剣を振るった。 「な、に?」  だがその直後、目の前からメイリアの姿が消えたのだ。 「どこにいっ……?! ガッ!」  どこに行ったのかとバンダナの男が後ろを振り向くのと彼の顔面にメイリアのつま先がめり込むのはほぼ同時だった。  その衝撃に、男は地面に仰向けに倒れそのまま気を失ってしまうのだった。  一方、ジャズは相手である頬に傷のある男に苦戦していた。 「オラオラどぉしたぁ!」  彼の斬撃をジャズは何とかかわしていくが、全てをかわすことができず、かわし斬れない場合は剣や盾で受け止める。だが、相手の攻撃はパワーがありジャズには何度も受け止めることはできない。  これ以上戦闘を長引かせるのは危険だと判断したジャズは一気に勝負を決めようと相手から急いで距離を取り強化魔法を発動する。殺すわけにはいかないので盾で殴ろうと構えると頬傷の男めがけ突撃する。  赤い光を放った状態で相手めがけて盾を振るう。しかしそれは相手には届くことはなかった。ジャズの攻撃を受け止めた頬傷の男はジャズと同じく赤い光を放っていたのだ。 「お前、強化魔法が使えるらしいが残念だったな! 俺も使えんだよ!」  魔法を主として戦う者は魔導師と呼ばれているが、基本的に魔導師へとなれるのは生まれついて大量の魔力を持つ者か幼少の頃から修行を重ねた者であり、その数は決して多くはない。 しかし、僅かの魔力を持ちそれを使い、瞬間的に身体能力を強化して戦う者は数多い。ジャズもその中の一人にすぎないのだ。  頬傷の男はジャズの腹めがけ膝蹴りを放つ。  相手の蹴りをまともにくらったジャズは勢いよく飛ばされ、腹部への圧迫と衝撃で咳き込みえずく。  頬傷の男は嘲笑いながらジャズへと近づく。 「へっへっへ、こいつでとどめだ!」 「! ジャズ!」  ジャズに止めを刺そうと男は剣を振り上げる。ジャズの危機に気づいたメイリアは急いで走り出すも彼のいる場所とは少し距離が離れすぎており間に合いそうにない。  ジャズに刃が下されそうになるその時、男の真横から風が吹く。 「!? なに!」  凄まじい風圧が頬傷の男を襲ったかと思えば、男はそのまま勢いよく吹き飛ばされ建物の壁へと叩きつけられ気絶するのだった。 「なに、今の……?」  突然の事態に呆然とするメイリア。痛みの引いたジャズは体を起こす。  いったい何が起こったのかと二人が突風の吹いた方向を見れば、そこには杖を掲げた少女の姿があった。